今回は、国外に転出した後に有価証券を売却した場合等の調整計算を確認してみましょう。
国外に転出すると課税される場合がある。
日本国内に住所や居所がある居住者が、日本国内に住所や居所がなくなる時に
有価証券を持っていると、有価証券を売却したものとして所得税を計算する特例があります。国外転出時課税といいます。
未決済の信用取引等やデリバティブ取引の契約を締結している場合も国外転出時課税の対象となります。
ただし、例外があり、
・有価証券
・未決済の信用取引等
・未決済のデリバティブ取引
の合計額が1億円未満となる場合は、国外転出時課税の対象から外れます。
今回は、国外転出時課税で所得税を計算した後、実際に有価証券の売却や未決済の取引を決済した場合を確認してみましょう。
実際に売却や決済した場合
国外転出時課税の対象者が、国外転出時課税の対象となった有価証券を売却した場合は、国外転出時に計算した金額で取得しなおしたものとして、有価証券の売却損益を計算する必要があります。
例えば、次の金額で確認してみましょう。
・有価証券を買った金額 100万円
・国外転出時の金額 150万円
・実際に売却した金額 220万円
国外転出時課税の対象となる場合は、国外転出時に有価証券を売却したものとして所得税を計算しますので、国外転出時の売却益は、
150万円(国外転出時の金額)-100万円(買った金額)=50万円となります。
この後、有価証券を実際に売却した場合は、国外転出時に取得しなおしたものとして計算しますので、売却益は120万円ではなく、
220万円(売却した金額)-150万円(再取得の金額)=70万円となります。
信用取引等やデリバティブ取引を決済した場合は、決済時に生じた利益や損失(実際の決済損益)から国外転出時に計算した利益をマイナスします。国外転出時に計算した損失についてはプラスします。
3つの例外
上記の調整計算については、3つの例外があります。
例外に該当する場合は、調整計算の対象外です。
1つ目
国外転出した日の年分の所得税について、確定申告書の提出や所得税の決定がされていない場合
2つ目
確定申告書を提出しているが、収入金額の計算が考慮されていない場合
(注)所得税基本通達60の2-10(総収入金額に算入されていない対象資産)の中で、「国外転出の日の属する年分の所得税につき確定申告書の提出はしているものの、同条第1項から第3項までの規定の適用を受ける対象資産に係る国外転出時の価額等の全部又は一部が、譲渡所得等に係る総収入金額に算入されていないものをいうことに留意する。」とあり、国外転出時課税の対象外となる有価証券のことではなく、国外転出時課税の対象となる有価証券について、収入金額の計算がされていないという意味なのでしょう。
3つ目
他の特例(第6項と第7項)の対象となる場合
(例えば、国外転出の日から5年以内に帰国する場合)
参考規定
実際に有価証券等を売却した場合などの調整計算
4 国外転出の日の属する年分の所得税につき前三項(第八項(第九項において準用する場合を含む。第一号において同じ。)又は第十項の規定により適用する場合を含む。)の規定の適用を受けた個人(その相続人を含む。)が、当該国外転出の時に有していた有価証券等又は契約を締結していた未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引の譲渡(これに類するものとして政令で定めるものを含む。第八項において同じ。)又は決済をした場合における事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、次に定めるところによる。ただし、同日の属する年分の所得税につき確定申告書の提出及び決定がされていない場合における当該有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引、同日の属する年分の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上第一項各号、第二項各号又は前項各号に掲げる場合の区分に応じ第一項各号、第二項各号又は前項各号に定める金額が総収入金額に算入されていない有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引並びに第六項本文(第七項の規定により適用する場合を含む。)の規定の適用があつた有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引については、この限りでない。
所得税法第60条の2第4項、施行日令和6年6月12日
一 その有価証券等については、第一項各号に定める金額(第八項の規定により第一項の規定の適用を受けた場合には、当該有価証券等の第八項に規定する譲渡に係る譲渡価額又は限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額)をもつて取得したものとみなす。
二 その未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引の決済があつた場合には、当該決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額(以下この号において「決済損益額」という。)から当該未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る第二項各号若しくは前項各号に定める利益の額に相当する金額を減算し、又は当該決済損益額に当該未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る第二項各号若しくは前項各号に定める損失の額に相当する金額を加算するものとする。