所得税の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算_売却や決済しなかった場合


今回は、所得税の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算のうち、売却や決済しなかった場合を確認してみましょう。

売却や決済した場合

以前、所得税の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算について確認しました。

参考リンク
所得税の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算
所得税の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算_7つの要件

国外転出時課税の対象となった有価証券等を、納税が猶予される特例が終わる基準日(原則5年)までに
・有価証券等の売却
・未決済の信用取引等の決済
・未決済のデリバティブ取引の決済
・贈与
・限定承認の相続
・包括遺贈の限定承認の遺贈
があった場合に、国外転出時課税を計算した時の価額より値下がりしているときは、所得税が再計算できます。

上記の特例は、基準日までに有価証券等を売却していない場合は使えません。実際に売却していないけど、値下がりしている場合は再計算できないのかといいますと、再計算ができます。別の特例が用意されています。

売却や決済しなかった場合

今回確認する内容は、売却や決済した場合の特例とほとんど変わりません。

1、対象者

・所得税の国外転出時課税の対象となっている。
・所得税の国外転出時課税の納税の猶予を受けている。
上記2つにあてはまる人が対象者です。

対象者には、納税猶予の延長を受けている人と相続人を含みます。

2、要件
国外転出の日から5年を経過する日に値下がりが発生している。

値下がりの要件は、全部で7つあります。
1、有価証券等の価値が下がった。
2、未決済の信用取引等の利益が減った。
3、未決済の信用取引等の損失が増えた。
4、未決済の信用取引等の利益が損失に変わった。
5、未決済のデリバティブ取引の利益が減った。
6、未決済のデリバティブ取引の損失が増えた。
7、未決済のデリバティブ取引の利益が損失に変わった。

再計算の内容

上記の要件を満たしている場合、国外転出時課税の規定を読み替えることが可能です。

実際に読み替えてみましょう。
(太文字が読替後)

1、有価証券等の売却

(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
第六十条の二 国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいう。以下この条において同じ。)をする居住者が、その国外転出の時において有価証券又は第百七十四条第九号(内国法人に係る所得税の課税標準)に規定する匿名組合契約の出資の持分(株式を無償又は有利な価額により取得することができる権利を表示する有価証券で第百六十一条第一項(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得を生ずべきものその他の政令で定める有価証券を除く。以下この条から第六十条の四まで(外国転出時課税の規定の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例)において「有価証券等」という。)を有する場合には、その者の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その国外転出の時に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額により、当該有価証券等の譲渡があつたものとみなす。
一 当該国外転出をする日の属する年分の確定申告書の提出の時までに国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をした場合、同項の規定による納税管理人の届出をしないで当該国外転出をした日以後に当該年分の確定申告書を提出する場合又は当該年分の所得税につき決定がされる場合 当該国外転出の日から五年を経過する日(その者が第百三十七条の二第二項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けている場合にあつては、十年を経過する日)における当該有価証券等の価額に相当する金額
二 前号に掲げる場合以外の場合 当該国外転出の日から五年を経過する日(その者が第百三十七条の二第二項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けている場合にあつては、十年を経過する日)における当該有価証券等の価額に相当する金額

2、未決済の信用取引等

2 国外転出をする居住者が、その国外転出の時において決済していない金融商品取引法第百五十六条の二十四第一項(免許及び免許の申請)に規定する信用取引又は発行日取引(有価証券が発行される前にその有価証券の売買を行う取引であつて財務省令で定める取引をいう。)(以下この条から第六十条の四までにおいて「未決済信用取引等」という。)に係る契約を締結している場合には、その者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その国外転出の時に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額の利益の額又は損失の額が生じたものとみなす。
一 前項第一号に掲げる場合 当該国外転出の日から五年を経過する日(その者が第百三十七条の二第二項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けている場合にあつては、十年を経過する日)に当該未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額
二 前項第二号に掲げる場合 当該国外転出の日から五年を経過する日(その者が第百三十七条の二第二項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けている場合にあつては、十年を経過する日)に当該未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額

3、未決済のデリバティブ取引

3 国外転出をする居住者が、その国外転出の時において決済していない金融商品取引法第二条第二十項(定義)に規定するデリバティブ取引(以下この条から第六十条の四までにおいて「未決済デリバティブ取引」という。)に係る契約を締結している場合には、その者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その国外転出の時に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額の利益の額又は損失の額が生じたものとみなす。
一 第一項第一号に掲げる場合 当該国外転出の日から五年を経過する日(その者が第百三十七条の二第二項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けている場合にあつては、十年を経過する日)に当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額
二 第一項第二号に掲げる場合 当該国外転出の日から五年を経過する日(その者が第百三十七条の二第二項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けている場合にあつては、十年を経過する日)に当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額

読み替える前の規定は、国外転出の時の価額で計算する規定です。読み替えると、国外転出の日から5年(延長している場合は10年)を経過する日の価額で計算できるようになります。

参考規定

所得税の国外転出時課税の対象者が納税猶予を受けている場合の再計算
売却や決済しなかった場合

10 国外転出の日の属する年分の所得税につき第一項から第三項までの規定の適用を受けた個人で第百三十七条の二第一項の規定による納税の猶予を受けているもの(その相続人を含む。)が、同日から五年を経過する日(その者が同条第二項の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けている場合にあつては、十年を経過する日。以下この項において同じ。)においてその国外転出の時から引き続き有している有価証券等又は決済していない未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引が次に掲げる場合に該当するときにおける当該個人の当該国外転出の日の属する年分の所得税に係る第一項から第三項までの規定の適用については、これらの規定中「当該国外転出の時」とあり、「当該国外転出の予定日から起算して三月前の日(同日後に取得をした有価証券等にあつては、当該取得時)」とあり、「当該国外転出の予定日から起算して三月前の日(同日後に契約の締結をした未決済信用取引等にあつては、当該締結の時)」とあり、及び「当該国外転出の予定日から起算して三月前の日(同日後に契約の締結をした未決済デリバティブ取引にあつては、当該締結の時)」とあるのは、「当該国外転出の日から五年を経過する日(その者が第百三十七条の二第二項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けている場合にあつては、十年を経過する日)」とすることができる。
一 当該五年を経過する日における当該有価証券等の価額に相当する金額が当該国外転出の時における第一項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める価額に相当する金額を下回るとき。
二 当該五年を経過する日に当該未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額に相当する金額が、国外転出時みなし信用取引等利益額を下回るとき。
三 当該五年を経過する日に当該未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した損失の額に相当する金額(次号において「五年経過日みなし信用取引等損失額」という。)が、国外転出時みなし信用取引等損失額を上回るとき。
四 当該五年経過日みなし信用取引等損失額が生じた未決済信用取引等につき、国外転出時みなし信用取引等利益額が生じていたとき。
五 当該五年を経過する日に当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額に相当する金額が、国外転出時みなしデリバティブ取引利益額を下回るとき。
六 当該五年を経過する日に当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した損失の額に相当する金額(次号において「五年経過日みなしデリバティブ取引損失額」という。)が、国外転出時みなしデリバティブ取引損失額を上回るとき。
七 当該五年経過日みなしデリバティブ取引損失額が生じた未決済デリバティブ取引につき、国外転出時みなしデリバティブ取引利益額が生じていたとき。

おまけ、考えたところ

第8項の読替規定(実際に売却した場合等)と比較すると、読み替えているところが異なります。

第8項の場合は実際に売却した金額で再計算するため、計算方法が2つから1つに変わりますが、第10項の場合は2つの計算方法(第1号と第2号)を読み替えているため計算方法の数は変わりません。

計算方法の数は変わりませんが、2つの計算方法は同じと考えると計算方法は1つになります。

第8項の規定と第10項の規定は、いずれも納税猶予を受けていることが前提です。ということは、国外転出する時までに納税管理人の届出を行っているため、2つ目の計算方法(3月前の価額)により計算することはないと考えれば、読替後の表現が異なったとしても計算方法は1つ(売却時の価額や5年経過日の価額)だと考えられます。

参考規定

5年経過日の読替規定で読み替えたもの

2 法第六十条の二第二項第一号に規定する財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 法第六十条の二第二項に規定する信用取引(次号において「信用取引」という。)又は同項に規定する発行日取引(次号において「発行日取引」という。)の方法により有価証券の売付けをしている場合 その売付けをした有価証券(同条第一項に規定する国外転出(以下この条において「国外転出」という。)の時において決済されていないものに限る。)のその売付けに係る対価の額から当該国外転出の時において有している当該有価証券の次に掲げる有価証券の区分に応じそれぞれ次に定める金額に相当する金額(次号において「時価評価額」という。)に当該有価証券の数を乗じて計算した金額を控除した金額
イ 取引所売買有価証券(その売買が主として金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所(これに類するもので外国の法令に基づき設立されたものを含む。イにおいて「金融商品取引所」という。)の開設する市場において行われている有価証券をいう。イにおいて同じ。) 金融商品取引所において公表されたその法第六十条の二第十項に規定する五年を経過する日におけるその取引所売買有価証券の最終の売買の価格(公表された同日における最終の売買の価格がない場合には、公表された同日における最終の気配相場の価格とし、その最終の売買の価格及びその最終の気配相場の価格のいずれもない場合には、同日前の最終の売買の価格又は最終の気配相場の価格が公表された日でその法第六十条の二第十項に規定する五年を経過する日に最も近い日におけるその最終の売買の価格又はその最終の気配相場の価格とする。)
ロ 店頭売買有価証券(金融商品取引法第二条第八項第十号ハに規定する店頭売買有価証券をいう。ロにおいて同じ。)及び取扱有価証券(同法第六十七条の十八第四号(認可協会への報告)に規定する取扱有価証券をいう。ロにおいて同じ。) 同法第六十七条の十九(売買高、価格等の通知等)の規定により公表されたその法第六十条の二第十項に規定する五年を経過する日におけるその店頭売買有価証券又は取扱有価証券の最終の売買の価格(公表された同日における最終の売買の価格がない場合には、公表された同日における最終の気配相場の価格とし、その最終の売買の価格及びその最終の気配相場の価格のいずれもない場合には、同日前の最終の売買の価格又は最終の気配相場の価格が公表された日でその法第六十条の二第十項に規定する五年を経過する日に最も近い日におけるその最終の売買の価格又はその最終の気配相場の価格とする。)
ハ その他価格公表有価証券(イ及びロに掲げる有価証券以外の有価証券のうち、価格公表者(有価証券の売買の価格又は気配相場の価格を継続的に公表し、かつ、その公表する価格がその有価証券の売買の価格の決定に重要な影響を与えている場合におけるその公表をする者をいう。ハにおいて同じ。)によつて公表された売買の価格又は気配相場の価格があるものをいう。ハにおいて同じ。) 価格公表者によつて公表されたその法第六十条の二第十項に規定する五年を経過する日における当該その他価格公表有価証券の最終の売買の価格(公表された同日における最終の売買の価格がない場合には、公表された同日における最終の気配相場の価格とし、その最終の売買の価格及びその最終の気配相場の価格のいずれもない場合には、同日前の最終の売買の価格又は最終の気配相場の価格が公表された日でその法第六十条の二第十項に規定する五年を経過する日に最も近い日におけるその最終の売買の価格又はその最終の気配相場の価格とする。)
二 信用取引又は発行日取引の方法により有価証券の買付けをしている場合 その買付けをした有価証券(当該国外転出の時において決済されていないものに限る。)の時価評価額に当該有価証券の数を乗じて計算した金額から当該有価証券のその買付けに係る対価の額を控除した金額

所得税法施行規則第37条の2第項(読替後)、施行日令和6年12月2日

例外の読替え

3 前項の規定は、法第六十条の二第二項第二号に規定する財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額について準用する。この場合において、前項中「当該国外転出の日」とあるのは、「その法第六十条の二第二項第二号に規定する国外転出の予定日から起算して三月前の日」と読み替えるものとする。

所得税法施行規則第37条の2第3項、施行日令和6年12月2日

限定相続等の読替え

8 第二項の規定は、法第六十条の二第八項に規定する未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額若しくは損失の額に相当する金額、同項第二号に規定する財務省令で定めるところにより算出した利益の額に相当する金額及び同項第三号に規定する財務省令で定めるところにより算出した損失の額に相当する金額について準用する。この場合において、第二項中「当該国外転出の日」とあるのは、「その法第六十条の二第八項に規定する限定相続等に係る贈与の日又は相続の開始の日」と読み替えるものとする。

所得税法施行規則第37条の2第8項、施行日令和6年12月2日

5年経過日の読替え

10 第二項の規定は、法第六十条の二第十項第二号に規定する財務省令で定めるところにより算出した利益の額に相当する金額及び同項第三号に規定する財務省令で定めるところにより算出した損失の額に相当する金額について準用する。この場合において、第二項中「当該国外転出の日」とあるのは、「その法第六十条の二第十項に規定する五年を経過する日」と読み替えるものとする。

所得税法施行規則第37条の2第10項、施行日令和6年12月2日

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