所得税の賃上げ促進税制_中小事業者向けの税額控除の繰越し


今回は、所得税の賃上げ促進税制のうち
中小事業者向けの税額控除の繰越しを確認してみましょう。

所得税の取扱い

・前年の従業員に対する給料
・本年の従業員に対する給料
この2つを比較して増加(賃上げ)した部分に対して、
所得税を減らす特例を「賃上げ促進税制」といいます。

所得税の賃上げ促進税制については、次の3つの特例があります。
・全事業者向けの特例
・中堅事業者向けの特例
・中小事業者向けの特例
(法人税にも同様の特例があります。)

今回は、中小事業者向けの特例に追加された税額控除の繰越しを確認してみましょう。

税額控除の繰越し

賃上げ促進税制については、
・一定の方法で計算した給料の増加額×10%
の所得税の控除が可能です。

ただし、控除は、
・事業から生じた所得に対する所得税(調整前事業所得税額)×20%
が上限となっています。

調整前事業所得税額が少ない場合は、
給料を増やした場合であっても、
所得税の控除が制限されることになります。

例えば、調整前事業所得税額が0円の場合、控除の上限は0円(=0円×20%)となり、所得税の控除はできなくなります。

そのため、令和6年の改正で控除できなかった部分の繰越しが可能となりました。今回は、控除できなかった部分の繰越しを確認してみましょう。

繰越控除の内容

所得税の控除を繰り越す制度を「繰越控除」といいます。
繰越控除の要件は、次の3つです。

1、青色申告している個人事業者(事業を廃止した場合は除きます。)
2、本年の従業員給料が前年の従業員給料を超えている。
3、前年から控除できなかった部分(繰越税額控除限度超過額)がある。

繰越税額控除限度超過額は、
「中小事業者の税額控除の限度を超えた金額」をいいます。

繰越税額控除限度超過額は、5年間繰り越すことが可能です。
繰り越すためには、青色申告書を提出する必要があります。

金額を使って計算を確認してみましょう。
・中小事業者の税額控除限度額 100万円
・控除上限 20万円

税額控除限度額100万円>控除上限20万円となり、
控除できる金額は、少ない金額の20万円となります。

控除しきれない金額の80万円が繰越税額控除限度超過額となります。

繰越控除についても、
・事業から生じた所得に対する所得税(調整前事業所得税額)×20%
の控除上限があります。

本年分の控除と繰越控除がある場合は、
先に本年分の控除を計算し、後で繰越控除を計算します。

例えば、次の場合
・繰越控除(前年以前に控除できなかった部分) 80万円
・本年分の税額控除限度額 100万円
・控除上限 150万円

1、本年分の計算
本年分の税額控除限度額100万円<控除上限150万円となり、
控除額は、少ない金額の100万円となります。
控除上限は、150万円-100万円=50万円に減ります。

2、繰越控除の計算
繰越控除80万円>控除上限50万円となり、
控除額は、少ない金額の50万円となります。
繰越控除80万円-控除額50万円=残り30万円は、
本年に控除できないため翌年以後に繰り越されます。

参考規定

繰越税額控除限度超過額の繰越し

4 青色申告書を提出する個人の各年(事業を廃止した日の属する年を除く。)において当該個人の雇用者給与等支給額がその比較雇用者給与等支給額を超える場合において、当該個人が繰越税額控除限度超過額を有するときは、その年分の総所得金額に係る所得税の額から、政令で定めるところにより、当該繰越税額控除限度超過額に相当する金額を控除する。この場合において、当該個人のその年における繰越税額控除限度超過額が当該個人のその年分の調整前事業所得税額の百分の二十に相当する金額(その年において前三項の規定によりその年分の総所得金額に係る所得税の額から控除される金額がある場合には、当該金額を控除した残額)を超えるときは、その控除を受ける金額は、当該百分の二十に相当する金額を限度とする。

租税特別措置法第10条の5の4第4項、施行日令和6年10月1日

繰越税額控除限度超過額

十一 繰越税額控除限度超過額 個人の適用年の前年以前五年内の各年(当該適用年まで連続して青色申告書を提出している場合の各年に限る。)における中小事業者税額控除限度額のうち、第三項の規定による控除をしてもなお控除しきれない金額(既に前項の規定により当該適用年の前年以前四年内の各年分の総所得金額に係る所得税の額から控除された金額がある場合には、当該金額を控除した残額)の合計額をいう。

租税特別措置法第10条の5の4第5項第11号、施行日令和6年10月1日

PAGE TOP