今回は、欠損金の通算の遮断措置の不適用のうち、「自社の金額に誤りがある場合の被配賦欠損金控除額と配賦欠損金控除額」を確認します。
2回に分けて確認します。今回は1回目です。
目次
遮断措置の不適用の趣旨
損益通算の遮断措置は、グループ全体の再計算を止めるための規定です。
遮断措置の不適用は、再計算の停止による不合理を防止するための規定です。
これらの規定と同じで、欠損金の通算の遮断措置の不適用も、
再計算の停止による不合理を防止するための規定です。
遮断措置が不適用となる3要件
下記3つの要件のいずれか1つを満たす場合は、
欠損金の通算を再計算します。
1、その適用事業年度の再計算した損金算入限度額が
当初申告損金算入限度額と異なる場合
2、各対応事業年度の再計算した欠損金額若しくは特定欠損金額が
当初申告欠損金額若しくは当初申告特定欠損金額と異なる場合
3、各10年内事業年度の再計算した特定損金算入限度額若しくは非特定損金算入限度額が当初申告特定損金算入限度額若しくは当初申告非特定損金算入限度額と
異なる場合
再計算した金額と1回目に計算した金額が異なる場合です。
再計算した金額 | 1回目に計算した金額 |
---|---|
損金算入限度額 | 当初申告損金算入額 |
欠損金額 特定欠損金額 | 当初申告欠損金額 当初申告特定欠損金額 |
特定損金算入限度額 非特定損金算入限度額 | 当初申告特定損金算入限度額 当初申告非特定損金算入限度額 |
欠損金の通算については、再計算が前提です。
再計算する場合の損金算入額(1号)
法人税法57条1項の規定による損金算入額は、原則に関係なく、
次の金額の合計額となります。
欠損金の損金算入額=1号+2号
1号は、被配賦欠損金控除額の合計額を規定しています。
一 当該適用事業年度の当初申告損金算入限度額を当該適用事業年度の損金算入限度額とみなし、かつ、当該適用事業年度に係る各対応事業年度の当初申告欠損金額及び当初申告特定欠損金額並びに当該適用事業年度に係る各十年内事業年度に係る当初申告特定損金算入限度額及び当初申告非特定損金算入限度額をそれぞれ当該各対応事業年度において生じた欠損金額及び特定欠損金額並びに当該各十年内事業年度に係る特定損金算入限度額及び非特定損金算入限度額とみなした場合における各十年内事業年度に係る被配賦欠損金控除額(第一項第二号ハに掲げる金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額をいう。)の合計額
法人税法64条の7第5項1号
1、その適用事業年度の当初申告損金算入限度額を
その適用事業年度の損金算入限度額とみなす。
当初申告の損金算入限度額を修正後の損金算入限度額とみなします。
損金算入限度額は、当初申告の金額で固定します。
2、その適用事業年度に係る各対応事業年度の
「当初申告欠損金額及び当初申告特定欠損金額」並びに
その適用事業年度に係る各十年内事業年度に係る
「当初申告特定損金算入限度額及び当初申告非特定損金算入限度額」を
それぞれその各対応事業年度において生じた
「欠損金額及び特定欠損金額」並びに
その各十年内事業年度に係る
「特定損金算入限度額及び非特定損金算入限度額」とみなした場合における
各十年内事業年度に係る被配賦欠損金控除額(第一項第二号ハに掲げる金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額をいう。)の合計額
表でまとめます。
当初申告 | 再計算した金額 |
---|---|
当該適用事業年度に係る各対応事業年度の | それぞれ当該各対応事業年度において生じた |
当初申告欠損金額及び当初申告特定欠損金額 | 欠損金額及び特定欠損金額 |
並びに | 並びに |
当該適用事業年度に係る 各十年内事業年度に係る | 当該各十年内事業年度に係る |
当初申告特定損金算入限度額及び当初申告非特定損金算入限度額を | 特定損金算入限度額及び非特定損金算入限度額とみなした場合 |
再計算により欠損金額などが変わりますが、
1回目に計算した金額で固定した場合の
被配賦欠損金控除額(注)の合計額です。
(注)被配賦欠損金控除額=
第1項2号ハ(非特定欠損金配賦額)×非特定損金算入割合
配賦された欠損金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した欠損金額です。
当初申告で損金算入した金額となります。
1回目の計算で、欠損金の通算により非特定欠損金額を受け渡しします。
自社の金額に誤りがある場合、全体再計算すると他社の再計算もなるため、
他社から受け取った非特定欠損金額(うち損金算入した部分の被配賦欠損金控除額)については、そのまま損金算入する規定なのでしょうね。
再計算する場合の損金算入額(2号)
欠損金の損金算入額=1号+2号
2号は、再計算する損金算入額を規定しています。
二 イに掲げる金額をないものと、ロに掲げる金額を当該通算法人の当該適用事業年度の損金算入限度額とし、かつ、第一項第二号及び第三号の規定を適用しないものとした場合に第五十七条第一項の規定により当該適用事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額
法人税法64条の7第5項2号
1、イの金額はないものとします。
2、ロの金額を損金算入限度額とします。その上で当初の期首欠損金額(第1項2号)と当初の損金算入限度額(1項3号)を適用しないで計算した欠損金の繰越し(法人税法57条1項)で計算した損金算入額
損金算入限度額は再計算しますが、自社だけで再計算します。
自社だけで再計算するため、
欠損金の通算に関する規定(第1項2号と3号)を適用できません。
その上で通常の欠損金の繰越しを適用して損金算入額を再計算します。
ないものとする金額(2号イ)
イ 当該適用事業年度に係る各対応事業年度において生じた欠損金額のうち、当該適用事業年度の当初申告損金算入限度額を当該適用事業年度の損金算入限度額とみなし、かつ、当該各対応事業年度の当初申告欠損金額及び当初申告特定欠損金額並びに当該適用事業年度に係る各十年内事業年度に係る当初申告特定損金算入限度額及び当初申告非特定損金算入限度額をそれぞれ当該各対応事業年度において生じた欠損金額及び特定欠損金額並びに当該各十年内事業年度に係る特定損金算入限度額及び非特定損金算入限度額とみなした場合における当該各対応事業年度に係る配賦欠損金控除額(第一項第二号ニに掲げる金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額をいう。)
法人税法64条の7第5項2号イ
1、その適用事業年度に係る各対応事業年度において生じた欠損金額のうち、
その適用事業年度の当初申告損金算入限度額を
当該適用事業年度の損金算入限度額とみなします。
当初申告の損金算入限度額を
修正後の損金算入限度額とみなします。
損金算入限度額は、当初申告の金額で固定します。
2、その各対応事業年度の当初申告欠損金額及び当初申告特定欠損金額並びに
その適用事業年度に係る各十年内事業年度に係る当初申告特定損金算入限度額及び当初申告非特定損金算入限度額をそれぞれその各対応事業年度において生じた欠損金額及び特定欠損金額並びにその各十年内事業年度に係る特定損金算入限度額及び非特定損金算入限度額とみなした場合における当該各対応事業年度に係る配賦欠損金控除額(第一項第二号ニに掲げる金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額をいう。)
先ほど見た規定と似ています。
同じように並び替えます。
当初申告 | 再計算した金額 |
---|---|
その各対応事業年度の | それぞれその各対応事業年度において生じた |
当初申告欠損金額及び当初申告特定欠損金額 | 欠損金額及び特定欠損金額 |
並びに | 並びに |
その適用事業年度に係る各十年内事業年度に係る | その各十年内事業年度に係る |
当初申告特定損金算入限度額及び当初申告非特定損金算入限度額を | 特定損金算入限度額及び非特定損金算入限度額とみなした場合 |
1号と同じで、再計算により欠損金額などが変わりますが、
当初申告の欠損金額などで固定します。
この固定した場合における配賦欠損金控除額(注)です。
(注)配賦欠損金控除額=
第1項2号ニの(配賦欠損金額)×非特定損金算入割合
被配賦欠損金控除額は、当初申告で配賦された欠損金の損金算入額を固定するのに対し、この配賦欠損金控除額は繰越欠損金がないものとします。
被配賦欠損金控除額は合計額ですが、配賦欠損金控除額は合計額ではありません。なぜかと考えてみると、受け取る欠損金額は自社から見て複数あるのに対して、渡す欠損金額は自社しかないからでしょうか。
遮断措置と遮断措置の不適用の違い
遮断措置の規定(法人税法64条の7第4項)は、
金額に誤りがある法人ではなく、金額に誤りがない法人が適用するものです。
遮断措置の不適用の規定(法人税法64条の7第5項)は、
金額に誤りがある法人が適用するものです。
例えば、P社、S1社、S2社の通算法人のうちS1社だけが計算を間違えた場合は、欠損金の通算により、P社とS2社の金額が連動して変わります。
この場合、P社とS2社の再計算を止める規定が遮断措置(4項)です。
S1社の再計算を止めない規定が遮断措置の不適用(5項)です。
遮断措置の不適用(5項)の中にも、
当初申告の金額で固定する部分(再計算なし)と
当初申告の金額で固定しない部分(再計算あり)があります。
5項の全体像は下記のとおりです。
今回は、2号のイまで確認しました。
次回は、2号のロを確認します。
5項、遮断措置の不適用
一定の要件を満たす場合には、損金算入される欠損金額は、
原則に関係なく、次の金額の合計額とする。
1号、被配賦欠損金控除額の合計額
2号
イの金額(配賦欠損金控除額)はないものとする。
→ 今回はここまで確認しました。
ロの金額を損金算入限度額とする。
欠損金の通算の規定を適用しないで計算した欠損金の繰越しによる損金算入額
→ 次回確認します。
参考規定
損益通算の遮断措置の不適用についてはこちら。
欠損金の通算の遮断措置についてはこちら。
規定の構造を確認すると
AがBと異なり、CがDと異なり又はEがFと異なる場合には、
欠損金の繰越しの規定による損金の額に算入される欠損金額は、
原則に関係なく、次の金額の合計額(1号+2号)とする。
AがBと異なり、CがDと異なり「又は」EがFと異なる場合には、
とあるため、3つの要件のうちいずれか1つでも満たす場合、再計算します。
下記規定(法人税法64条の7第5項)を確認しました。
5 通算法人の適用事業年度の損金算入限度額が当該適用事業年度の当初申告損金算入限度額(当該適用事業年度の第七十四条第一項の規定による申告書に添付された書類に当該適用事業年度の損金算入限度額として記載された金額をいう。以下この項において同じ。)と異なり、当該適用事業年度に係る各対応事業年度において生じた欠損金額若しくは特定欠損金額が当初申告欠損金額若しくは当初申告特定欠損金額(それぞれ当該申告書に添付された書類に当該各対応事業年度において生じた欠損金額又は特定欠損金額として記載された金額をいう。以下この項において同じ。)と異なり、又は当該適用事業年度に係る各十年内事業年度に係る特定損金算入限度額若しくは非特定損金算入限度額が当初申告特定損金算入限度額若しくは当初申告非特定損金算入限度額(それぞれ当該申告書に添付された書類に当該各十年内事業年度に係る特定損金算入限度額又は非特定損金算入限度額として記載された金額をいう。以下この項において同じ。)と異なる場合には、第五十七条第一項の規定により当該適用事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される欠損金額は、第一項の規定にかかわらず、次に掲げる金額の合計額とする。
一 当該適用事業年度の当初申告損金算入限度額を当該適用事業年度の損金算入限度額とみなし、かつ、当該適用事業年度に係る各対応事業年度の当初申告欠損金額及び当初申告特定欠損金額並びに当該適用事業年度に係る各十年内事業年度に係る当初申告特定損金算入限度額及び当初申告非特定損金算入限度額をそれぞれ当該各対応事業年度において生じた欠損金額及び特定欠損金額並びに当該各十年内事業年度に係る特定損金算入限度額及び非特定損金算入限度額とみなした場合における各十年内事業年度に係る被配賦欠損金控除額(第一項第二号ハに掲げる金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額をいう。)の合計額
二 イに掲げる金額をないものと、ロに掲げる金額を当該通算法人の当該適用事業年度の損金算入限度額とし、かつ、第一項第二号及び第三号の規定を適用しないものとした場合に第五十七条第一項の規定により当該適用事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額
イ 当該適用事業年度に係る各対応事業年度において生じた欠損金額のうち、当該適用事業年度の当初申告損金算入限度額を当該適用事業年度の損金算入限度額とみなし、かつ、当該各対応事業年度の当初申告欠損金額及び当初申告特定欠損金額並びに当該適用事業年度に係る各十年内事業年度に係る当初申告特定損金算入限度額及び当初申告非特定損金算入限度額をそれぞれ当該各対応事業年度において生じた欠損金額及び特定欠損金額並びに当該各十年内事業年度に係る特定損金算入限度額及び非特定損金算入限度額とみなした場合における当該各対応事業年度に係る配賦欠損金控除額(第一項第二号ニに掲げる金額に非特定損金算入割合を乗じて計算した金額をいう。)
ロ 当該通算法人の当該適用事業年度の損金算入限度額((1)に掲げる金額がある場合には当該金額を加算した金額とし、(2)に掲げる金額がある場合には当該金額を控除した金額とする。)から前号に掲げる金額を控除した金額
(1) 当初損金算入超過額((i)に掲げる金額が(ii)に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)
(i) 当該申告書に添付された書類に第五十七条第一項の規定により当該適用事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額として記載された金額
(ii) 当該通算法人の当該適用事業年度の当初申告損金算入限度額(2) 当初損金算入不足額((1)(i)に掲げる金額が(1)(ii)に掲げる金額に満たない場合におけるその満たない部分の金額をいう。(2)において同じ。)に損金算入不足割合(他の当初損金算入超過額(他の通算法人の(i)に掲げる金額が当該他の通算法人の(ii)に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)の合計額が当初損金算入不足額及び他の当初損金算入不足額(他の通算法人の(i)に掲げる金額が当該他の通算法人の(ii)に掲げる金額に満たない場合におけるその満たない部分の金額をいう。)の合計額のうちに占める割合(当該合計額が零である場合には、零)をいう。)を乗じて計算した金額
法人税法64条の7第5項
(i) 第五十七条第一項の規定により他の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額(前項の規定により損金の額に算入される金額とみなされる金額がある場合には、そのみなされる金額)
(ii) 他の事業年度の損金算入限度額(前項の規定により損金算入限度額とみなされる金額がある場合には、そのみなされる金額)