今回は、法人税の経過リース資産の取扱いを確認してみましょう。
経過リース資産
先に規定を確認してみましょう。
(規定は最後に掲載しています。)
・施行令第48条の2第5項第4号に規定する「リース資産」
・施行令第48条の2第5項第5号に規定する「所有権移転外リース取引」
・令和9年3月31日「以前」に締結された契約
・残価保証額が含まれているものに「限る」
上記4つを満たすものを「経過リース資産」といいます。
リース資産の定義を確認してみましょう。
四 リース資産 所有権移転外リース取引に係る賃借人が取得したものとされる減価償却資産をいう。
「所有権移転外リース取引に係る」とありますので、
・所有権が移転するリース取引
・リース取引に該当しない賃貸借取引(オペレーティングリース)
は、関係ありません。
残価保証額の定義も確認してみましょう。
六 残価保証額 リース期間終了の時にリース資産の処分価額が所有権移転外リース取引に係る契約において定められている保証額に満たない場合にその満たない部分の金額を当該所有権移転外リース取引に係る賃借人がその賃貸人に支払うこととされている場合における当該保証額をいう。
金額を使って確認してみましょう。
例えば、次の場合
・リース期間が終わった時点の車両の売却金額 100万円
・契約の保証額 150万円
車両の売却金額(100万円)が
保証額(150万円)に満たない部分の金額は、
150万円-100万円=50万円です。
保証額に満たない50万円については、車両を借りている人が
貸している人に支払う(保証する)必要があります。
経過リース期間定額法
経過リース資産については、「経過リース期間定額法」が選択できます。選択する場合は、確定申告書の提出期限までに届出書の提出が必要となりますので留意しましょう。
経過リース期間定額法の計算方法は、第2項のカッコ書きに規定されています。
算式で示します。
償却限度額=
経過リース資産の改定取得価額÷改定リース期間の月数
×事業年度における当該改定リース期間の月数
改定取得価額と改定リース期間は、第4項に規定されています。
改定取得価額は、
経過リース資産の適用を受ける
最初の事業年度が始まった時の取得価額-過去に損金算入した金額
(=期首の帳簿価額)をいいます。
例えば、次の場合で計算してみましょう。
・経過リース資産の取得価額 1200万円
・残価保証額 200万円
・過去の損金算入額 400万円
・リース期間 5年
残価保証額を考慮する場合の計算
・取得価額1200万円-残価保証額200万円=1000万円÷5年=200万円
・2年計算した場合、200万円×2年=400万円
取得価額(1200万円)-損金算入額(400万円)
=改定取得価額(800万円)となります。
改定リース期間は、
経過リース資産の適用を受ける
最初の事業年度が始まった日以後の期間をいいます。
上記の例だと、リース期間が5年で2年間計算が済んでいますので、
改定リース期間は3年となります。
実際に計算してみましょう。
経過リース資産の改定取得価額 800万円
÷改定リース期間の月数 36月
×事業年度における改定リース期間の月数 12月
=約266.7万円となります。
原則は残価保証額を考慮して償却限度額を計算する必要がありますが、届出書を提出した場合、残価保証額を含めた期首の帳簿価額を残りのリース期間で均等に償却できるようになります。
参考規定など
経過リース資産の取扱い
2 法人税法施行令第四十八条の二第五項第四号に規定するリース資産のうち当該リース資産についての同項第五号に規定する所有権移転外リース取引に係る契約が令和九年三月三十一日以前に締結されたもの(その取得価額(同令第五十四条第一項各号の規定により計算した取得価額をいう。第四項において同じ。)に同令第四十八条の二第五項第六号に規定する残価保証額に相当する金額が含まれているものに限る。以下この条において「経過リース資産」という。)については、当該経過リース資産を有する法人の施行日以後に開始する事業年度において、新令第四十八条の二第一項第六号に定める償却の方法に代えて、経過リース期間定額法(当該経過リース資産の改定取得価額を改定リース期間の月数で除して計算した金額に当該事業年度における当該改定リース期間の月数を乗じて計算した金額を各事業年度の法人税法施行令第四十八条第一項に規定する償却限度額として償却する方法をいう。以下この条において同じ。)を選定することができる。ただし、本文の規定の適用を受けようとする法人が、経過リース期間定額法を採用しようとする事業年度において有する経過リース資産のいずれかについてそのよるべき償却の方法として経過リース期間定額法を選定しない場合は、この限りでない。
法人税法施行令附則(令和七年三月三一日政令第一二一号)抄第7条第2項
ただし書きの内容
経過リース資産の経過措置を適用する場合は、
全ての経過リース資産について、経過措置を適用する必要があります。
(一部の経過リース資産にだけ経過措置を適用できない。)
届出書の提出が必要
3 前項本文の規定の適用を受けようとする法人は、経過リース期間定額法を採用しようとする事業年度(令和九年三月三十一日後最初に開始する事業年度以前の事業年度に限る。)に係る法人税法第七十四条第一項又は第百四十四条の六第一項若しくは第二項の規定による申告書の提出期限(当該採用しようとする事業年度に係る同法第七十二条第一項又は第百四十四条の四第一項若しくは第二項に規定する期間(当該法人が通算子法人である場合には、同法第七十二条第五項第一号に規定する期間)について同法第七十二条第一項各号又は第百四十四条の四第一項各号若しくは第二項各号に掲げる事項を記載した中間申告書を提出する場合には、その中間申告書の提出期限)までに、前項本文の規定の適用を受けようとする経過リース資産の法人税法施行令第四十八条の四第二項に規定する資産の種類その他財務省令で定める事項を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
法人税法施行令附則(令和七年三月三一日政令第一二一号)抄第7条第3項
届出書の提出期限について
令和9年3月31日後、最初に開始する事業年度
以前の事業年度
に係る法人税の確定申告書などの提出期限
ケース1、事業年度が令和8年4月1日-令和9年3月31日の場合
令和9年3月31日後、最初に開始する事業年度は、
令和9年4月1日-令和10年3月31日
以前の事業年度は、
・令和8年4月1日-令和9年3月31日
・令和9年4月1日-令和10年3月31日
の2つです。
ケース2、事業年度が令和8年10月1日-令和9年9月30日の場合
令和9年3月31日後、最初に開始する事業年度は、
令和9年10月1日-令和10年9月30日
以前の事業年度は、
・令和8年10月1日-令和9年9月30日
・令和9年10月1日-令和10年9月30日
の2つです。
3月末決算法人以外の法人については、
事業年度の途中に令和9年3月31日(令和9年4月1日)が到来します。
1つの事業年度で、
・残価保証額を残すリース資産
・残価保証額を残さないリース資産
の2つが混在するため、経過措置の期間が2つあるのかなと。
改定取得価額と改定リース期間の定義
4 第二項に規定する改定取得価額とは、同項本文の規定の適用を受ける経過リース資産の当該適用を受ける最初の事業年度開始の時(当該経過リース資産が当該最初の事業年度開始の時後に事業の用に供したものである場合には、当該事業の用に供した時)における取得価額(当該最初の事業年度の前事業年度までの各事業年度においてした償却の額(当該前事業年度までの各事業年度において法人税法施行令第四十八条第五項第三号に規定する評価換え等が行われたことによりその帳簿価額が減額された場合には、当該帳簿価額が減額された金額を含む。)で当該各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度(所得税法等の一部を改正する法律(令和二年法律第八号)第三条の規定による改正前の法人税法第十五条の二第一項に規定する連結事業年度をいう。)の連結所得(所得税法等の一部を改正する法律(令和二年法律第八号)第三条の規定による改正前の法人税法第二条第十八号の四に規定する連結所得をいう。)の金額の計算上損金の額に算入された金額がある場合には、当該金額を控除した金額)をいい、第二項に規定する改定リース期間とは、同項本文の規定の適用を受ける経過リース資産の同令第四十八条の二第五項第七号に規定するリース期間(当該経過リース資産が同号に規定するリース期間の中途において適格合併、適格分割又は適格現物出資以外の事由により移転を受けたものである場合には、当該移転の日以後の期間に限る。)のうち当該適用を受ける最初の事業年度開始の日以後の期間をいう。
法人税法施行令附則(令和七年三月三一日政令第一二一号)抄第7条第4項
取得価額のカッコ書き
取得価額から損金算入した償却費をマイナスします。
償却の額のカッコ書きで「税法上の評価換えによる帳簿価額の減額があった場合は、減額された金額を含む」とありますので、評価損は考慮されます。
取得価額 1000万円
減価償却費 200万円(評価損+200万円)
改定取得価額 1000万円-(200万円+200万円)=600万円
反対の帳簿価額の増額があった場合(評価益)については規定されていないため、加算しなくてもいいのか?と疑問が生じました。
取得価額 1000万円
減価償却費 200万円
評価益 200万円
1、改定取得価額 1000万円-200万円=800万円
2、改定取得価額 1000万円-200万円+200万円=1000万円
加算しないと、評価益200万円の部分だけ償却されずに残ります。
別の規定を確認しますと
6 第一項各号に掲げる減価償却資産につき評価換え等(第四十八条第五項第三号に規定する評価換え等をいう。)が行われたことによりその帳簿価額が増額された場合には、当該評価換え等が行われた事業年度後の各事業年度(当該評価換え等が同条第五項第四号に規定する期中評価換え等である場合には、当該期中評価換え等が行われた事業年度以後の各事業年度)においては、当該各号に定める金額に当該帳簿価額が増額された金額を加算した金額に相当する金額をもつて当該資産の第一項の規定による取得価額とみなす。
評価益によって帳簿価額が増加した場合は、
増加した後の金額が取得価額とみなされます。
資産(帳簿価額) 200万円 / 評価益 200万円
(取得価額1000万円+200万円=取得価額1200万円とみなす)
評価益の場合、別の規定で取得価額が増加します。
評価損の場合、経過措置で取得価額が減少します。