インボイスがない課税仕入れが10億円を超える場合と棚卸資産の調整


今回は、インボイスがない課税仕入れが10億円を超える場合と
棚卸資産の調整を確認してみましょう。

10億円を超える場合の読替規定

インボイスが入手できない課税仕入れについては、
原則として消費税の控除ができません。

ただし、一定期間中、
部分的な控除(80%控除・50%控除)が認められています。

令和6年度税制改正で、
インボイスがない課税仕入れの合計額が
10億円を超える部分については、
80%控除や50%控除が制限されることになりました。
(10億円の判定は、売り手ごとにします。)

10億円以下の部分については、
「控除対象課税仕入れ」として
80%控除や50%控除が引き続き可能となっています。

控除対象課税仕入れについて、
・仕入返還(仕入れの返品など)
・棚卸資産の調整
についても改正されますので、
今回は、棚卸資産の調整について確認してみましょう。

法案はこちら↓

4 事業者が、第一項の規定の適用を受ける控除対象課税仕入れを行った場合における新消費税法第三十二条及び第三十六条第五項の規定の適用については、新消費税法第三十二条第一項第一号中「金額及び」とあるのは「金額(当該仕入れに係る対価の返還等が所得税法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第十五号)附則第五十二条第一項の規定の適用を受ける同項の控除対象課税仕入れに係るものである場合には、当該金額に百分の八十を乗じて算出した金額)及び」と、新消費税法第三十六条第五項中「消費税額は」とあるのは「消費税額(当該課税仕入れに係る棚卸資産が所得税法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第十五号)附則第五十二条第一項の規定の適用を受けるものである場合には、当該消費税額に百分の八十を乗じて算出した金額)は」とする。

所得税法等の一部を改正する法律案
棚卸資産の調整

・免税事業者から課税事業者に変わる事業者
・課税事業者から免税事業者に変わる事業者
が期末時点で棚卸資産を所有している場合は、
棚卸資産の消費税の調整が必要となります。

棚卸資産に含まれる消費税について
消費税の控除にプラスしたり、マイナスしたり(調整)します。

10億円超の改正の影響があるのは、
・課税事業者から免税事業者に変わる事業者
となります。

免税事業者から課税事業者に変わる事業者については、
改正されていません。

結論は次の2つです。
・控除対象課税仕入れの部分については、棚卸資産の調整が必要
・10億円超の部分については、棚卸資産の調整が不要

留意点として、
・税率が混在する場合
・用途区分が必要な場合
について、個別に計算できない場合は、
合理的な按分計算(例えば課税仕入れの割合)が必要になります。

消費税法基本通達との関係

棚卸資産の調整については、
原則として個別計算が必要となりますが、
次の評価も可能です。
・先入先出法
・総平均法
・移動平均法
・最終仕入原価法
・売価還元法

関係通達

(課税事業者となった場合の棚卸資産の取得価額)
12-7-1 法第36条第1項《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》の規定により、課税事業者となった課税期間の課税仕入れ等の税額とみなされる消費税額は、当該課税期間の初日の前日において有する棚卸資産(以下12-7-1において「期末棚卸資産」という。)のうち免税事業者であった課税期間において取得したものについて、令第54条第1項《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産の取得価額》の規定により、個々の期末棚卸資産の課税仕入れ(特定課税仕入れを除く。以下12-7-1において同じ。)に係る支払対価の額の合計額により算出する。この場合において、事業者が当該個々の期末棚卸資産の課税仕入れに係る支払対価の額について、所法第47条又は法法第29条《棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法》の規定に基づく評価の方法(所法令第99条第1項第2号又は法法令第28条第1項第2号《低価法》に規定する低価法を除く。)により評価した金額としているときは、これを認める。(平27課消1-17、令2課消2-9により改正)

消費税法基本通達12-7-1

計算してみましょう。

軽減税率8%課税仕入れ
1回目、単価100円、3,000,000グラム、3億円
2回目、単価108円、3,000,000グラム、3.24億円
合計仕入高、3億円+3.24億円=6.24億円
期末在庫、1,000,000グラム

10%課税仕入れ
1回目、単価100円、3,000,000グラム、3億円
2回目、単価108円、3,000,000グラム、3.3億円
合計仕入高、3億円+3.3億円=6.3億円
期末在庫、1,000,000グラム

最終仕入原価法で計算すると期末在庫は
・軽減税率8%課税仕入れ、1,000,000グラム×108円=1.08億円
・10%課税仕入れ、1,000,000グラム×110円=1.1億円
となります。

10億円制限がない場合は、
・軽減税率8%部分、800万円
・10%部分、1000万円
合計1800万円の棚卸資産の調整が必要となります。

10億円の制限がかかると、期末在庫計算の前に
・10億円超の部分
・10億円以下の部分
を計算する必要が生じます。

控除対象課税仕入れの計算
6.24億円+6.3億円=12.54億円>10億円、少ない金額10億円
(10億円を超過する2.54億円は消費税の控除なし)

最終仕入原価法で計算した期末在庫は、1.08億円+1.1億円=2.18億円
10億円を超過する部分は、2.54億円

期末在庫全てについて消費税の控除をしていないと考えると
棚卸資産の調整は不要となります。

そうではなく、合理的な按分計算をする場合は、
棚卸資産の調整が必要となるでしょう。

消費税法基本通達の疑問点

消費税法基本通達12-7-1(上記の基本通達)を確認すると
「課税事業者となった場合の棚卸資産の取得価額」と記載されています。

「免税事業者となった場合の棚卸資産の取得価額」とは記載されていません。
(準用する通達等も確認できず。)

課税事業者となった場合の調整については、任意規定のため
個別計算以外の方法(最終仕入原価法など)も認める
という表現になっているのでしょう。

実務上、棚卸資産の調整のために
異なる評価方法で再計算することは考えにくいので、
免税事業者となった場合も同様の考え方で問題ないと思います。

期末在庫の計算について、
・10億円超の部分
・10億円以下の部分
を区別する必要があるため、何か追加・改正がありそうですね。

参考規定

消費税法第36条5項読替後

5 事業者が、第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなつた場合において、同項の規定の適用を受けることとなつた課税期間の初日の前日において当該前日の属する課税期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するものを有しているときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税貨物に係る消費税額(当該課税仕入れに係る棚卸資産が所得税法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第十五号)附則第五十二条第一項の規定の適用を受けるものである場合には、当該消費税額に百分の八十を乗じて算出した金額)は、第三十条第一項(同条第二項の規定の適用がある場合には、同項の規定を含む。)の規定の適用については、当該課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含まれないものとする。

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