今回は、保険金の圧縮記帳と特別勘定の取崩しを確認してみましょう。
圧縮記帳のしくみ
法人の収益(売上、利息収入、配当金収入、雑収入など)については、原則として法人税の計算対象となります。天災などにより保険金を受け取った場合であっても、同じです。
例えば、1000万円の保険金を受け取った場合、約300万円の税金が発生します。
(税率は約30%と仮定)
1000万円の保険金を受け取っても、300万円の税金がかかるため、手元に残るのは700万円となり、1000万円の固定資産などが買えません。
そのため、300万円の税金がかからないようにするため、300万円の費用が先行計上できます。「圧縮記帳」といいます。
(課税の繰り延べともいいます。)
圧縮記帳なしと圧縮記帳ありの損益計算書を比較してみましょう。
内容 | 圧縮記帳なし | 圧縮記帳あり |
---|---|---|
保険金収入(収益) | +1000万円 | +1000万円 |
圧縮損(費用・損失) | - | -1000万円 |
法人税等(約30%) | 300万円 | 0円 |
当期純利益 | 700万円 | 0円 |
損益計算書の比較
参考リンク
・受け取った保険金で固定資産を買った場合の圧縮記帳と圧縮限度額
特別勘定の設定と取崩し
圧縮記帳は、事業年度が終わるまでに代わりの固定資産(代替資産)を取得する必要があります。代替資産を取得しない場合、圧縮記帳はできませんが、圧縮記帳の予約ができます。特別勘定の設定といいます。
参考リンク
・保険金の圧縮記帳と特別勘定の設定
圧縮記帳の予約は、原則として
・翌期
・翌々期
の2期間で認められています。
今回は、圧縮記帳を予約した後の取扱いを確認してみましょう。
2 前項の特別勘定を設けている内国法人は、前条第一項に規定する代替資産の同項に規定する取得をした場合、当該内国法人が非適格合併により解散した場合その他の政令で定める場合には、その保険金等に係る特別勘定の金額のうち政令で定めるところにより計算した金額を取り崩さなければならない。
法人税法第48条第2項、令和7年6月20日施行
対象となる法人は、保険金の圧縮記帳の特別勘定を設定している法人です。
次は、要件です。
・前条(第47条)第1項に規定する代替資産の同項(第1項)に規定する取得をした場合、
「前条(第47条)第1項に規定する代替資産」は、災害などにより壊れた固定資産と同じ種類の固定資産を指します。
参考リンク
・受け取った保険金で固定資産を買った場合の圧縮記帳_同一種類の判定
「同項(第1項)に規定する取得」は、
・所有権移転外ファイナンスリース
による取得を含みません。
(オペレーティングリースについても含まれません。)
続きには、取扱いが規定されています。
その保険金等に係る特別勘定の金額のうち政令で定めるところにより計算した金額を取り崩さなければならない。
代替資産を取得した場合は、特別勘定の金額を取り崩す必要があります。
(圧縮記帳の予約の取消し)
法人税法施行令を確認してみましょう。
取扱いは、全部で4つです。
(保険差益等に係る特別勘定の金額の取崩し)
法人税法施行令第90条、令和7年4月1日施行
第九十条 法第四十八条第二項(保険差益等に係る特別勘定の金額の損金算入)に規定する政令で定める場合は、次の各号に掲げる場合とし、同項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、それぞれ当該各号に定める金額とする。
一 法第四十八条第一項に規定する取得又は改良に充てようとする保険金等の全部又は一部をもつて当該取得又は改良をした場合 当該取得又は改良に係る固定資産につき第九十一条(特別勘定を設けた場合の保険金等で取得した固定資産等の圧縮限度額)の規定により計算した金額
二 法第四十九条第一項(特別勘定を設けた場合の保険金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入)に規定する取得指定期間(以下この条において「取得指定期間」という。)を経過した日の前日において法第四十八条第二項に規定する特別勘定の金額(既に取り崩すべきこととなつたものを除く。以下この条において同じ。)を有している場合 当該特別勘定の金額
以下省略
第1号は、圧縮記帳を予約している期間(取得指定期間)中に代替資産を取得した場合です。この場合は、原則として代替資産の圧縮限度額に相当する金額を取り崩す必要があります。
第2号は、圧縮記帳を予約している期間(取得指定期間)中に代替資産を取得しなかった場合です。この場合は、圧縮記帳の予約期間が終了するタイミングの特別勘定の残額を取り崩す必要があります。
カッコ書きの「既に取り崩すべきこととなつたものを除く。」は、取り崩す金額は任意に選べないという意味です。
代替資産を取得した場合は、第1号で取り崩す必要があり、第2号で取り崩すことはできません。
特別勘定の金額を取り崩すと法人税がかかる。
特別勘定の金額を取り崩した場合、法人税がかかります。
仕訳例
1、現預金 1000万円 / 仮受金など 1,000万円
2、仮受金など 1,000万円 / 保険金収入など(益金算入) 1,000万円
参考規定
3 前項の規定により取り崩すべきこととなつた第一項の特別勘定の金額又は前項の規定に該当しないで取り崩した当該特別勘定の金額(第八項の規定により合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人(第八項及び第十項において「合併法人等」という。)に引き継ぐこととされたものを除く。)は、それぞれその取り崩すべきこととなつた日(前項に規定する内国法人が非適格合併により解散した場合には、当該非適格合併の日の前日)又は取り崩した日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。
法人税法第48条第3項、令和7年6月20日施行
・前項の規定により取り崩すべきこととなつた第1項の特別勘定の金額
は、上記の取り崩し要件に該当した場合を指します。
・前項の規定に該当しないで取り崩した当該特別勘定の金額
は、任意で取り崩した場合を指します。
例えば、次の場合
・特別勘定の金額 1,000万円
・代替資産の取得により特別勘定を取り崩す金額 800万円
残り200万円を任意で取り崩す場合です。
それぞれ
・取り崩すべきこととなつた日
・任意で取り崩した日
の事業年度で益金算入となります。
(法人税の課税対象となります。)
参考情報
法人が解散した場合を確認してみましょう。
・当該内国法人が非適格合併により解散した場合その他の政令で定める場合には、
とありますので、法人税法施行令を確認してみましょう。
(保険差益等に係る特別勘定の金額の取崩し)
法人税法施行令第90条、令和7年4月1日施行
第九十条 法第四十八条第二項(保険差益等に係る特別勘定の金額の損金算入)に規定する政令で定める場合は、次の各号に掲げる場合とし、同項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、それぞれ当該各号に定める金額とする。
一 省略
二 省略
三 取得指定期間内に解散(合併による解散を除く。)をした場合において、特別勘定の金額を有しているとき。 当該特別勘定の金額
四 取得指定期間内に合併(適格合併を除く。)により解散した場合において、特別勘定の金額を有しているとき。 当該特別勘定の金額
第3号は、圧縮記帳の予約期間中に解散した場合です。この場合は、解散のタイミングで特別勘定の金額を取り崩す必要があります。
解散すると、事業継続の予定がなく、法人税の課税を繰り延べる必要がなくなるからです。ただし、合併による解散は、合併後に事業が継続する場合があるため、除外されています。
第4号は、圧縮記帳の予約期間中に合併した場合です。この場合は、合併のタイミングで特別勘定の金額を取り崩す必要があります。ただし、適格合併の場合は、法人税の課税関係を引き継ぐため、除外されています。
・解散
・非適格の合併
の場合に特別勘定の金額の取崩しが必要です。
—
特別勘定の金額を取り崩した場合のカッコ書きを確認してみましょう。
当該特別勘定の金額(第八項の規定により合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人(第八項及び第十項において「合併法人等」という。)に引き継ぐこととされたものを除く。)は、
第8項は、適格合併等があった場合の特別勘定の金額を引き継ぐ規定です。適格の場合は、法人税の課税関係を引き継ぐため、特別勘定の金額を取り崩した場合であっても、益金算入にはなりません。
その取り崩すべきこととなつた日(前項に規定する内国法人が非適格合併により解散した場合には、当該非適格合併の日の前日)
非適格の合併の場合は、計算期間が前日に終わるため前日の事業年度で益金算入が必要です。