今回は、個人事業者の消費税の準確定申告の期限とみなし登録期間の違いを確認してみましょう。
個人事業者の準確定申告
個人事業者の準確定申告の取扱いは、2つあります。
1、消費税の計算期間を過ぎた後に亡くなった場合
2、消費税の計算期間の途中で亡くなった場合
1の規定を確認してみましょう。
2 前項の規定による申告書を提出すべき個人事業者がその課税期間の末日の翌日から当該申告書の提出期限までの間に当該申告書を提出しないで死亡した場合には、その相続人は、政令で定めるところにより、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日までに、税務署長に当該申告書を提出しなければならない。
消費税法第45条第2項、令和7年6月20日施行
申告期間(期限)は、「その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日まで」です。
2の規定も確認してみましょう。
3 個人事業者が課税期間の中途において死亡した場合において、その者の当該課税期間分の消費税について第一項の規定による申告書を提出しなければならない場合に該当するときは、その相続人は、政令で定めるところにより、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日までに、税務署長に当該消費税について当該申告書を提出しなければならない。
消費税法第45条第3項、令和7年6月20日施行
申告期間(期限)は、「その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日まで」です。
みなし登録期間
インボイスを発行していた個人事業者が亡くなった場合に、インボイスを発行していない相続人がその亡くなった個人事業者の事業を承継すると、一定期間、インボイス番号を引き継ぎます。
一定期間を「みなし登録期間」といいます。
みなし登録期間の規定を確認してみましょう。
3 相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人(適格請求書発行事業者を除く。)の当該相続のあつた日の翌日から、当該相続人が前条第一項の登録を受けた日の前日又は当該相続に係る適格請求書発行事業者が死亡した日の翌日から四月を経過する日のいずれか早い日までの期間(次項において「みなし登録期間」という。)については、当該相続人を同条第一項の登録を受けた事業者とみなして、この法律(同条第十項(第一号に係る部分に限る。)を除く。)の規定を適用する。この場合において、当該みなし登録期間中は、当該適格請求書発行事業者に係る同条第四項の登録番号を当該相続人の登録番号とみなす。
消費税法第57条の3第3項、令和7年6月20日施行
A、当該相続のあつた日の翌日から、
B、当該相続人が前条第一項の登録を受けた日の前日又は当該相続に係る適格請求書発行事業者が死亡した日の翌日から四月を経過する日のいずれか早い日
までの期間が、みなし登録期間となります。
Bは、
C、当該相続人が前条第一項の登録を受けた日の前日
又は
D、当該相続に係る適格請求書発行事業者が死亡した日の翌日から四月を経過する日
のいずれか早い日です。
今回確認したいところは、当該相続のあつた日の翌日から、Dの「適格請求書発行事業者が死亡した日の翌日から四月を経過する日」の部分です。
比較
3つの規定を比較するために並べてみます。
1の準確定申告
・その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日まで
2の準確定申告
・その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日まで
みなし登録期間
・当該相続のあつた日の翌日から、適格請求書発行事業者が死亡した日の翌日から四月を経過する日
準確定申告は、「相続の開始があったことを知った日の翌日」から期間の計算がスタートします。
みなし登録期間は、「当該相続のあつた日の翌日」から期間の計算がスタートします。
一般的には、
・相続の開始があったことを知った日
・当該相続のあつた日
の2つは同じですが、異なる場合があります。
みなし登録期間は、準確定申告の期限と併せて規定されたと考えられますが、2つの日が異なる場合は、みなし登録期間の終了日と準確定申告の期限日が異なることになります。
下記の通達には、
法第27条第1項及び第2項に規定する「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうのであるが、以下省略
とあり、消費税の準確定申告についても同じ取扱いになると考えられます。
参考情報、相続税法基本通達27-4
「相続の開始があったことを知った日」の意義
・https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/04/01.htm
みなし登録期間については、買い手が支払った消費税の控除を優先(保護)するための規定ですので、相続のあつた日(インボイス発行事業者が亡くなった日)から期間の計算がスタートします。
相続があった場合の納税義務の免除の特例
相続があった場合には、消費税の納税義務が免除されない特例があります。
(消費税を納める必要が生じる特例)
この規定についても、確認してみましょう。
(相続があつた場合の納税義務の免除の特例)
消費税法第10条第1項、令和7年6月20日施行
第十条 その年において相続があつた場合において、その年の基準期間における課税売上高が千万円以下である相続人(第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は前条第一項の規定により消費税を納める義務が免除されない相続人を除く。以下この項及び次項において同じ。)が、当該基準期間における課税売上高が千万円を超える被相続人の事業を承継したときは、当該相続人の当該相続のあつた日の翌日からその年十二月三十一日までの間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第九条第一項本文の規定は、適用しない。
「当該相続のあつた日の翌日」と規定されています。
まとめ
内容 | 納税義務の特例 | 準確定申告 | みなし登録期間 (インボイス) |
---|---|---|---|
期間の計算がスタートする日 | 当該相続のあつた日の翌日 | その相続の開始があつたことを知つた日の翌日 | 当該相続のあつた日の翌日 |
事業の承継 | 必要。承継しない場合は特例なし。 | 問わない | 必要。承継しない場合は特例なし。 |
参考情報
消費税の申告義務等の承継
(申告義務等の承継)
消費税法第59条、令和7年6月20日施行
第五十九条 相続があつた場合には相続人は被相続人の次に掲げる義務を、法人が合併した場合には合併法人は被合併法人の次に掲げる義務を、それぞれ承継する。
一 第四十二条第一項、第四項若しくは第六項、第四十五条第一項又は第四十七条第一項(同条第三項の場合に限る。)の規定による申告の義務
二 前条の規定による記録及び帳簿の保存の義務
確定申告については、事業の承継を問いません。
気になった点をメモします。
インボイス発行事業者が亡くなったことを知らずに、収益物件を相続していた場合はどうなるのでしょうか?
亡くなったことを知らないため、収益物件が相続されていることも知らない。相続していることも知らないため、事業を相続しているという意識もない。
ただ、実際に収益物件から課税売上げの家賃が発生する(事業を承継していると見られる)ため、
・納税義務の特例
・みなし登録期間
の2つの検討が必要となります。
1、相続人が課税事業者(インボイス発行事業者)
・みなし登録期間なし(番号の引継ぎなし)
・納税義務の免除の特例なし
2、相続人が課税事業者(インボイス発行事業者でない)
・みなし登録期間あり(番号の引継ぎあり、4月間など)
・納税義務の免除の特例なし
3、相続人が免税事業者
・みなし登録期間あり(番号の引継ぎあり、4月間など)
・納税義務の免除の特例の検討(番号の引継ぎなし、失効した後)
収益物件ではなく、財産の相続が事業の承継とならない場合は、
・亡くなったことを知らない。
・財産が相続されていることを知らない。
・事業を相続しているという意識がない。
となり、実際に事業から課税売上げが発生しない(事業を承継していると見られない)ため、納税義務の特例やみなし登録期間は、適用されないと考えることができます。
一時的に休業しているだけで事業が承継されている場合、資格業などで事業が承継できない場合など、個別に判断が必要なのでしょう。