分割等があつた場合の納税義務の免除の特例_過去に新設分割等があった場合の特定要件


今回は、消費税の「分割等の納税義務の免除の特例」のうち、
過去に新設分割等があった場合の特定要件を確認します。

内容

原則として、2期前の課税売上高(消費税がかかる売上)が
1000万円以下の場合、免税事業者となり、消費税を納める義務がありません。

ただし、納税義務の免除の特例に該当する場合は、
消費税を納める義務が生じます。その特例の1つが分割等があった場合です。

分割等があった場合の特例は、次の4つです。

  1. 当期中に新設分割等があった場合
  2. 過去に新設分割等があった場合 ← 今回確認
  3. 当期中に吸収分割があった場合
  4. 過去に吸収分割があった場合

今回は、2の「当期に新設分割等があった場合」を確認します。
(定義は分割等ですが、
吸収分割と区別するため新設分割等と記載しています。)

特例の内容

過去に新設分割等があった場合において、
一定の方法で計算した金額が1000万円を超えるときは、
その新設分割子法人のその事業年度(当期中)の
課税資産の譲渡等については、消費税の納税義務は免除されません。
(消費税を納める義務が生じます。)

今回は、「当期から見て2期前以前に新設分割等があった場合」を確認します。特例の要件は、次の3つです。

  1. 事業年度開始日の1年前の日の前々日以前に新設分割等がある。
  2. その事業年度の基準期間の末日に新設分割子法人が特定要件に該当する。
  3. 一定の方法で計算した金額が1000万円を超える。
事例

株式会社A(12月決算法人)は、
X年4/1に株式会社B(3月決算法人)を新設分割により設立した。

新設分割等があった場合には、一定の方法で計算した金額が
1000万円を超えるときに消費税の納税義務が生じます。
一定の方法で計算した金額については、2年前(2期前)に遡って計算します。
(遡り計算などについては合併があった場合と似ています。)

新設分割等の時期の確認

新設分割子法人のその事業年度開始日の1年前の日の
前々日「以前」に新設分割等があった場合、要件の1つを満たします。

注意点は、前々日「以前」です。
他の特例と異なり、期限なく遡って判定します。

事例の場合、新設分割子法人のその事業年度開始日はX+2年4/1、
1年前の日はX+1年4/2、前々日以前はX+1年3/31以前となり、
X年4/1に新設分割等があるため、要件の1つを満たします。

特定要件

特定要件とは、新設分割親法人が
新設分割子法人の発行済株式等の総数の50%超を保有している関係です。
(細かい要件は省略しています。)

例えば、次のような関係です。

新設分割親法人

↓ 50%超
↓ 
新設分割子法人

次の関係なども特定要件を満たします。

個人株主等
↓    ↓ 100%
↓   新設分割親法人
↓ 30% ↓ 
↓    ↓ 40%
↓    ↓
新設分割子法人

特定要件は、基準期間の末日に判定します。

一定の方法で計算した金額

「新設分割子法人Bの基準期間における課税売上高」と
「新設分割親法人Aの特定事業年度における課税売上高」を計算します。

新設分割子法人の計算

新設分割子法人Bの計算を確認します。
仮に、X年4/1からX+1年3/31までの期間の課税売上高を600万円とします。

左側が規定、右側が取扱いです。

規定取扱い
同項の新設分割子法人の当該基準期間中の国内における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から当該基準期間における法第九条第二項第一号に規定する売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額を<新設分割子法人>
基準期間における課税売上高
(税抜き純課税売上高)のことです。
当該基準期間に含まれる事業年度の月数の合計数で除し、基準期間(X年4/1からX+1年3/31までの期間)に含まれる事業年度の月数の合計数は12月です。
600万円÷12月=50万円
(1月あたり)
これに十二を乗じて計算した金額50万円×12月=600万円
規定と取扱い

新設分割子法人Bの課税売上高を年換算しています。

新設分割親法人の特定事業年度

「特定事業年度」の定義を確認します。

特定事業年度の定義

省略
当該新設分割子法人の当該事業年度開始の日の二年前の日の前日から同日以後一年を経過する日までの間に開始した法第十二条第三項の新設分割親法人の各事業年度(以下この項及び次項において「特定事業年度」という。)
省略

消費税法施行令23条4項

事例にあてはめると、

その新設分割子法人のその事業年度開始の日はX+2年4/1、
2年前の日の前日はX年4/1から

同日はX年4/1、
以後1年を経過する日はX+1年3/31まで

の間に「開始」した
新設分割親法人の各事業年度が「特定事業年度」となります。

X+1年1/1からX+1年12/31までの期間が特定事業年度となります。

新設分割親法人の計算

「新設分割親法人Aの特定事業年度の課税売上高」を計算します。
仮に、X+1年1/1からX+1年12/31までの期間の課税売上高を480万円とします。

左側が規定、右側が取扱いです。

規定取扱い
同項の新設分割親法人の特定事業年度における課税売上高(当該特定事業年度の国内における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から、第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した金額の合計額を控除した残額をいう。)の合計額を<新設分割親法人>
特定事業年度における課税売上高
(税抜き純課税売上高)のことです。
当該特定事業年度の月数の合計数で除し、特定事業年度(X+1年1/1からX+1年12/31までの期間)の月数の合計数は12月です。
480万円÷12月=40万円
(1月あたり)
これに十二を乗じて計算した金額とする。40万円×12月=480万円
規定と取扱い

新設分割親法人Aの課税売上高を年換算しています。

判定

1、新設分割子法人の基準期間における課税売上高(年換算後)
 600万円

2、新設分割親法人の特定事業年度における課税売上高(年換算後)
 480万円

3、1+2=1,080万円>1,000万円となるため、
「新設分割等があった場合の特例」の要件の1つを満たします。

仮に、新設分割子法人の基準期間の末日(X+1年3/31)において、
特定要件を満たす場合は、新設分割等があった場合の特例に該当し、
新設分割子法人の当期中の消費税の納税義務は免除されません。
(消費税を納める必要があります。)

基準期間の末日に特定要件を満たさない場合は、
一定の方法で計算した金額が1000万円を超えるときであっても、
新設分割等があった場合の特例の対象外となります。

新設分割等の特例が適用されない場合

次の4つのいずれかに該当する場合は、特例の対象外です。

  1. 課税事業者選択届出書を提出している場合
  2. 特定期間の判定により納税義務が免除されない場合
  3. 基準期間における課税売上高が1000万円超である場合
  4. 新設分割親法人が2以上ある場合

納税義務の免除の特例は多数あり、
他の規定により納税義務が免除されない場合は、
「新設分割等があったの場合の特例」の対象外となります。

4の「新設分割親法人が2以上ある場合」は、
租税回避目的がない新設分割等として特例の対象外となります。

特定事業年度中に新設分割等があった場合の調整

特定事業年度中に新設分割等があった場合には、
新設分割子法人の基準期間における課税売上高(年換算後)を調整します。

事例で確認します。
1、株式会社Cは、X年4/1に新設分割により株式会社Dを設立した。
2、株式会社Cは、12月決算を9月決算に変更した。

仮に、新設分割子法人DのX年4/1からX年12/31までの期間の課税売上高が630万円の場合、年換算により630万円÷9月=70万円(1月あたり)×12月=840万円となります。この840万円を新設分割親法人の調整期間に応じて調整します。

左が規定、右が取扱いです。

規定取扱い
当該計算した金額を当該特定事業年度の月数の合計数で除し、<新設分割子法人>
840万円(年換算後)
÷21月(=9月+12月)
=40万円(1月あたり)
これに当該分割等があつた日から当該特定事業年度のうち最後の事業年度終了の日までの期間の月数を乗じて計算した金額40万円×18月=720万円

その新設分割等があった日
(X年4/1)から
その特定事業年度のうち
最後の事業年度終了日
(X+1年9/30)までの期間は、
6月+12月=18月となります。
規定と取扱い

新設分割親法人Cにあった課税売上高を
新設分割により新設分割子法人Dに分割しているため、
新設分割子法人Dの課税売上高630万円を
調整期間18月に換算しています。

参考規定

分割等があつた場合の納税義務の免除の特例
(新設分割子法人の納税義務の判定)

3 新設分割子法人の当該事業年度開始の日の一年前の日の前々日以前に分割等(新設分割親法人が二以上ある場合のものを除く。次項において同じ。)があつた場合において、当該事業年度の基準期間の末日において当該新設分割子法人が特定要件(新設分割子法人の発行済株式又は出資(その新設分割子法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資が新設分割親法人及び当該新設分割親法人と政令で定める特殊な関係にある者の所有に属する場合その他政令で定める場合であることをいう。次項において同じ。)に該当し、かつ、当該新設分割子法人の当該事業年度の基準期間における課税売上高として政令で定めるところにより計算した金額と当該新設分割親法人の当該新設分割子法人の当該事業年度の基準期間に対応する期間における課税売上高として政令で定めるところにより計算した金額との合計額が千万円を超えるときは、当該新設分割子法人(第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一項の規定により消費税を納める義務が免除されないものを除く。)の当該事業年度(その第九条第一項に規定する基準期間における課税売上高が千万円以下である事業年度に限る。)における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、同条第一項本文の規定は、適用しない。

消費税法12条

分割等があつた場合の納税義務の免除の特例
(新設分割子法人の計算)

3 法第十二条第三項に規定する新設分割子法人の当該事業年度の基準期間における課税売上高として政令で定めるところにより計算した金額は、同項の新設分割子法人の当該基準期間中の国内における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から当該基準期間における法第九条第二項第一号に規定する売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額を当該基準期間に含まれる事業年度の月数の合計数で除し、これに十二を乗じて計算した金額(当該新設分割子法人の当該事業年度開始の日の二年前の日の前日から同日以後一年を経過する日までの間に開始した法第十二条第三項の新設分割親法人の各事業年度(以下この項及び次項において「特定事業年度」という。)中に分割等があつた場合には、当該計算した金額を当該特定事業年度の月数の合計数で除し、これに当該分割等があつた日から当該特定事業年度のうち最後の事業年度終了の日までの期間の月数を乗じて計算した金額)とする。

消費税法施行令23条

分割等があつた場合の納税義務の免除の特例
(新設分割親法人の計算)

4 法第十二条第三項に規定する新設分割親法人の当該新設分割子法人の当該事業年度の基準期間に対応する期間における課税売上高として政令で定めるところにより計算した金額は、同項の新設分割親法人の特定事業年度における課税売上高(当該特定事業年度の国内における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から、第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した金額の合計額を控除した残額をいう。)の合計額を当該特定事業年度の月数の合計数で除し、これに十二を乗じて計算した金額とする。
一 当該特定事業年度において行つた法第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額(当該特定事業年度において行つた第十九条に規定する輸出取引等に係る対価の返還等の金額を含む。)
二 当該特定事業年度において行つた法第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額に七十八分の百を乗じて算出した金額

消費税法施行令23条
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