前年等の課税売上高による納税義務の免除の特例


今回は「前年等の課税売上高による納税義務の免除の特例」について確認します。租税回避防止を目的として新設された規定ですが、租税回避をするつもりがなくても課税事業者となる可能性があるため注意が必要です。

特例の概要

基準期間の課税売上高が1000万円以下の場合は、
原則として納税義務が免除されます。

基準期間は2年前の課税売上高で納税義務を判定しますが、今回の特例は、
1年前の前半6ヶ月(特定期間)の課税売上高や給与等で納税義務を判定します。

特例が設けられた経緯

租税回避となる事例で確認します。

  • 課税売上高5000万円のA法人は、消費税を逃れるためにB法人を新設する。
  • A法人の従業員をB法人に転籍させる。
  • B法人の消費税の納税義務は、基準期間がないため免税事業者となる。
  • B法人は人を派遣し、A社から派遣料5000万円を受け取る。
  • A法人は派遣料5000万円をB法人に支払う。
  • B法人は従業員に給料を2000万円支払う。
  • B法人が課税事業者となる前に清算し、別の法人で同じことを繰り返す。

仕訳

B新設法人A法人
現金5000万円 / 課税売上5000万円
現金5000万円 / 課税売上5000万円派遣費5000万円 / 現金5000万円
免税事業者のため消費税を納める必要がありません(益税発生)仕入税額控除が可能
給料2000万円 / 現金2000万円
B法人とA法人の仕訳と消費税の取扱い

基準期間判定(2年前判定)を悪用した取引です。基準期間で判定すると2年間は免税事業者となってしまうため、改正により1年前の課税売上高で判定することになりました。消費税の納税義務は年度が始まる前に確定している必要があるため、1年前の「前半6ヶ月の判定期間」と「最低2ヶ月の判断期間」が設けられました。

上記の取引については、租税回避の目的がなくても、「前年等の課税売上高」で判定する必要があるため注意する必要があります。

特定期間における課税売上高による判定

「1年前の前半6ヶ月の税抜の純課税売上高」が1000万円を超える場合は、基準期間の課税売上高が1000万円以下であっても納税義務が免除されず、課税事業者となります。税抜の純課税売上高は、基準期間における課税売上高の考え方と同じです。

特定期間における給与等による判定

前年等の課税売上高に代えて、給与等で判定することができます。仮に前半6ヶ月の課税売上高5000万円、前半6ヶ月の給与等が500万円であれば、給与等が1000万円以下であるため、免税事業者になることができます。強制的に免税事業者にならず、事業者が課税売上げで判定するか給与等で判定するか、選ぶことができます。

課税売上高と給与等で判定するため、パターンは4つあります。

課税売上高給与等判定
1000万円超1000万円超必ず課税事業者
1000万円超1000万円以下課税事業者か免税事業者か選択できる
1000万円以下1000万円超課税事業者か免税事業者か選択できる
1000万円以下1000万円以下必ず免税事業者
判定パターン
選択できる理由

納税義務の免除の趣旨は、小規模事業者の事務負担軽減です。基準期間における課税売上高1000万円超であれば、小規模事業者ではないため、必ず課税事業者となります。

2年前の課税売上高>1000万円

 → 消費税の手続きができる。小規模事業者とは言えない。

小規模事業者の事務負担軽減が趣旨であれば、別の基準(2年前ではなく1年前)を設けても良いのではないかと考え方結果、選択制度になったと推測しています。

租税回避防止を目的とする場合、選択制度ではなく、課税売上高と給与等を比較して「いずれか低い金額」と規定しても問題ないはずです。

課税売上高給与等判定
1000万円超1000万円超必ず課税事業者
→租税回避防止
1000万円超1000万円以下少ない金額により
免税事業者
1000万円以下1000万円超少ない金額により
免税事業者
1000万円以下1000万円以下必ず免税事業者
判定パターン2

しかし、強制ではなく、課税売上げか給与等かの選択制度となっています。課税事業者になる方法を課税事業者選択届出書以外に設けたのではないのでしょうか。

特定期間

特定期間は1年前の前半6ヶ月とご説明しましたが、3パターンあります。

  • 個人事業者
  • 前事業年度がある法人
  • 前事業年度が短期事業年度である法人

1の個人事業者は簡単です。基準期間と同様に暦年があるため、前年1/1から6/30までが特定期間となります。法人(2と3)が複雑なので、別の機会に確認しますが、簡単に言うと

・前事業年度が原則7ヶ月超であれば、前事業年度の前半6ヶ月です。
・前事業年度が7ヶ月以下であれば、前前事業年度の前半6ヶ月です。

参考リンク
短期事業年度(前事業年度で判定する場合)
前々事業年度で判定する場合

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