収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例


今回は、所得税の「収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例」を確認します。課税の繰延べ(先送り)規定です。

規定の概要

カッコ書きを外しても文章が長い規定です。

個人の有する資産(注1)で次の各号に規定するものがその各号に掲げる場合に該当することとなった場合(注2)において、その者がその各号に規定する補償金、対価又は清算金の額(注3)の全部又は一部に相当する金額をもってその各号に規定する収用、買取り、換地処分、権利変換、買収又は消滅(以下「収用等」という。)のあった日の属する年の12月31日までにその収用等により譲渡した資産と同種の資産その他のこれに代わるべき資産として政令で定めるもの(以下「代替資産」という。)の取得(注4)をしたときは、

ここまでが要件です。

その者については、その選択により、その収用等により取得した補償金、対価又は清算金の額がその代替資産に係る取得に要した金額(以下「取得価額」という。)以下である場合にあっては、その譲渡した資産(注5)の譲渡がなかったものとし、その補償金、対価又は清算金の額がその取得価額を超える場合にあっては、その譲渡した資産のうちその超える部分に金額に相当するものとして政令で定める部分について譲渡があったものとして、第31条(注6)若しくは第32条又は所得税法第32条若しくは所得税法第33条の規定を適用することができる。

各号に掲げる場合については多数のため省略。


注1、所得税法2条1項16号に規定する棚卸資産その他これ準ずる資産で政令で定めるものを除く。以下この条、33条の2第2項、33条の4において同じ。

・33条の2、交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例
・33条の3、換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例
・33条の4、収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除

注2、33条の2第1項の規定に該当する場合を除く。

→ 重複適用の除外。交換処分等の規定が優先。

注3、その資産の譲渡(消滅及び価値の減少を含む。)に要した費用がある場合には、その補償金、対価又は清算金の額のうちから支出したものとして政令で定める金額を控除した金額。以下この条において同じ。)

→ 補償金等-譲渡費用(政令)

注4、所有権移転外リース取引による取得を除き、製作及び建設を含む。

注5、第3号の清算金を同号の土地等とともに取得した場合には、その譲渡した資産のうちその清算金の額に対応するものとして政令で定める部分。以下この項において同じ。

→ こちらが何か資産を渡して、お金と土地等を取得した場合、清算金に対応する部分の譲渡もなかったものとなる。

注6、他の規定との調整
第31条、長期譲渡所得の課税の特例(15%課税)には、
第31条の2、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10%課税)
第31条の3、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(10%課税)
の規定により適用される場合を含む。

第33条の4第1項1号
収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除(5000万円)
第34条1項1号
特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除(2000万円)
第34条の2第1項1号
特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除(1500万円)
第34条の3第1項1号
農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除(800万円)
第35条1項1号
居住用財産の譲渡所得の特別控除(3000万円)
第35条の2第1項
特定期間に取得をした土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除(1000万円)
第35条の3第1項
低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除(100万円)
を除き、以下37条の8までにおいて同じ。

課税の繰延べの要件

要件は2つです。

1、個人が所有している固定資産等について、
土地収用法等の規定に基づいて収用され、補償金を取得する場合

2、その受け取った補償金をもって収用等があった年末までに
代替資産(渡した資産と似たような資産)を取得したとき

仕訳

借方貸方
現金(補償金等) 6000万円土地 3000万円
土地譲渡益 3000万円
代替資産 6000万円現金(補償金等) 6000万円
収用の仕訳1

原則として、譲渡所得には所得税がかかります。譲渡した理由は問いません。
法令によって強制的に土地が収用された場合であっても、税金が発生します。
上記の場合、土地譲渡益3000万円×約20%=約600万円の税金がかかります。

そのため、税負担の軽減措置として
「特別控除」と「課税の繰延べ」が設けられています。
今回の規定は、税額の軽減ではなく課税の繰延べです。

課税の繰延べの方法

計算方法は、2つです。
1、受け取った補償金等≦代替資産の取得価額
2、受け取った保証金等>代替資産の取得価額

1の場合は、譲渡所得の計算上、譲渡がなかったものとなります。
上記仕訳の場合、受け取った補償金等6000万円≦代替資産の取得価額6000万円のため、土地3000万円の譲渡はなかったものとなり、土地譲渡益3000万円もなかったものとなります。

2の場合は、譲渡所得の計算上、
代替資産の取得価額を超える部分について譲渡があったものとなります。

借方貸方
現金(補償金等) 6000万円土地 3000万円
土地譲渡益 3000万円
代替資産 4000万円現金(補償金等) 4000万円
収用の仕訳2

上記の場合、受け取った補償金等6000万円>代替資産の取得価額4000万円のため、代替資産の取得価額を超える部分2000万円の譲渡があったものとなります。

上記仕訳を法令にあてはめると

受取補償金等6000万円-代替資産の取得価額4000万円=2000万円
—————————————————————————
受取補償金等6000万円

課税される割合 2000万円÷6000万円=1/3

土地3000万円の1/3(=1000万円)を譲渡したものとして、
土地譲渡益3000万円の1/3(=1000万円)に税金が発生します。
(1000万円×約20%=約200万円の税金が発生。)

                   6000万円
補償金等|---------------
              | → 超える部分2000万円の譲渡
              | → 課税割合 1/3
              |
             4000万円
取得価額|---------|

参考規定

(収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例)
第三十三条 個人の有する資産(所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産その他これに準ずる資産で政令で定めるものを除く。以下この条、次条第二項及び第三十三条の四において同じ。)で次の各号に規定するものが当該各号に掲げる場合に該当することとなつた場合(次条第一項の規定に該当する場合を除く。)において、その者が当該各号に規定する補償金、対価又は清算金の額(当該資産の譲渡(消滅及び価値の減少を含む。以下この款において同じ。)に要した費用がある場合には、当該補償金、対価又は清算金の額のうちから支出したものとして政令で定める金額を控除した金額。以下この条において同じ。)の全部又は一部に相当する金額をもつて当該各号に規定する収用、買取り、換地処分、権利変換、買収又は消滅(以下第三十三条の四までにおいて「収用等」という。)のあつた日の属する年の十二月三十一日までに当該収用等により譲渡した資産と同種の資産その他のこれに代わるべき資産として政令で定めるもの(以下この款において「代替資産」という。)の取得(所有権移転外リース取引による取得を除き、製作及び建設を含む。以下この款において同じ。)をしたときは、その者については、その選択により、当該収用等により取得した補償金、対価又は清算金の額が当該代替資産に係る取得に要した金額(以下第三十七条の八までにおいて「取得価額」という。)以下である場合にあつては、当該譲渡した資産(第三号の清算金を同号の土地等とともに取得した場合には、当該譲渡した資産のうち当該清算金の額に対応するものとして政令で定める部分。以下この項において同じ。)の譲渡がなかつたものとし、当該補償金、対価又は清算金の額が当該取得価額を超える場合にあつては、当該譲渡した資産のうちその超える金額に相当するものとして政令で定める部分について譲渡があつたものとして、第三十一条(第三十一条の二又は第三十一条の三の規定により適用される場合を含む。第三十三条の四第一項第一号、第三十四条第一項第一号、第三十四条の二第一項第一号、第三十四条の三第一項第一号、第三十五条第一項第一号、第三十五条の二第一項及び第三十五条の三第一項を除き、以下第三十七条の八までにおいて同じ。)若しくは前条又は同法第三十二条若しくは第三十三条の規定を適用することができる。

租税特別措置法

措置法第31条、長期譲渡所得の課税の特例(他の特例の調整あり)
若しくは
措置法第32条、短期譲渡所得の課税の特例

又は

所得税法第32条山林所得
若しくは
所得税法第33条、譲渡所得

措置法は、主に不動産
所得税法は、山林や不動産以外の資産

課税される割合の計算方法

8 法第三十三条第一項の規定により譲渡があつたものとされる同項に規定する政令で定める部分は、譲渡資産のうち、当該譲渡資産に係る同項に規定する補償金、対価又は清算金の額から当該譲渡資産の代替資産に係る取得に要した金額(以下第二十五条の六までにおいて「取得価額」という。)を控除した金額当該補償金、対価又は清算金の額のうちに占める割合を、当該譲渡資産の価額に乗じて計算した金額に相当する部分とする。

租税特別措置法施行令22条、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例
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