合計所得金額と総所得金額等の違い


今回は、所得税の合計所得金額と総所得金額等との違いを確認してみましょう。
国税庁のタックスアンサー、専門用語集のページを見たのがきっかけです。

結論を先に書きます。
合計所得金額は繰越控除「前」の金額、
総所得金額等は繰越控除「後」の金額です。
繰越控除は、過去の赤字を当期の費用として処理できる特例です。

合計所得金額

合計所得金額、総所得金額、総所得金額等の共通点は、全て個人の所得です。
合計所得金額の定義は、寡婦の定義の中にあります。

 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三十 寡婦 次に掲げる者でひとり親に該当しないものをいう。
イ 夫と離婚した後婚姻をしていない者のうち、次に掲げる要件を満たすもの
(1) 扶養親族を有すること。
(2) 第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下この条において「合計所得金額」という。)が五百万円以下であること。

所得税法2条

寡婦の要件の1つが、「合計所得金額」が500万円以下です。

合計所得金額は、

  • 純損失の繰越控除(70条)
  • 雑損失の繰越控除(71条)

この2つの特例を使わないで計算した場合の

  • 総所得金額
  • 退職所得金額(所得税の分離課税、総所得金額に含めると不合理)
  • 山林所得金額(所得税の分離課税、総所得金額に含めると不合理)

の合計額です。

総所得金額

課税標準の規定を確認します。

(課税標準)
 居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 総所得金額は、次節(各種所得の金額の計算)の規定により計算した次に掲げる金額の合計額(第七十条第一項若しくは第二項(純損失の繰越控除)又は第七十一条第一項(雑損失の繰越控除)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。

所得税法22条

総所得金額は、

  • 純損失の繰越控除(70条)
  • 雑損失の繰越控除(71条)

の特例を使用した「後」の金額をいいます。
「繰越控除」って何でしょう?

繰越控除

所得税は原則として暦年で計算します。1月1日から12月31日までに稼いだもうけ(所得)だけで計算します。過去や将来の所得や損失は考慮しません。

例えば、次の場合
令和3年分の損失 1000
令和4年分の所得 1500

令和4年分の所得1500に所得税の税率をかけて所得税を計算します。
令和3年分の損失1000は無視します。

この場合、令和3年分の損失を無視するのは不合理なので、
一定の要件を付けて、純損失の繰越控除や雑損失の繰越控除として
令和3年分の損失1000を令和4年分の所得1500から
マイナスすることができます。

令和4年分の所得 1500
令和3年分の損失 1000
令和4年分の所得 +500×所得税率=所得税

上記の場合、総所得金額は過去の赤字をマイナスした「後」の500です。

令和4年分の所得 1500
令和3年分の損失 1000
令和4年分の所得 +500 → 総所得金額

合計所得金額と総所得金額との違い

合計所得金額は、

第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額

とあるので、過去の赤字をマイナスしないで計算した1500となります。

令和4年分の所得 1500 → 合計所得金額
令和3年分の損失 1000
令和4年分の所得 500 → 総所得金額

総所得金額と総所得金額等との違い

総所得金額等は、租税特別措置法(所得税法の特例)を考慮した
総所得金額をいいます。
(総所得金額等という定義は確認できません。)

実務上、所得税法だけで所得税を計算することは稀で、
租税特別措置法などの他の法令も使用して所得税を計算します。

そのため、総所得金額(所得税法の定義)と区別するために、
総所得金額等という言葉を使っているのでしょう。

合計所得金額と総所得金額等との違い

本題です。この2つの違いがある理由は、
それぞれの金額を用いる特例があるからです。

合計所得金額総所得金額等
・均等割の非課税限度額
・障害者、未成年者、寡婦、ひとり親の非課税限度額
・扶養控除、配偶者特別控除の所得判定
・配偶者特別控除の所得1,000万円超の判定
・寡婦、ひとり親控除の所得要件(500万円以下)の判定
・所得割の非課税限度額
・雑損控除
・医療費控除
・寄附金控除
合計所得金額と総所得金額等との特例比較

宮津市(参考ページ)
合計所得金額、総所得金額、総所得金額等の違い

合計所得金額は、1年間のもうけです。
1年間のもうけに過去の損失は関係なく、
単純に1年間のもうけが多ければ、優遇税制に制限がかかります。

総所得金額等は、過去の損失を考慮した1年間のもうけです。
総所得金額等にある雑損控除、医療費控除、寄附金控除の3つは、
総所得金額等を基準に各控除の限度額を計算します。

総所得金額等は所得の計算に過去の損失(繰越控除)を考慮しているため、
所得控除の計算にも過去の損失を考慮しています。

まとめ

合計所得金額は、繰越控除「前」の金額
総所得金額等は、繰越控除「後」の金額

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