国外に転出した場合の所得税の支払いを先延ばしできる制度


今回は、国外に転出した場合の所得税の支払いを先延ばしできる制度を確認してみましょう。

納税猶予って何?

原則として税金は期限までに支払う必要がありますが、所得税、相続税、贈与税等については、税金の支払いの先延ばしが可能です。納税猶予といいます。

所得税の納税猶予ができる場合は次の2つ。
1、国外に転出した時に株式を持っている場合に所得税がかかるとき
2、非居住者に株式を贈与した場合に所得税がかかるとき
1と2を合わせて国外転出時課税といいます。

国外転出時課税は、実際に株式を売却していませんが売却したものとして所得税を計算する特例です。含み益がある場合、含み益に対して所得税がかかります。

株式を売却した場合は、収入として手許にお金が残りますが、国外転出時課税については手許にお金が残りません。実際に売却していないからです。そのため、所得税が支払いが難しくなる場合があり、納税猶予が認められています。

内容

納税猶予ができる人は、国外転出をする居住者です。

この居住者が国外転出の時に対象資産について、国外転出時課税の対象となった場合が1つ目の要件となります。

対象資産は次の3つ。
1、有価証券等
2、未決済の信用取引等
3、未決済のデリバティブ取引

2つ目の要件は、国外転出した年分の所得税があることです。所得税が発生しない場合は、税金の支払いがないため猶予もありません。

3つの対象資産のうち、確定申告期限までに売却や決済していないものを「適用資産」といいます。売却や決済した場合は実際に手許にお金が残るため、納税猶予の対象から外れます。

適用資産に対する所得税の支払いを先延ばしするためには、次の2つの手続きが必要です。

1、国外転出の時までに納税管理人の届出をする。
2、確定申告期限までに担保を提供する。

上記の要件を満たした場合に、所得税の支払いの先延ばしが可能で、先延ばしの期限は、国外転出などの日(=同日)確定申告期限から満了基準日の翌日以後4月を経過する日です。

満了基準日は、国外転出の日から5年を経過する日です。ただし、経過する日より前に帰国等をする場合は、帰国等の日となります。

参考規定

国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予

第百三十七条の二 第六十条の二第一項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)に規定する国外転出(以下この条において「国外転出」という。)をする居住者でその国外転出の時に有している同項に規定する有価証券等又は契約を締結している第六十条の二第二項に規定する未決済信用取引等若しくは同条第三項に規定する未決済デリバティブ取引(以下この項及び第三項において「対象資産」という。)につきこれらの規定の適用を受けたもの(その相続人を含む。)が当該国外転出の日の属する年分の所得税で第百二十八条(確定申告による納付)又は第百二十九条(死亡の場合の確定申告による納付)の規定により納付すべきものの額のうち、当該対象資産(当該年分の所得税に係る確定申告期限まで引き続き有し、又は決済をしていないものに限る。以下この項、第五項及び第六項において「適用資産」という。)に係る納税猶予分の所得税額(第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した金額をいう。以下この条において同じ。)に相当する所得税については、当該居住者が、当該国外転出の時までに国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をし、かつ、政令で定めるところにより当該年分の所得税に係る確定申告期限までに当該納税猶予分の所得税額に相当する担保を供した場合に限り、第百二十八条又は第百二十九条の規定にかかわらず、同日から満了基準日(当該国外転出の日から五年を経過する日又は帰国等の場合(第六十条の二第六項第一号又は第三号に掲げる場合その他政令で定める場合をいう。次項において同じ。)に該当することとなつた日のいずれか早い日をいう。第五項において同じ。)の翌日以後四月を経過する日まで、その納税を猶予する。
一 当該国外転出の日の属する年分の第百二十条第一項第三号(確定所得申告)に掲げる金額
二 当該適用資産につき第六十条の二第一項から第三項までの規定の適用がないものとした場合における当該国外転出の日の属する年分の第百二十条第一項第三号に掲げる金額

所得税法第137条の2第1項、施行日令和6年6月12日

おまけ
納税を猶予できる所得税(2500万円)=1号の金額-2号の金額で計算します。
1号は、国外転出時課税を含めて計算した実際の所得税(3000万円)
2号は、国外転出時課税を外して計算した仮定の所得税(500万円)

2024/12/27、メモ
同日は、確定申告期限(3/15)ではなく、国外転出の日を指します。

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