今回は、国外転出した後に取得した場合であっても取得したものとして取り扱わない場合を確認してみましょう。
内容
国外転出した時に1億円以上の有価証券等を持っている場合、売却したものとして所得税を計算する必要があります。国外転出時課税といいます。
今回確認する内容は、国外転出した後に取得した有価証券等について一定の事由に該当する場合は、新しく取得したのではなく、前から持っていたものとして取り扱うというものです。
国外転出時課税は、国外転出の時に持っていた有価証券等が対象となり、含み益に対して課税されます。ただし、帰国、有価証券等の売却や値下がり等があれば所得税の再計算ができます。
前提として、国外転出の時に持っていた有価証券等が対象となりますので、国外転出の後で取得した有価証券等については対象から外れます。
本来は外れますが、一定の事由に該当する場合は対象から外れないようになっています。
一定の事由
一定の事由を整理してみました。
第1号
・株式交換(所得税法57条の4第1項)
・株式移転(所得税法57条の4第2項)
第2号、所得税法57条の4第3項
・取得請求権付株式(第1号)
・取得条項付株式(第2号)
・全部取得条項付種類株式(第3号)
・新株予約権付社債(第4号)
・取得条項付新株予約権(第5号)
・取得条項付新株予約権が付された新株予約権付社債(第6号)
の請求権の行使、取得事由の発生、取得決議、行使
第3号、政令で定める事由
第1号と第2号は、所得税法57条の4に関係するものです。所得税法57条の4には、実際に有価証券等を売却したが、売却しなかったものとして取り扱うことが規定されています。所得税の課税がされない特例です。
形式的には有価証券等を売却して異なる有価証券等を取得しますが、売却益に対する税金を支払うことが難しいため、売却しなかったものとして取り扱われます。
売却しなかったとするため、売却しなかったものとされた有価証券等を購入した金額については、新しく取得した有価証券等に引き継がれます。この関係を国外転出時課税の取扱いに持ち込んでいます。
対象となる特例は、次の5つです。
第6項、帰国等をした場合の再計算
第7項、納税猶予の延長をしている場合
第8項、満了基準日までに有価証券等を売却した場合の再計算
第9項、確定申告期限までに売却した場合の再計算
第10項、満了基準日まで有価証券等を保有している場合の再計算
参考規定
国外転出の後に取得した有価証券等の取扱い
11 第六項から前項までの規定の適用については、個人が国外転出の時後に次に掲げる事由により取得した有価証券等は、その者が引き続き所有していたものとみなす。
所得税法第60条の2第11項と第12項、施行日令和6年6月12日
一 第一項の居住者が有する株式を発行した法人の行つた第五十七条の四第一項(株式交換等に係る譲渡所得等の特例)に規定する株式交換又は同条第二項に規定する株式移転
二 第一項の居住者が有する第五十七条の四第三項第一号に規定する取得請求権付株式、同項第二号に規定する取得条項付株式、同項第三号に規定する全部取得条項付種類株式、同項第四号に規定する新株予約権付社債、同項第五号に規定する取得条項付新株予約権又は同項第六号に規定する取得条項付新株予約権が付された新株予約権付社債のこれらの号に定める請求権の行使、取得事由の発生、取得決議又は行使
三 前二号に掲げるもののほか、政令で定める事由
12 第六項から前項までに規定するもののほか、第一項から第五項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
7 国外転出の日の属する年分の所得税につき第一項から第三項までの規定の適用を受けた個人で第百三十七条の二第二項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けているものに係る前項の規定の適用については、同項中「五年」とあるのは、「十年」とする。
所得税法第60条の2第7項、施行日令和6年6月12日
おまけ、考え方を具体的に整理してみましょう。
1、国外転出の時にA株式(取得価額1000万円)を持っていたため、国外転出時課税の対象となった。
国外転出時の価額1500万円-取得価額1000万円=売却益500万円
取得価額が1500万円に更新される。
2、国外転出した後に株式交換などによりA株式を売却し、B株式を取得した。
売却収入2200万円-取得価額1500万円=売却益700万円
3、特例の要件を満たす場合、A株式の売却はなくなる。
売却益700万円→0円
4、A株式の取得価額がB株式に引き継がれる。
B株式の取得価額2200万円→1500万円
5、B株式を1400万円で売却した。
売却収入1400万円-取得価額1500万円=売却損100万円
6、B株式は国外転出の時に持っていなかったが、引き続き持っていたものとして扱われるため、値下がりによる国外転出時課税の再計算ができる。
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