居住用財産の譲渡と空き家特例を同時に計算する場合


今回は、新しく新設される「相続人が3人以上であるときの同一年中に自己の居住用財産と被相続人の居住用財産の譲渡があった場合の特別控除額の金額」を確認します。

特例の概要

新設される通達を確認する前に、特例の概要を簡単に確認します。

1、自宅を譲渡した場合、要件を満たせば、
自宅の譲渡益から3000万円をマイナスできる特例があります。
(居住用財産の特別控除といいます。)

2、亡くなった方の自宅を譲渡した場合にも、
自宅を譲渡した場合として取り扱って、
3000万円をマイナスできる特例が設けられています。
(空き家特例といいます。)

3、空き家特例については、
相続人が3人以上の場合は、3000万円から2000万円に減額されます。

同じ年に自宅の譲渡(3000万円の控除)と
空き家の譲渡(2000万円の控除)をした場合の
特別控除額の計算方法が公表されていますので、
確認したいと思います。

通達の内容

具体的な計算方法前に、

相続人の数が3人以上の場合は2000万円ですが、
同じ年に2つ売却した場合の計算は次の金額となります。

1、短期譲渡所得の金額からマイナスする金額
2、長期譲渡所得の金額からマイナスする金額

という内容が記載されています。

自宅の譲渡についても、空き家の譲渡についても
所有期間の制限がないため、短期の計算と長期の計算に
分かれて規定されています。

短期譲渡所得の金額から控除される金額

簡略してみましょう。

短期譲渡所得の金額の特別控除額=

3000万円とイ+ロの合計額を比べて、低い金額
(ただし、ロの金額が2000万円の場合は、
空き家特例部分の特別控除額は2000万円を限度。)

イ、居住用財産の短期譲渡所得の金額(空き家特例部分を除く)

ロ、(イ)と(ロ)を比べて、低い金額
(イ)2000万円
(ロ)空き家特例部分の短期譲渡所得の金額

計算例

次の場合で考えてみましょう。

1、単なる空き家の譲渡益 400万円
2、自宅の譲渡益 500万円
3、空き家特例の譲渡益 2400万円
4、相続人は3人

イ、自宅部分の特別控除額
譲渡益500万円<特別控除額3000万円
→ 低い金額 500万円

ロ、空き家部分の特別控除額
(イ)特別控除額 2000万円
(ロ)空き家特例の譲渡益 2400万円
→ 低い金額 2000万円

ハ、合計判定
3000万円>2500万円(自宅と空き家の特別控除額の合計額)
→ 低い金額 2500万円

同じ年に自宅と空き家を売却した場合
・特別控除は合計3000万円(6000万円や5000万円にならない)。
・空き家特例の特別控除は2000万円まで
となります。

長期譲渡所得の金額から控除される金額

簡略してみましょう。

長期譲渡所得の金額からマイナスする金額
1、3000万円
(短期譲渡所得の特別控除がある場合は、
3000万円-短期譲渡所得の特別控除額)

(ただし、ロの金額=ロ(イ)の金額の場合は、
ロ(イ)の金額を限度。)

2、次の合計額
 イ、自宅の譲渡益
 ロ、空き家特例の譲渡益
  (イ)、2000万円(短期譲渡所得の特別控除がある場合は、
2000万円-短期譲渡所得の特別控除額)
  (ロ)、空き家特例の譲渡益

3、1と2を比較して、低い金額

計算例

次の場合で計算してみましょう。

1、自宅の譲渡益(短期) 200万円
2、自宅の譲渡益(長期) 300万円
3、空き家特例の譲渡益(短期) 1100万円
4、空き家特例の譲渡益(長期) 1200万円
5、譲渡益合計、2800万円

資産の売却益の合計は2800万円のため、
3000万円の特別控除が使えれば、所得は0円になりそうです。

短期の利益と長期の利益がある場合、
短期の利益から計算します。

1、短期譲渡所得の金額からマイナスする金額
イ、自宅(短期)
 200万円
ロ、空き家特例(短期)
(イ)2000万円(限度額)
(ロ)1100万円
低い金額、1100万円

ハ、合計判定
3000万円>200万円(短期自宅)+1100万円(短期空き家)=1300万円
低い金額、1300万円(短期合計)

2、長期譲渡所得の金額からマイナスする金額
イ、自宅(長期)
 300万円
ロ、空き家特例(長期)
(イ)2000万円-1100万円(空き家特例の短期特別控除)=900万円
(ロ)1200万円
低い金額、900万円

ハ、合計判定
A、3000万円-1300万円(短期特別控除の合計)=1700万円(長期限度)
B、300万円(長期自宅)+900万円(長期空き家特例)=1200万円(長期合計)
C、低い金額、1200万円

3、特別控除の合計額
1300万円(短期)+1200万円(長期)=2500万円

資産の売却益の合計は2800万円、
特別控除2500万円をマイナスしても300万円の利益が残ります。

空き家の譲渡益の計算を取り出してみると、
短期の空き家1100万円+長期の空き家1200万円=2300万円

2300万円-3人以上の空き家の特別控除2000万円=
控除しきれない金額が300万円発生して、
所得税等が発生するため注意が必要です。

参考通達

(相続人が3人以上であるときの同一年中に自己の居住用財産と被相続人の居住用財産の譲渡があった場合の特別控除額の金額)
35-7の2 相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人の数が3人以上である場合における措置法第35条第3項の規定の適用により控除される金額は2,000万円となるが、この場合において、相続人が同一年中に同条第2項各号に規定する譲渡及び対象譲渡をし、そのいずれの譲渡についても同条第1項の規定の適用を受ける場合の特別控除額の金額は、次の金額となるのであるから留意する。
⑴ 短期譲渡所得の金額から控除される金額
「3,000万円」と「次に掲げる金額の合計額」とのいずれか低い金額。
ただし、ロの金額が2,000万円である場合には、被相続人の居住用財産の譲渡に係る短期譲渡所得の金額から措置法第35条第3項の規定の適用により控除される金額は、2,000万円が限度となる。
イ 居住用財産の譲渡に係る短期譲渡所得の金額(短期譲渡所得の金額のうち措置法第35条第1項(同条第3項の規定により適用する場合を除く。)の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額をいう。)
ロ 次に掲げる金額のうちいずれか低い金額
(イ) 2,000万円
(ロ) 被相続人の居住用財産の譲渡に係る短期譲渡所得の金額(短期譲渡所得の金額のうち措置法第35条第1項(同条第3項の規定により適用する場合に限る。)の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額をいう。)
⑵ 長期譲渡所得の金額から控除される金額
「3,000万円(上記⑴の短期譲渡所得の金額から控除される金額がある場合には、3,000万円からその短期譲渡所得の金額から控除される金額を控除した金額)」と「次に掲げる金額の合計額」とのいずれか低い金額。
ただし、ロの金額がロ(イ) に掲げる金額である場合には、被相続人の居住用財産の譲渡に係る長期譲渡所得の金額から措置法第35条第3項の規定の適用により控除される金額は、ロ(イ) に掲げる金額が限度となる。
イ 居住用財産の譲渡に係る長期譲渡所得の金額(長期譲渡所得の金額のうち措置法第35条第1項(同条第3項の規定により適用する場合を除く。)の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額をいう。)
ロ 次に掲げる金額のうちいずれか低い金額
(イ) 2,000万円(上記⑴の被相続人の居住用財産の譲渡に係る短期譲渡所得の金額から措置法第35条第3項の規定により控除される金額がある場合には、2,000万円からその同項の規定により控除される金額を控除した金額)
(ロ) 被相続人の居住用財産の譲渡に係る長期譲渡所得の金額(長期譲渡所得の金額のうち措置法第35条第1項(同条第3項の規定により適用する場合に限る。)の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額をいう。)

措置法通達35-7の2_相続人が3人以上であるときの同一年中に自己の居住用財産と被相続人の居住用財産の譲渡があった場合の特別控除額の金額
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