工事の請負に関する消費税の特例


今回は、工事の請負に関する消費税の特例を確認してみましょう。

概要

消費税は
・商品の販売
・資産の貸付け
・サービスの提供
があったときに、かかります。

長期間の工事については、
工事の請負が完了して引き渡しした時に消費税がかかります。

工事の請負の特例は、所得税法や法人税法に規定されていますが、
消費税法ではどのように規定されているのでしょうか?

今回は、工事の請負の特例を確認してみましょう。

長期大規模工事に該当する工事の場合

今回確認する規定はこちら↓

(工事の請負に係る資産の譲渡等の時期の特例)
第十七条 事業者が所得税法第六十六条第一項(工事の請負に係る収入及び費用の帰属時期)又は法人税法第六十四条第一項(工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度)に規定する長期大規模工事(以下この条において「長期大規模工事」という。)の請負に係る契約に基づき資産の譲渡等を行う場合には、当該長期大規模工事の目的物のうちこれらの規定に規定する工事進行基準の方法により計算した収入金額又は収益の額に係る部分については、当該事業者は、これらの規定によりその収入金額が総収入金額に算入されたそれぞれの年の十二月三十一日の属する課税期間又はその収益の額が益金の額に算入されたそれぞれの事業年度終了の日の属する課税期間において、資産の譲渡等を行つたものとすることができる。

消費税法第17条第1項、施行日令和5年10月1日

規定を整理してみましょう。


事業者が
・所得税法第66条第1項(工事の請負に係る収入及び費用の帰属時期)又は
・法人税法第64条第1項(工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度)
に規定する長期大規模工事(注1)の請負に係る契約に基づき
資産の譲渡等を行う場合には、

当該長期大規模工事の目的物のうち
これらの規定に規定する工事進行基準の方法により計算した
収入金額又は収益の額に係る部分については、

当該事業者は、これらの規定により

・その収入金額が総収入金額に算入された
それぞれの年の12月31日の属する課税期間又は
・その収益の額が益金の額に算入された
それぞれの事業年度終了の日の属する課税期間

において、資産の譲渡等を行つたものとすることができる。

注1、以下この条において「長期大規模工事」という。
→ 対価の額が10億円以上の工事を長期大規模工事といいます。


特例の要件は、
所得税法、法人税法の長期大規模工事に
該当する取引を行っていることです。

工事の請負の特例を適用すると
進捗(売上)に応じて対価の額を計算できます。

法人税や所得税では、売上に対応する原価についても
進捗に応じて計算が必要ですが、
消費税は原価に関する特例がないため計算不要です。

長期大規模工事に該当しない工事の場合

法人税・所得税の長期大規模工事に該当しない工事についても
上記の特例と同様に計算することが可能です。

長期大規模工事に該当しない工事については、
工事進行基準の方法により経理する必要があります。

規定を確認してみましょう。

2 事業者が所得税法第六十六条第二項又は法人税法第六十四条第二項に規定する工事(以下この条において「工事」という。)の請負に係る契約に基づき資産の譲渡等を行う場合において、当該事業者がこれらの規定の適用を受けるためその工事の請負に係る対価の額につきこれらの規定に規定する工事進行基準の方法により経理することとしているときは、当該工事の目的物のうち当該方法により経理した収入金額又は収益の額に係る部分については、当該事業者は、これらの規定によりその収入金額が総収入金額に算入されたそれぞれの年の十二月三十一日の属する課税期間又はその収益の額が益金の額に算入されたそれぞれの事業年度終了の日の属する課税期間において、資産の譲渡等を行つたものとすることができる。ただし、所得税法第六十六条第二項ただし書又は法人税法第六十四条第二項ただし書に規定する場合に該当することとなつた場合は、所得税法第六十六条第二項ただし書に規定する経理しなかつた年の十二月三十一日の属する課税期間以後の課税期間又は法人税法第六十四条第二項ただし書に規定する経理しなかつた決算に係る事業年度終了の日の属する課税期間以後の課税期間については、この限りでない。

消費税法第17条第2項、施行日令和5年10月1日

規定を整理してみましょう。


事業者が
・所得税法第66条第2項又は
・法人税法第64条第2項
に規定する工事(注1)の請負に係る契約に基づき
資産の譲渡等を行う場合において、

当該事業者がこれらの規定の適用を受けるため
その工事の請負に係る対価の額につき
これらの規定に規定する工事進行基準の方法により
経理することとしているときは、

当該工事の目的物のうち
当該方法により経理した収入金額又は収益の額に係る部分については、

当該事業者は、

・これらの規定によりその収入金額が総収入金額に算入された
それぞれの年の十二月三十一日の属する課税期間又は
・その収益の額が益金の額に算入された
それぞれの事業年度終了の日の属する課税期間

において、資産の譲渡等を行つたものとすることができる。

ただし、
・所得税法第66条第2項ただし書又は
・法人税法第64条第2項ただし書
に規定する場合に該当することとなつた場合は、

・所得税法第66条第2項ただし書に規定する
経理しなかつた年の12月31日の属する課税期間以後の課税期間又は
・法人税法第64条第2項ただし書に規定する
経理しなかつた決算に係る事業年度終了の日の属する課税期間以後の課税期間

については、この限りでない。

注1、以下この条において「工事」という。


長期大規模工事に該当しない工事については、
工事進行基準の方法により経理した場合に、
進捗に応じて対価の額を計上することが可能です。

工事進行基準の方法による経理を止めた場合は、
進捗に応じて対価の額を計上せずに、工事の請負の特例が終了します。

工事が完了した場合

工事の請負の特例を適用すると、
進捗に応じて対価の額を計上していきます。

実際に工事が完成した場合は、
工事の請負対価の額から先に計上した対価の額をマイナスします。

算式
完成時の対価の額=工事の請負対価の額-計上済の対価の額

規定を確認してみましょう。

3 第一項又は前項本文の規定の適用を受けた事業者が第一項の長期大規模工事又は前項の工事の目的物の引渡しを行つた場合には、当該長期大規模工事又は工事の請負に係る資産の譲渡等のうち、その着手の日の属する課税期間から当該引渡しの日の属する課税期間の直前の課税期間までの各課税期間においてこれらの規定により資産の譲渡等を行つたものとされた部分については、同日の属する課税期間においては資産の譲渡等がなかつたものとして、当該部分に係る対価の額の合計額を当該長期大規模工事又は工事の請負に係る対価の額から控除する。

消費税法第17条第3項、施行日令和5年10月1日

規定を整理してみましょう。


第1項又は前項(第2項)本文の規定の適用を受けた事業者が
第1項の長期大規模工事又は前項(第2項)の工事
の目的物の引渡しを行つた場合には、

当該長期大規模工事又は工事の請負に係る資産の譲渡等のうち、
・その着手の日の属する課税期間から
・当該引渡しの日の属する課税期間の直前の課税期間まで
の各課税期間において

これらの規定により資産の譲渡等を行つたものとされた部分については、
同日の属する課税期間においては資産の譲渡等がなかつたものとして、
当該部分に係る対価の額の合計額を
当該長期大規模工事又は工事の請負に係る対価の額から控除する。

事例

具体的な事例で確認してみましょう。

3月決算法人、工事進行基準に該当しない工事、対価の額は1,000
第1期と第2期は工事進行基準の方法により経理していたが、
第3期に工事進行基準の経理を止めた。
第4期に工事が完成し、引き渡しを行った。

各期の進捗
第1期、20%
第2期、55%
第3期、80%
第4期、100%

工事の請負の特例を適用しない場合は、
工事の完成引き渡しを行った第4期に、対価の額1,000を計上します。

工事の請負の特例を適用する場合は、
進捗に応じて対価の額を計上します。

第1期、1,000×20%=200

第2期、1,000×55%=550-200=350
計上済の200をマイナスします。

第3期、経理を止めたため、0

第4期、1,000-(200+350)=450
計上済の550をマイナスします。

手続き

工事の請負の特例については、
消費税の確定申告書に特例の適用を受ける旨の付記が必要です。
(消費税の確定申告書、第1表、33欄)

まとめ
内容長期大規模工事以外の工事
原則の取扱い完成引渡し時に
対価の額を計上
同左
経理要件なしあり
経理を止めた場合特例は選択できる特例は終了する
完成引渡し時対価の額から計上済の金額をマイナス同左
手続きの付記あり同左
まとめ
参考規定

手続き

4 前三項の規定の適用を受けようとする事業者は、第四十五条第一項の規定による申告書にその旨を付記するものとする。

消費税法第17条第4項、施行日令和5年10月1日

政令委任

5 前項に定めるもののほか、第一項若しくは第二項の規定の適用を受ける個人事業者が死亡した場合、これらの規定の適用を受ける法人が合併により消滅した場合又はこれらの規定の適用を受ける法人が分割により長期大規模工事若しくは工事に係る事業を分割承継法人に承継させた場合における長期大規模工事又は工事に係る資産の譲渡等の時期の特例その他第一項から第三項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

消費税法第17条第5項、施行日令和5年10月1日
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