後期高齢者の医療費負担の仕組み


 今回は後期高齢者の医療負担の仕組みについて、調べて気になったので確認します。税金とは直接関係ないようにも見えますが、後期高齢者の医療費負担は、住民税の所得金額によって変わります。医療費の「1割負担」「3割負担」は、「高齢者の医療の確保に関する法律」に規定されています。

高齢者の医療の確保に関する法律

(一部負担金)
第六十七条 第六十四条第三項の規定により保険医療機関等について療養の給付を受ける者は、その給付を受ける際、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該給付につき第七十条第二項又は第七十一条第一項の療養の給付に要する費用の額の算定に関する基準により算定した額に当該各号に定める割合を乗じて得た額を、一部負担金として、当該保険医療機関等に支払わなければならない。
一 次号に掲げる場合以外の場合 10%
 当該療養の給付を受ける者又はその属する世帯の他の世帯員である被保険者その他政令で定める者について政令で定めるところにより算定した所得の額が政令で定める額以上である場合 30%

高齢者の医療の確保に関する法律

 1号が1割負担、2号が3割負担です。2号は、政令で定める額「以上」である場合、3割負担となりますので、政令(高齢者の医療の確保に関する法律施行令)を確認します。

2 法第六十七条第一項第二号に規定する政令で定める額は、145万円とする。

高齢者の医療の確保に関する法律施行令、(一部負担金に係る所得の額の算定方法等)第七条

 「2号の政令で定めるところにより算定した所得の額」は、住民税の合計所得金額(所得税の合計所得金額とは異なる)で、長々と規定されています。住民税の合計所得金額が145万円以上であれば、医療費負担が3割負担となることがわかります。法律によくある例外規定もあります。

145万円基準の例外

3 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する者については、適用しない。
一 当該療養の給付を受ける者及びその属する世帯の他の世帯員である被保険者について厚生労働省令で定めるところにより算定した収入の額が520万円(当該世帯に他の被保険者がいない者にあっては、383万円)に満たない者

二 当該療養の給付を受ける者(その属する世帯に他の被保険者がいない者であって七十歳以上七十五歳未満の法第七条第四項に規定する加入者(以下この号において「加入者」という。)がいるものに限る。)及びその属する世帯の加入者について前号の厚生労働省令で定めるところにより算定した収入の額が520万円に満たない者

三 当該療養の給付を受ける者及びその属する世帯の他の世帯員である被保険者について当該療養の給付を受ける日の属する年の前年(当該療養の給付を受ける日の属する月が一月から七月までの場合にあっては、前々年)の第十八条第一項第二号に規定する基礎控除後の総所得金額等の算定の例により算定した額を合算した額が210万円以下である者

高齢者の医療の確保に関する法律施行令、(一部負担金に係る所得の額の算定方法等)第七条

 145万円基準は、上記1号、2号、3号のいずれかにあてはまる場合は適用されません。いずれかにあてはまれば、3割負担ではなく1割負担となります。「厚生労働省令」が出てきましたので、「厚生労働省令」を確認します。

どの収入金額?

(令第七条第三項第一号に規定する収入の額)
第三十一条 令第七条第三項第一号に規定する収入の額は、厚生労働大臣の定めるところにより、同項第一号又は第二号に規定する者の療養の給付を受ける日の属する年の前年(当該療養の給付を受ける日の属する月が一月から七月までの場合にあっては、前々年)における所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第三十六条第一項に規定する各種所得の金額(退職所得の金額(同法第三十条第二項に規定する退職所得の金額をいう。)を除く。)計算上収入金額とすべき金額及び総収入金額に算入すべき金額を合算した額とする。

高齢者の医療の確保に関する法律施行規則

 気になるのが、「所得税法」の収入金額などと規定されています。「地方税法(住民税)」の収入金額などではありません。所得税の申告で上場株式等の配当所得や譲渡所得を申告して、住民税の申告で申告不要を選択することがあります。この住民税の申告で申告不要を選択した場合は、住民税の合計所得金額に含まれません。

12 特定配当等に係る所得を有する者に係る総所得金額は、当該特定配当等に係る所得の金額を除外して算定するものとする。

14 特定株式等譲渡所得金額に係る所得を有する者に係る総所得金額は、当該特定株式等譲渡所得金額に係る所得の金額を除外して算定するものとする。

地方税法第三十二条(所得割の課税標準)

 住民税の申告の仕組みは複雑で所得税の申告を行うと、住民税の申告をしたものと取り扱われます。

 例えば、上場株式等の配当を所得税で申告した場合、住民税の申告で申告したものとして処理されます。逆に上場株式等の配当を所得税で申告しなかった場合、住民税の申告で申告しなかったものとして処理されます。所得税の申告と住民税の申告で異なる処理を行う場合は、所得税の申告とは別に住民税の申告を行う必要があります。実務上よくある論点です。

 話は戻して「後期高齢者の医療費負担」の判定上は、「所得税法」の収入金額と規定されています。

 「この収入金額は、所得税法(申告する場合の収入)か地方税法(申告しない場合の収入)か、どっちの収入金額でしょうか?」と担当者に確認したところ「地方税法(住民税)、申告しない方で」と回答を受けたのですが、規定上は「所得税法」のような気もします。どっちなんでしょうね。

 私が受けた案件では住民税の申告不要を選択して、住民税の合計所得金額が145万円未満になったため、配当や譲渡の収入金額(所得税法も地方税法も)は関係ありませんでした。住民税の合計所得金額が145万円以上になるケースでは、落とし穴かもしれません。直接受けた案件ではありませんが、「所得税の申告不要」を選択した場合であっても、「所得税の収入に算入すべき金額」であるため、恩恵(特典)を受けられないというような話を聞いたことがあります(うろ覚え)ので、実際ボーダーラインにあたったときは、担当者によく確認した方が良いでしょう。

PAGE TOP