所得税の損益通算


今回は、所得税の損益通算を確認します。

損益通算の内容

損益通算とは、所得区分が異なる所得と損失を相殺するものです。

損益通算の規定を確認します。

第六十九条 総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。

所得税法

総所得金額は、10種類に分けた所得を
退職所得と山林所得を除いた次の8つの所得を合計したものです。
(利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得、一時所得、雑所得)

「総所得金額を計算する場合において」は、所得税の第2段階の計算です。

  1. 各種所得の金額の計算(10種類の所得を計算)
  2. 総所得金額などの計算 ← この計算
  3. 所得控除
  4. 課税される総所得金額などの計算
  5. 税額計算

他の「各種所得の金額から控除する」は、
所得区分が異なる黒字から(赤字を)控除するという意味です。
例えば、不動産賃貸業の赤字を
卸売業(事業所得)の黒字から控除する場合です。

黒字と相殺できる赤字(損益通算の対象となる赤字)

損益通算の対象となる所得は、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つです。他の所得に赤字が生じたとしても損益通算できません。損益通算の順番については複雑なので今回は省略します。

計算例1
雑所得+100、不動産所得△40の場合、
損益通算により雑所得100-不動産所得40=雑所得60となります。

計算例2
雑所得△40、不動産所得+100の場合、
雑所得△100は損益通算の対象となる赤字ではないため、
不動産所得+100となります。

所得の種類別に損益通算をまとめると以下のとおりです。
○が損益通算できるもの、-が損益通算できないものです。

所得の種類黒字赤字
利子所得
配当所得
不動産所得
事業所得
給与所得
退職所得
山林所得
譲渡所得
一時所得
雑所得
所得別の損益通算の可否
損益通算による税金対策?

○○をして税金を少なくしようみたいな話があります。方法は色々あると思いますが、よく耳にするのが「副業」です。副業そのものが税金対策になるわけではありません。副業で「赤字」が出れば、他の所得(例えば給料)と損益通算により、他の所得の税金が少なくできるという理屈です。

副業はどの所得区分に当たるのでしょうか?
損益通算の対象となる赤字は、
不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の赤字に限定されています。

副業で山林所得と譲渡所得が生じることはまずないでしょう。
残るは不動産所得と事業所得です。
不動産所得であれば、基本的に損益通算できます。
事業所得についても基本的に損益通算できます。
ただし、損益通算するためには、
副業が事業に該当するか判定する必要があります。

事業所得の判断

事業所得の定義を確認します。

(事業所得)
第二十七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。

所得税法

政令を確認します。

(事業の範囲)
第六十三条 法第二十七条第一項(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。
 農業
 林業及び狩猟業
 漁業及び水産養殖業
 鉱業(土石採取業を含む。)
 建設業
 製造業
 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)
 金融業及び保険業
 不動産業
 運輸通信業(倉庫業を含む。)
十一 医療保健業、著述業その他のサービス業
十二 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業

所得税法施行令

各事業が列挙されているだけで具体的には判定できません。
事業所得などの所得区分については複数の裁判例がありますので、
事業所得の考え方を確認します。

すなわち、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかか重視されなければならない。

昭和56年4月24日の判決、3ページから4ページ
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=56332

上記は、事業所得と給与所得の解釈です。

事業所得とは
・自己の計算と危険において独立して営まれ、
・営利性、有償性を有し、かつ
・反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務
から生ずる所得と述べられています。

仮に副業が事業として認められる場合、事業所得の赤字として損益通算できます。逆に副業が事業として認められない場合、一般的には雑所得の赤字として損益通算できません。

不動産所得

不動産所得の場合、基本的に損益通算できますが前提があります。その前提は業務のために使用した経費が「必要経費」として認められることです。必要経費でないものは、不動産所得の総収入金額から差し引けません。

(不動産所得)
第二十六条 不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
 不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。

所得税法

必要経費は、通則規定があります。

(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

所得税法

必要経費のポイントは、2つです。

  1. これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額
  2. その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額

1つ目は、所得を得るために直接かかった費用です。
2つ目は、その業務に関する費用です。

税務調査で問題となるのは2でしょう。問題となった場合、業務上必要な費用であることを証明する必要があります。

まとめ
  1. 経費や支出が「必要経費」として認められる必要があります。
  2. 不動産所得の赤字は、原則として損益通算できます。
  3. 不動産所得でない場合は、事業所得か雑所得か判断します。
  4. 事業所得の赤字は、原則として損益通算できます。
  5. 雑所得の赤字は、損益通算できません。
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