所得税の貸倒引当金の設定


今回は、所得税の貸倒引当金の設定を確認してみましょう。

内容

売掛金(売上代金の未回収分)については、
回収できずに貸倒れの可能性があるため、
会計上、貸倒引当金を設定(費用の見込み計算)できます。

そのため、所得税の計算にも、
貸倒引当金の設定が認められています。

貸倒れの可能性に応じて、次の2つの方法があります。
1、個別に評価する方法
2、個別に評価しないで一括で評価する方法

個別に評価する方法

貸倒れの可能性が高い売掛金などについては、
個別に貸倒引当金を設定できます。

対象となる所得区分は、次の3つです。
全て事業として行っている必要があります。
・不動産所得
・事業所得
・山林所得

貸倒れの可能性が高い事実とは、
更生計画認可の決定などにより
弁済猶予(回収を待つ)や
賦払弁済(分割回収)が発生することです。

貸倒引当金の要件を満たす金銭債権などを
「個別評価貸金等」といい、
債務者毎に必要経費となる金額を計算します。

計算用紙は
「個別評価による貸倒引当金に関する明細書」を使用します。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/pdf/10-04.pdf

最後の15欄、個別評価による繰入額の金額を
青色申告決算書、2ページ、左下、1欄に転記します。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/r03/10.pdf

個別に評価する方法については、
貸倒れの可能性が高いため、白色申告者も設定可能です。

一括で評価する方法

貸倒れの可能性が低い売掛金などについては、
売掛金や受取手形を一括して貸倒引当金を設定できます。

一括で評価する方法は、青色申告者に限られ、
所得区分も事業所得に限られます。
(不動産所得、山林所得は設定できません。)

貸倒引当金の要件を満たす金銭債権などを「一括評価貸金」といい、
12/31時点の売掛金や受取手形を合計して必要経費を計算します。

記入方法
青色申告決算書の2ページ、2欄に年末の一括評価貸金を記入し、
2欄×5.5%を3欄と4欄に記入します。

1欄(個別評価)+4欄(一括評価)=5欄(貸倒引当金の必要経費)を
1ページの39欄、貸倒引当金(繰入額等)に忘れずに記入しましょう。

手続き

貸倒引当金の設定については、
確定申告書に「必要経費への算入に関する明細の記載」が必要です。

設定した翌年の取扱い

貸倒引当金の設定は見込み計算のため、
設定した次の年度は、戻入れ(収入金額の計上)が必要です。

青色申告の場合は、
青色申告決算書の1ページ、
34欄、貸倒引当金(戻入額等)に記入します。

白色申告の場合は、記入欄が設けられていないため、
その他の収入に記入しましょう。

個人事業者が亡くなった場合

個人事業者が亡くなった場合においても
要件を満たせば、貸倒引当金は設定できます。

個別評価貸金等の貸倒引当金については、
相続人が事業を承継する必要があります。

一括評価貸金の貸倒引当金については、
相続人が事業を承継し、相続人が青色申告する必要があります。

戻入れ(収入金額の計上)は、亡くなった方ではなく、
相続人の収入金額となります。

まとめ
内容個別評価一括評価
所得区分不動産所得、
事業所得、山林所得
事業所得
事業の大きさ事業的規模事業的規模
申告方法青色白色問わない青色申告
金銭債権売掛金など売掛金など
事由更生計画認可の決定等
計算方法個別に計算原則、一括して5.5%
翌年の取扱い戻入れ(収入計上)戻入れ(収入計上)
貸倒引当金のまとめ
参考規定

個別評価貸金等の貸倒引当金

(貸倒引当金)
第五十二条 不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を営む居住者が、その有する売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる金銭債権(債券に表示されるべきものを除く。次項において同じ。)で当該事業の遂行上生じたもの(以下この項において「貸金等」という。)のうち、更生計画認可の決定に基づいて弁済を猶予され、又は賦払により弁済されることその他の政令で定める事実が生じていることによりその一部につき貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれるもの(当該貸金等に係る債務者に対する他の貸金等がある場合には、当該他の貸金等を含む。以下この項及び次項において「個別評価貸金等」という。)のその損失の見込額として、各年(事業の全部を譲渡し、又は廃止した日の属する年を除く。次項において同じ。)において貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、当該金額のうち、その年十二月三十一日(その者が年の中途において死亡した場合には、その死亡の時。次項において同じ。)において当該個別評価貸金等の取立て又は弁済の見込みがないと認められる部分の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は、その者のその年分の不動産所得、事業所得又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。ただし、その者が死亡した場合において、その相続人が当該事業を承継しなかつたときは、この限りでない。

所得税法第52条1項、施行日令和5年10月1日

規定を整理してみましょう。


不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を営む居住者が、
その有する売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる金銭債権(注1)で
当該事業の遂行上生じたもの(注2)のうち、
更生計画認可の決定に基づいて
弁済を猶予され、又は賦払により弁済されること
その他の政令で定める事実が生じていることにより
その一部につき貸倒れその他これに類する事由による
損失が見込まれるもの(注3)のその損失の見込額として、
各年(注4)において貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、

当該金額のうち、その年12月31日(注5)において
当該個別評価貸金等の取立て又は弁済の見込みがないと
認められる部分の金額を基礎として
政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は、

その者のその年分の不動産所得、事業所得又は山林所得の金額の計算上、
必要経費に算入する。
ただし、その者が死亡した場合において、
その相続人が当該事業を承継しなかつたときは、この限りでない。


注1、債券に表示されるべきものを除く。次項において同じ。

注2、以下この項において「貸金等」という。

注3、当該貸金等に係る債務者に対する他の貸金等がある場合には、
当該他の貸金等を含む。
以下この項及び次項において「個別評価貸金等」という。

注4、事業の全部を譲渡し、又は廃止した日の属する年を除く。
次項において同じ。

注5、その者が年の中途において死亡した場合には、その死亡の時。
次項において同じ。


一括評価貸金の貸倒引当金

2 青色申告書を提出する居住者で事業所得を生ずべき事業を営むものが、その有する売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権で当該事業の遂行上生じたもの(個別評価貸金等を除く。以下この項において「一括評価貸金」という。)の貸倒れによる損失の見込額として、各年において貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、当該金額のうち、その年十二月三十一日において有する一括評価貸金の額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は、その者のその年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する。ただし、その者が死亡した場合において、その相続人が当該事業を承継しなかつたとき、その他政令で定める場合は、この限りでない。

所得税法第52条2項、施行日令和5年10月1日

規定を整理してみましょう。


青色申告書を提出する居住者で事業所得を生ずべき事業を営むものが、
その有する売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権で
当該事業の遂行上生じたもの(注1)の貸倒れによる損失の見込額として、
各年において貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、
当該金額のうち、その年12月31日において有する
一括評価貸金の額を基礎として
政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額は、

その者のその年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
ただし、その者が死亡した場合において、
その相続人が当該事業を承継しなかつたとき、
その他政令で定める場合は、この限りでない。

注1、個別評価貸金等を除く。以下この項において「一括評価貸金」という。


3 前二項の規定によりその繰入れをした年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入された貸倒引当金勘定の金額は、その繰入れをした年の翌年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。

所得税法第52条3項、施行日令和5年10月1日

手続き

4 第一項及び第二項の規定は、確定申告書に貸倒引当金勘定に繰り入れた金額の必要経費への算入に関する明細の記載がある場合に限り、適用する。

所得税法第52条4項、施行日令和5年10月1日

宥恕規定

5 税務署長は、前項の記載がない確定申告書の提出があつた場合においても、その記載がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、第一項又は第二項の規定を適用することができる。

所得税法第52条5項、施行日令和5年10月1日

政令委任

6 第一項又は第二項に規定する居住者が死亡した場合において、これらの規定によりその者の死亡の日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入された貸倒引当金勘定の金額があるときにおける当該貸倒引当金勘定の金額の処理に関し必要な事項は、政令で定める。

所得税法第52条6項、施行日令和5年10月1日
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