所得税の賃上げ促進税制_中堅事業者向けの特例


今回は、所得税の賃上げ促進税制のうち
中堅事業者向けの特例を確認してみましょう。

所得税の取扱い

・前年の従業員に対する給料
・本年の従業員に対する給料
この2つを比較して増加(賃上げ)した部分に対して、
所得税を減らす特例を「賃上げ促進税制」といいます。

所得税の賃上げ促進税制については、次の3つの特例があります。
・全事業者向けの特例
・中堅事業者向けの特例
・中小事業者向けの特例
(法人税にも同様の特例があります。)

今回は、中堅事業者向けの特例を確認してみましょう。

特例の要件

特例を利用できる個人事業者は、青色申告している人に限られます。
白色申告では利用できません。

利用できる年分は、令和7年から令和9年までの3年間です。
ただし、次の2つの年については利用できません。
・令和7年以後の事業開始の年
・事業廃止の年

中堅事業者向けの特例は、令和6年の改正で新設されたものですので、
令和6年分の所得税では利用できませんので注意しましょう。

令和6年以後に事業を開始して、
令和7年に中堅事業者向けの特例を利用することは可能です。

対象となる給料の支払いは、
従業員、アルバイト、パートなどの給料です。
ただし、配偶者や親族に対する給料は、特例の対象外となります。
(全事業者向けの特例と同じ。)

中堅事業者向けの特例では、全事業者向けの特例にはない
・年末時点で特定個人であること
が要件に追加されています。

特定個人とは、
・常時使用する従業員の数が2000人以下
の個人をいいます。

従業員などに対する給料の増加については、一定の方法で計算した割合(継続雇用者給与等支給増加割合)が3%以上必要です。
(全事業者向けの特例と同じ。)

具体的には、次の算式で計算した割合です。

継続雇用者給与等支給額-継続雇用者比較給与等支給額(=増加額)
——————————————————————————
継続雇用者比較給与等支給額

継続雇用者とは、
前年も本年も継続して雇用されている従業員などをいいます。

継続雇用者給与等支給額は、
継続雇用者に対する本年の給料や賞与をいいます。

継続雇用者比較給与等支給額は、
継続雇用者に対する前年の給料や賞与をいいます。

数字で計算式を確認してみましょう。

従業員Aの給料が次の場合
・継続雇用者給与等支給額(本年) 450万円
・継続雇用者比較給与等支給額(前年) 430万円

継続雇用者給与等支給増加割合は、
450万円(本年)-430万円(前年)=20万円(増加額)
20万円(増加額)÷430万円(前年)=約4.6%となります。

約4.6%≧3%となるため要件を満たします。
増加割合は、対象者となる給料の合計で判定します。

中堅事業者向けの特例については、
全事業者向けの従業員が2000人を超える場合の
マルチステークホルダーの要件がありません。

控除できる金額

控除できる金額は、
・控除対象雇用者給与等支給増加額×10%(=税額控除限度額)
となります。

控除対象雇用者給与等支給増加額は、
控除の対象となる「雇用者に対する給与等の増加額」という意味です。

所得税の控除については、上限があります。
上限は、調整前事業所得税額×20%です。

調整前事業所得税額とは、
「事業から生じた所得に対する所得税」をいいます。

金額を使って、確認してみましょう。

控除対象雇用者給与等支給増加額が500万円の場合
税額控除限度額は、×10%で50万円となります。

調整前事業所得税額が100万円の場合、
控除の上限は、×20%で20万円となります。

税額控除限度額50万円>控除上限20万円となりますので、
控除できる金額は、20万円となります。

参考規定

賃上げ促進税制、中堅事業者向けの特例

2 青色申告書を提出する個人が、令和七年から令和九年までの各年(前項の規定の適用を受ける年、令和七年以後に事業を開始した個人のその開始した日の属する年及びその事業を廃止した日の属する年を除く。)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合で、かつ、その年十二月三十一日において特定個人に該当する場合において、その年において当該個人の継続雇用者給与等支給額からその継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の当該継続雇用者比較給与等支給額に対する割合(第一号において「継続雇用者給与等支給増加割合」という。)が百分の三以上であるときは、当該個人のその年分の総所得金額に係る所得税の額から、政令で定めるところにより、当該個人のその年の控除対象雇用者給与等支給増加額(その年において第十条の五の規定の適用を受ける場合には、同条の規定による控除を受ける金額の計算の基礎となつた者に対する給与等の支給額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した残額)に百分の十(その年において次の各号に掲げる要件を満たす場合には、百分の十に当該各号に定める割合(その年において次の各号のうち二以上の号に掲げる要件を満たす場合には、当該二以上の号に定める割合を合計した割合)を加算した割合)を乗じて計算した金額(以下この項において「特定税額控除限度額」という。)を控除する。この場合において、当該特定税額控除限度額が、当該個人のその年分の調整前事業所得税額の百分の二十に相当する金額を超えるときは、その控除を受ける金額は、当該百分の二十に相当する金額を限度とする。
以下省略

租税特別措置法第10条の5の4第2項、施行日令和6年10月1日

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