所得税の賃上げ促進税制_教育訓練費の調整計算の概要


今回は、所得税の賃上げ促進税制のうち
教育訓練費の調整計算の概要を確認してみましょう。

教育訓練費の調整計算

所得税の賃上げ促進税制には、
・全事業者向けの特例
・中堅企業者向けの特例
・中小企業者向けの特例
の3つがあり、それぞれ教育訓練費の要件を満たした場合に、
所得税を割増しで控除できる特例があります。

法人税の計算では、合併や分割があった場合に教育訓練費の調整計算が必要となりますが、所得税の計算には合併や分割がありません。調整計算はないと思っていましたが、相続により事業を承継した場合は、教育訓練費の調整計算が必要となります。

規定の内容をまとめてみますと

所得税の賃上げ促進税制を利用しようとする個人が
利用しようとする年(適用年)の
比較教育訓練費(前年の教育訓練費)の計算における
教育訓練費については、一定の方法により調整する。

と規定されています。

一定の方法は2つです。
1、適用年に相続により事業を承継した場合
2、適用年の1年前に相続により事業を承継した場合
(詳細は別記事)

教育訓練費の違い

規定の中で気になる点がありますので、確認してみましょう。
(参考規定は最後に掲載しています。)

下記の規定です。


当該個人の当該各号に規定する調整対象年に係る教育訓練費の額(個人のその年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される同条第一項第二号イに規定する教育訓練費の額をいう。第十九項を除き、以下この条において同じ。)は、

同条第一項第二号イは、租税特別措置法第10条の5の4第1項第2号イを指しています。

確認してみましょう。

教育訓練費の額(その教育訓練費に充てるため他の者(その個人が非居住者である場合の所得税法第百六十一条第一項第一号に規定する事業場等を含む。第五項第三号において同じ。)から支払を受ける金額がある場合には、当該金額を控除した金額。以下この条において同じ。)

教育訓練費に充てるために
「他の人から受け取る金額」がある場合には、
その受け取る金額をマイナスした金額

とあります。実質的に負担した教育訓練費を指しています。

そのため、調整対象年(前年)に係る教育訓練費の額は、
「他の人から受け取る金額」をマイナスした
実施的に負担した教育訓練費となります。

さらにカッコ書きの中で
・第19項を除き、以下この条において同じ。
とあります。

第19項を除き、教育訓練費については、
実質的に負担した教育訓練費となります。

第19項には、何が規定されているのでしょうか。

第19項は、相続により事業を承継した場合の給与等の調整計算に関する規定です。第19項では、「給与等支給額(個人のその年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。)を第16項(教育訓練費の調整計算)の教育訓練費の額として取り扱う」とあります。

上記の給与等支給額は、
「他の者から受け取る金額」をマイナスしますが、
雇用安定助成金額などの補填額をマイナスしない金額となります。

給与等支給額(他の者から受け取る金額をマイナスするが、補填額をマイナスしない)を教育訓練費(他の者から受け取る金額をマイナスする)として取り扱うという意味になります。

第19項を除外しない場合、第19項で規定されている「第16項の教育訓練費」が相続による事業を承継した場合の調整計算の後という意味になるのでしょう。

「第16項の」は、相続による事業を承継した場合の調整計算をする前、比較月数が異なる場合の調整計算の後という意味だと考えます。

参考規定

相続があった場合の教育訓練費の調整計算

16 法第十条の五の四第一項から第三項までの規定の適用を受けようとする個人が次の各号に掲げる場合に該当する場合のその適用を受けようとする年(以下この項において「適用年」という。)の当該個人の同条第五項第七号に規定する比較教育訓練費の額の計算における同号の教育訓練費の額については、当該個人の当該各号に規定する調整対象年に係る教育訓練費の額(個人のその年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される同条第一項第二号イに規定する教育訓練費の額をいう。第十九項を除き、以下この条において同じ。)は、当該各号に定めるところによる。
以下省略

租税特別措置法施行令第5条の6の4第16項柱書、施行日令和6年10月1日

相続があった場合の給与等支給額の調整計算

19 法第十条の五の四第一項から第四項までの規定の適用を受けようとする個人のその適用を受けようとする年(以下この項において「適用年」という。)の前年又は当該適用年において承継事業を相続により承継した場合の当該個人の当該適用年における同条第五項第十号に規定する比較雇用者給与等支給額の計算における当該個人の適用年の前年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される同号の給与等の支給額(当該適用年において事業を営んでいた期間の月数と当該適用年の前年において事業を営んでいた期間の月数とが異なる場合には、前項の給与等支給額)については、給与等支給額(個人のその年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。)を第十六項の教育訓練費の額と、当該個人の当該適用年の前年を同項各号に規定する調整対象年と、それぞれみなした場合における同項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定めるところによる。

租税特別措置法施行令第5条の6の4第19項柱書、施行日令和6年10月1日

PAGE TOP