所得税基本通達の改正_純損失の繰越控除関係


今回は、所得税基本通達の改正のうち、
純損失の繰越控除関係を確認します。

純損失の繰越控除の変更点

以下3つを確認します。

1、文言の変更
2、対象資産
3、基本通達51-2と51-6

文言変更

通達70-4(固定資産等の損失に関する取扱いの準用)の文言が
「事業用固定資産」から下線部分に変更されています。

固定資産等の損失に関する取扱いの準用

70-4 法第70条第3項の「第51条第1項又は第3項に規定する資産」の災害による損失の金額及び法第70条第3項かっこ内に規定する「その他これらに類するもの」については、51-2及び51-6の取扱いに準ずる。

所得税基本通達、改正後

「特定非常災害の繰越控除の特例(繰越し期間が3年から5年に)」が
新しく規定されて、「事業用固定資産」が定義されたからです。
(改正前の法令に事業用固定資産の定義はありません。)

事業用固定資産の定義

4 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 事業用固定資産 土地及び土地の上に存する権利以外の固定資産等(固定資産その他これに準ずる資産で政令で定めるものをいう。第七号において同じ。)をいう。

所得税法第70条の2

「これに準ずる資産で政令で定めるもの」は、
繰延資産の簿価(未償却残高)を指します。
事業用固定資産に、土地等は含まれません。

繰延資産の未償却残高

4 法第七十条の二第四項第三号に規定する政令で定める資産は、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に係る繰延資産のうちまだ必要経費に算入されていない部分とする。

所得税法施行令203条の2
対象資産

「第51条第1項又は第3項に規定する資産」を確認してみましょう。

51条1項は事業用の固定資産等の資産損失の対象となるもの、
51条3項は災害・盗難・横領により生じた山林
に関する規定です。

通達の内容を整理すると

「白色申告の純損失の繰越控除」の
資産損失の対象となる資産の災害による損失の金額と

「白色申告の純損失の繰越控除」の
保険金等に類するものについては、

資産損失の通達(51-2と51-6)の取扱いに準ずる。

となります。

基本通達51-2と51-6

51-2は、損失の金額に関する通達です。

(損失の金額)
51-2 法第51条第1項、第3項又は第4項に規定する損失の金額とは、資産そのものについて生じた損失の金額をいい、当該損失の金額は、当該資産について令第142条《必要経費に算入される資産損失の金額》又は第143条《昭和27年12月31日以前に取得した資産の損失の金額の特例》の規定を適用して計算した金額からその損失の基因となった事実の発生直後における当該資産の価額及び発生資材の価額の合計額を控除した残額に相当する金額とする。

所得税基本通達

損失の金額は、
損失直前の簿価-(損失直後の簿価+発生資材の価額)で計算します。

全損の場合は、直前の簿価がそのまま損失となりますが、
一部損壊の場合は、損失の金額が直前の簿価と一致しません。
また、スクラップ等の資材がある場合は損失の金額からマイナスします。

51-6は、受け取った保険金等に類するものの範囲です。

(保険金、損害賠償金に類するものの範囲)
51-6 法第51条第1項、第3項又は第4項に規定する「その他これらに類するもの」には、次に掲げるようなものが含まれる。(平23課個2-33、課法9-9、課審4-46改正)
(1) 損害保険契約又は火災共済契約に基づき被災者が支払を受ける見舞金
(2) 資産の損害のほてんを目的とする任意の互助組織から支払を受ける災害見舞金

所得税基本通達

保険金そのものだけではなく、
見舞金についても保険金と同様に、損失の金額からマイナスします。

特定非常災害に係る純損失の繰越控除の特例の変更点

新設された通達は4つです。

1、固定資産等の損失に関する取扱いの準用
2、棚卸資産に含まれるもの
3、棚卸資産の被災損失額等に関する取扱いの準用
4、災害損失特別勘定を設定した場合の被災事業用資産の損失の範囲等

今回は、1から3までを確認していきます。

固定資産等の損失に関する取扱いの準用

70の2-1(固定資産等の損失に関する取扱いの準用)は、先ほど確認した
70-4(固定資産等の損失に関する取扱いの準用)と内容は同じです。

固定資産等の損失に関する取扱いの準用

70の2-1 法第70条の2第4項第2号の事業用固定資産の特定非常災害による損失の金額及び同号かっこ内に規定する「その他これらに類するもの」については、51-2及び51-6の取扱いに準ずる。

所得税基本通達
棚卸資産に含まれるもの

棚卸資産には、準棚卸資産を含むとする通達です。
準棚卸資産って何?と思いますので、確認してみましょう。

棚卸資産の範囲

70の2-2 法第70条の2第4項第6号に規定する棚卸資産には、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業に係る令第81条第1号((譲渡所得の基因とされない棚卸資産に準ずる資産))に掲げる資産が含まれるものとする。

所得税基本通達

準棚卸資産の範囲(譲渡所得の対象外)

(譲渡所得の基因とされない棚卸資産に準ずる資産)
第八十一条 法第三十三条第二項第一号(譲渡所得)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる資産とする。
一 不動産所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に係る第三条各号(棚卸資産の範囲)に掲げる資産に準ずる資産
二 減価償却資産で第百三十八条第一項(少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入)の規定に該当するもの(同項に規定する取得価額が十万円未満であるもののうち、その者の業務の性質上基本的に重要なものを除く。)
三 減価償却資産で第百三十九条第一項(一括償却資産の必要経費算入)の規定の適用を受けたもの(その者の業務の性質上基本的に重要なものを除く。)

所得税法施行令

1号について
所得税の棚卸資産は、事業所得に限定されていますので、
不動産所得、山林所得、雑所得が含まれていません。

そのため、上記3つの所得については、
「棚卸資産に準ずる資産」を定義して、
譲渡所得の対象から外す規定があります。

2 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
二 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得

所得税法33条

譲渡所得の対象から外された準棚卸資産については、
棚卸資産として5年繰越しの対象となります。

2号、3号について
所得税の経費の計算で、
1つ10万円未満の固定資産を一括で経費にしたり、
1つ20万円未満の固定資産について1/3ずつ経費にしたりした場合は、
譲渡所得の対象資産から外す規定があります。
ただし、重要な資産は除外されます(譲渡所得の対象です)。

通達では、「令第81条第1号((譲渡所得の基因とされない棚卸資産に準ずる資産))に掲げる資産が含まれる」とあるため、

10万円未満(2号)、20万円未満(3号)については
棚卸資産の範囲に含まれていません。固定資産の範囲に入るのでしょう。

1つ10万円未満の固定資産については、
一括で経費にしている(簿価0円だ)から影響あるのだろうか?
と考えましたが、

「貸付け用」については、10万円未満であっても、
一括で経費処理できないため、準棚卸資産ではなく、
固定資産として処理することになるのでしょうね。

棚卸資産の被災損失額等に関する取扱いの準用

先に通達を確認してみましょう。

70の2-3 法第70条の2第4項第6号に規定する棚卸資産特定災害損失額については、70-2及び70-3の取扱いに準ずる。

所得税基本通達

よくわからないので、
70-2(棚卸資産の被災損失額)を確認してみます。
(70-3(未収穫農作物の被災損失額)は省略)

70-2 棚卸資産(まだ収穫しない水陸稲、麦、野菜等の立毛、果実等(70-3において「未収穫農作物」という。)を除く。)が災害により滅失し又はその価値が減少したために生じた損失の金額は、次に定める区分に応じ、それぞれ次に掲げる金額に相当する金額とする。(平23課個2-33、課法9-9、課審4-46改正)
(1) 滅失した棚卸資産 当該棚卸資産について被災直前において法第47条第1項《棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法》の規定に準じて評価した金額
(2) 価値が減少した棚卸資産 当該棚卸資産につき(1)により評価した金額が被災直後における当該棚卸資産の価額を超える場合における当該超える部分の金額

所得税基本通達

棚卸資産の損失の計算方法が記載されています。

年の途中で災害等が発生して棚卸資産が滅失した場合、
被災直前の棚卸資産の簿価が損失の金額となります。

滅失ではなく価値が下がった場合は、
下がった部分が損失の金額となります。

棚卸資産については、
最終仕入原価法や先入先出法など、複数の評価方法があるため、
これらの評価方法に合わせて評価する必要があります。

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