今回は、新株予約権を対価とする費用の特例の続きを確認してみましょう。
給与等課税事由が生じない場合
売却に制限などが付いている新株予約権を「譲渡制限付新株予約権」といい、譲渡制限付新株予約権のうち、一定の要件を満たすものを「特定新株予約権」といいます。
特定新株予約権がサービス提供の対価として個人に交付された場合には、その個人に給与等課税事由(新株予約権の権利行使など)が生じた日に、サービス提供費用が発生したものとして取り扱われます。
参考リンク
・新株予約権を対価とする費用の特例
給与等課税事由が生じた日にサービス提供費用が認識されますが、給与等課税事由が生じなかったらどうなるのでしょうか?
規定を見てみましょう。
2 前項に規定する場合において、同項の個人において同項の役務の提供につき給与等課税事由が生じないときは、当該役務の提供を受ける内国法人の当該役務の提供を受けたことによる費用の額又は当該役務の全部若しくは一部の提供を受けられなかつたことによる損失の額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
法人税法第54条の2第2項、令和7年6月20日施行
個人からサービス提供を受ける場合において、
サービス提供につき給与等課税事由が生じないときが要件です。
(新株予約権の権利を行使しなかった場合)
要件を満たした場合は、
1、サービス提供費用
2、サービスの提供がないことによる損失
の2つについては、損金の額に算入されません。
法人の仕訳イメージ
役務提供の費用(前払費用) ×× / 特定新株予約権 ××
費用(損金不算入) ×× / 役務提供の費用(前払費用) ××
特定新株予約権が消えた場合
上記の仕訳を見てみましょう。
法人の仕訳イメージ役務提供の費用(前払費用) ×× / 特定新株予約権 ××
費用(損金不算入) ×× / 役務提供の費用(前払費用) ××
費用は、損金の額に算入されません。
残った特定新株予約権は、どうなるでしょうか?
規定を見てみましょう。
3 前項に規定する場合において、特定新株予約権(承継新株予約権を含む。)が消滅をしたときは、当該消滅による利益の額は、これらの新株予約権を発行した法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。
法人税法第54条の2第3項、令和7年6月20日施行
特定新株予約権が消えたことによる利益については、
益金の額に算入されません。
法人の仕訳イメージ
特定新株予約権 ×× / 消滅益(益金不算入) ××
参考情報、承継新株予約権の定義、法人税法第54条の2第1項
合併、分割、株式交換又は株式移転(以下この項において「合併等」という。)に際し当該合併等に係る被合併法人、分割法人、株式交換完全子法人又は株式移転完全子法人の当該特定新株予約権を有する者に対し交付される当該合併等に係る合併法人、分割承継法人、株式交換完全親法人又は株式移転完全親法人の譲渡制限付新株予約権を「承継新株予約権」といいます。例えば、合併があった場合に、被合併法人の特定新株予約権を持っている人に対して交付される合併法人の譲渡制限付新株予約権を「承継新株予約権」といいます。特定新株予約権には、承継新株予約権が含まれます。
明細書の添付
内国法人(当社)は、
・特定新株予約権の1個当たりの交付時の価額
・交付数
・事業年度において行使された数
・特定新株予約権(承継新株予約権)の状況
に関する明細書を確定申告書に添付する必要があります。
参考情報、国税庁、別表14(4)、新株予約権に関する明細書
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/itiran2025/pdf/14(04).pdf
参考規定
4 第一項の個人から役務の提供を受ける内国法人は、特定新株予約権の一個当たりの交付の時の価額、交付数、その事業年度において行使された数その他当該特定新株予約権又は承継新株予約権の状況に関する明細書を当該事業年度の確定申告書に添付しなければならない。
法人税法第54条の2第4項、令和7年6月20日施行
払い込まれる金銭と新株予約権の時価との差額
規定を確認してみましょう。
5 内国法人が新株予約権(投資信託及び投資法人に関する法律第二条第十七項(定義)に規定する新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)を発行する場合において、その新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額(金銭の払込みに代えて給付される金銭以外の資産の価額及び相殺される債権の額を含む。以下この項において同じ。)がその新株予約権のその発行の時の価額に満たないとき(その新株予約権を無償で発行したときを含む。)、又はその新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額がその新株予約権のその発行の時の価額を超えるときは、その満たない部分の金額(その新株予約権を無償で発行した場合には、その発行の時の価額)又はその超える部分の金額に相当する金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入しない。
法人税法第54条の2第5項、令和7年6月20日施行
カッコ書きを外してみましょう。
5 内国法人が新株予約権(注1)を発行する場合において、その新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額(注2)がその新株予約権のその発行の時の価額に満たないとき(注3)、又はその新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額がその新株予約権のその発行の時の価額を超えるときは、その満たない部分の金額(注4)又はその超える部分の金額に相当する金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入しない。要件と取扱いは、2つずつあります。
1つ目の要件
新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額(注2)が、
新株予約権の発行時の価額に満たないとき(注3)
算式に変えます。
払い込まれる金銭の額<新株予約権の発行時の価額の場合
1つ目の取扱い
満たない部分の金額(注4)は、損金の額に算入されません。
仕訳イメージ
現金 1,000 / 新株予約権の時価 2,500
満たない部分の金額 1,500 /
(損金不算入)2つ目の要件
新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額が、
新株予約権の発行時の価額を超えるとき
算式に変えます。
払い込まれる金銭の額>新株予約権の発行時の価額の場合
2つ目の取り扱い
超える部分の金額は、益金の額に算入されません。
仕訳イメージ
現金 3,000 / 新株予約権の時価 2,000
/ 超える部分の金額 1,000 益金不算入払い込まれる金銭と新株予約権の時価との差額は、
法人税の課税所得の計算に反映されません。
第1項から第4項までは特定新株予約権に関する規定ですが、
第5項(今回の規定)は特定新株予約権に限定されていません。
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おまけ、カッコ書きの内容について
金銭の額(注2)のカッコ書き
金銭の額(金銭の払込みに代えて給付される金銭以外の資産の価額及び相殺される債権の額を含む。以下この項において同じ。)1、お金以外の資産の価額
2、相殺される債権の額
が金銭の額に含まれます。
その発行の時の価額に満たないとき(注3)のカッコ書き
その発行の時の価額に満たないとき(その新株予約権を無償で発行したときを含む。)低額発行には、無償発行が含まれます。
その満たない部分の金額(注4)のカッコ書き
その満たない部分の金額(その新株予約権を無償で発行した場合には、その発行の時の価額)無償発行の場合は、新株予約権の発行時の価額に変わります。
仕訳イメージ
満たない部分の金額 2,500 / 新株予約権の時価 2,500
(損金不算入)—
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