欠損金の繰越し


今回は欠損金の繰越しを確認します。
後日、グループ通算制度の欠損金の通算を確認します。

欠損金額

欠損金額とは、当期に生じた赤字です。
当期の売上1,400、原価1,000、販売費1,000で赤字600となります。

法人税の計算だと、
損金の額2,000▲益金の額1,400=欠損金額600となります。

法人の収益のようなものを税金計算上、益金といい、
法人の費用のようなものを税金計算上、損金といいます。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十九 欠損金額 各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。

法人税法
欠損金の繰越控除の趣旨

欠損金の繰越控除は、過去の赤字を当期の費用として処理できる特例です。

法人税は当期の所得に対して発生しますが、
この法人税の計算に過去の赤字は考慮されません。

過去の赤字を考慮しない場合、次の問題が生じます。

内容A社B社差_B-A
前期の所得▲1,000▲2,000▲1,000
当期の所得+1,500+2,5001,000
法人税30%1,500×30%=4502,500×30%=750300
欠損金の繰越控除がない場合の比較

A社もB社も、2期通算すると所得+500となりますが、
過去の赤字を考慮しないため、当期の法人税に差が生じます。
この差を解消するために欠損金の繰越控除があります。

欠損金の繰越控除がある場合

内容A社B社差_B-A
前期の所得▲1,000▲2,000▲1,000
当期の所得
(控除前)
+1,500+2,5001,000
欠損金の
繰越控除
▲1,000▲2,000▲1,000
当期の所得
(控除後)
+500+5000
法人税30%500×30%=150500×30%=1500
欠損金の繰越控除がある場合の比較

欠損金の繰越控除により、A社とB社の法人税が150となり、
法人税の差が解消されます。

参考、国税庁、タックスアンサー
No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5762.htm

手続要件

欠損金の繰越控除を使用するためには、次の手続きが必要です。

  • 欠損金が生じた年度の確定申告書を提出する。
  • 1の後、連続して確定申告書を提出する。
  • 欠損金額が生じた年度の帳簿書類を保存する。

上記の欠損金の繰越控除は、
欠損金が生じた年度について青色申告をする必要があります。

以下、余談です。
規定を確認しましたが、青色申告とは規定されていません。

他の規定を確認してみると、
「青色申告書を提出しなかった事業年度の欠損金の特例」に、

青色申告書を提出しなかった年度については、
欠損金額のうち災害損失金額を超える部分については、
欠損金の繰越しは使用できない。
(災害損失金額までであれば、青色申告でなくても繰越控除できます。)

と規定されており、
一般的に使用する欠損金の繰越しは、青色申告限定となります。

欠損金の繰越期間

原則として10年間です。
ただし、平成30年4月1日「前」に「開始」した
事業年度の欠損金は9年となります。

平成30年4月1日~平成31年3月31日の事業年度の欠損金については、
平成30年4月1日「前」に開始していませんので、繰越期間は10年となります。

3月決算の繰越期間は、次のとおりです。
平成28年4月1日~平成29年3月31日 前に開始しているため9年
平成29年4月1日~平成30年3月31日 前に開始しているため9年
平成30年4月1日~平成31年3月31日 10年
平成31年4月1日~令和02年3月31日 10年

個人の赤字の繰越期間は3年間ですので、
法人と個人を比較すると、繰越期間が長い法人の方が有利です。

計算例

欠損金の損金算入は古い欠損金から順に計算して、
損金算入限度額(原則として所得の50%)まで可能です。

例えば、次の場合
2年前の赤字▲1,500、1年前の赤字▲900、当期の黒字+4,000

1、2年前の欠損金の損金算入額
 1、欠損金額
   1,500
 2、損金算入限度額
   4,000×50%=2,000
 3、ただし書き
   1,500<2,000 少ない金額1,500
   超える金額はありません。

2、1年前の欠損金の損金算入額
 1、欠損金額
   900
 2、損金算入限度額
   4,000×50%=2,000
 3、ただし書き
   900>500(=2,000-1,500) 少ない金額500
   超える部分の金額400(900-500)については、損金算入されません。

3、欠損金の損金算入額
  1,500(2年前)+500(1年前)=2,000

まとめ

内容2年前
(先に計算)
1年前当期
所得金額
(▲は欠損金額)
▲1,500▲9004,000
損金算入限度額4,000×50%
=2,000
4,000×50%
=2,000▲1,500
=500(残額)
計算済の1,500をマイナス。
損金算入額1,500<2,000
→1,500
少ない金額
900>500
→500
少ない金額
1,500+500
=2,000
所得金額4,000▲2,000
=2,000
欠損金の損金算入額
計算例(中小法人等の特例)

中小法人等の損金算入限度額は、所得金額となります。
所得×50%の制限がありません。

例えば、次の場合(前述と同じ前提です)
2年前の赤字▲1,500、1年前の赤字▲900、当期の黒字+4,000

2年前の欠損金額の損金算入額

内容原則中小法人等の特例
1、欠損金額1,5001,500
2、損金算入限度額4,000×50%=2,0004,000
3、損金算入額1,500<2,000(限度額)
→1,500
1,500<4,000(限度額)
→1,500
2年前の欠損金額の損金算入額の比較

1年前の欠損金額の損金算入額

内容原則中小法人等の特例
1、欠損金額900900
2、損金算入限度額4,000×50%=2,000
▲1,500=500
4,000▲1,500
=2,500
3、損金算入額900>500(限度額)
→500
900<2,500(限度額)
→900
1年前の欠損金額の損金算入額の比較

損金算入額の計算

内容原則中小法人等の特例
1、所得金額
(繰越控除前)
4,0004,000
2、損金算入限度額1,500+500
=2,000
1,500+900
=2,400
3、所得金額
(繰越控除後)
4,000▲2,000
=2,000
4,000▲2,400
=1,600
損金算入額の比較

中小法人等の特例は所得の50%制限がないため、
特例の方が損金算入額は多くなります。

中小法人等

中小法人等は、原則として資本金1億円以下の法人です。
ただし、大法人(資本金5億円以上等の法人)に
100%支配されている法人については、中小法人等に含まれません。

参考規定

(欠損金の繰越し)第五十七条
 内国法人の各事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(この項の規定により当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び第八十条(欠損金の繰戻しによる還付)の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となつたものを除く。)がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。ただし、当該欠損金額に相当する金額損金算入限度額(本文の規定を適用せず、かつ、第五十九条第三項及び第四項(会社更生等による債務免除等があつた場合の欠損金の損金算入)並びに第六十二条の五第五項(現物分配による資産の譲渡)の規定を適用しないものとして計算した場合における当該各事業年度の所得の金額の百分の五十に相当する金額をいう。)から当該欠損金額の生じた事業年度前の事業年度において生じた欠損金額に相当する金額で本文の規定により当該各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額を控除した金額を超える場合は、その超える部分の金額については、この限りでない

法人税法

ただし書きについて
損金算入限度額は、欠損金の損金算入の規定を使用しないで、
かつ、次の特例を使用しないで計算した所得の50%とする。
・59条3項・4項(会社更生等による債務免除等があつた場合の欠損金の損金算入)
・62条の5、5項(最後事業年度の事業税の損金算入)

手続き

10 第一項の規定は、同項の内国法人が欠損金額(第二項の規定により当該内国法人の欠損金額とみなされたものを除く。)の生じた事業年度について確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合(第二項の規定により当該内国法人の欠損金額とみなされたものにつき第一項の規定を適用する場合にあつては、第二項の合併等事業年度について確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合)であつて欠損金額の生じた事業年度に係る帳簿書類を財務省令で定めるところにより保存している場合に限り、適用する。

法人税法57条

中小法人等の特例

11
 次の各号に掲げる内国法人の当該各号に定める各事業年度の所得に係る第一項ただし書の規定の適用については、同項ただし書中「所得の金額の百分の五十に相当する金額」とあるのは、「所得の金額」とする。
 第一項の各事業年度終了の時において次に掲げる法人(次号及び第三号において「中小法人等」という。)に該当する内国法人 当該各事業年度

 普通法人(投資法人、特定目的会社及び第四条の三(受託法人等に関するこの法律の適用)に規定する受託法人を除く。第三号において同じ。)のうち、資本金の額若しくは出資金の額が一億円以下であるもの(第六十六条第五項第二号又は第三号(各事業年度の所得に対する法人税の税率)に掲げる法人に該当するもの及び同条第六項に規定する大通算法人を除く。)又は資本若しくは出資を有しないもの(保険業法に規定する相互会社及び同項に規定する大通算法人を除く。)
 公益法人等又は協同組合等
 人格のない社団等

法人税法57条
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