法人住民税の法人税額の調整_その1


今回は法人住民税の法人税額の調整を確認します。内容が多いため2回に分けます。今回は1回目です。連結納税制度の法人住民税の欠損金についてはこちら

法人税額の調整

法人住民税の課税標準は、法人税法などにより計算した法人税額です。グループ通算制度を選択している場合は、この法人税額に対して2つの加算調整と6つの減算調整をします。今回はグループ通算制度の一般的なものを中心に確認します。

加算調整項目
地方税法53条の法人県民税の規定で確認します。

  • 加算対象通算対象欠損調整額(●11項)
  • 加算対象被配賦欠損調整額(●17項)

減算調整項目

  • 控除対象通算適用前欠損調整額(●3項)
  • 控除対象合併等前欠損調整額(8項)
  • 控除対象通算対象所得調整額(●13項)
  • 控除対象配賦欠損調整額(●19項)
  • 控除対象還付法人税額など(23項)
  • 控除対象還付対象欠損調整額(26項)

5つの●がグループ通算制度特有の取扱いです。

色付き部分の加算対象通算対象欠損調整額(11項)と
控除対象通算対象所得調整額(13項)が表裏の関係、

下線部分の加算対象被配賦欠損調整額(17項)と
控除対象配賦欠損調整額(19項)が表裏の関係です。

今回は次の3つを確認します。
・控除対象通算適用前欠損調整額(3項)
・加算対象通算対象欠損調整額(11項)
・控除対象通算対象所得調整額(13項)

控除対象通算適用前欠損調整額(3項)

法人税額の控除の対象となる
法人税の「損益通算を適用する前の欠損金」の調整額です。

連結納税制度であった「開始・加入に伴う欠損金の切捨て」と同様に、グループ通算制度でも「開始・加入に伴う欠損金の切捨て」があります。法人税ではこの特例により欠損金が切り捨てられますが、法人住民税では切り捨てられません。

この切り捨てられなかった欠損金額(×法人税率)を、グループ通算制度では「控除対象通算適用前欠損調整額」として法人税額から控除します。

連結納税制度グループ通算制度
法人税額から「控除対象個別帰属調整額」を控除する。法人税額から「控除対象通算適用前欠損調整額」を控除する。
開始・加入に伴う欠損金の切り捨ての制度上の違い

控除対象通算適用前欠損調整額について
欠損金の切捨て要件はそれぞれ異なりますが、計算イメージは下記の連結納税制度の法人住民税の欠損金の控除対象個別帰属調整額をご確認願います。

加算対象通算対象欠損調整額(11項)と
控除対象通算対象所得調整額(13項)

法人税の計算に損益通算はありますが、法人住民税の計算に損益通算はありません。そのため、損益通算「後」の法人税額を損益通算「前」の法人税額に戻す作業をします。

1、加算対象通算対象欠損調整額
法人税額に「損益通算で損金算入した欠損金額×法人税率」を加算して、
損益通算前の法人税額に戻します。

2,控除対象通算対象所得調整額
法人税額から「損益通算で益金算入した所得金額×法人税率」を控除して
損益通算前の法人税額に戻します。

3、計算イメージ

法人税の計算

内容P社S社合計
損益通算前の
所得金額
+1,000△1,0000
損益通算△1,000+1,0000
損益通算後の
所得金額
000
法人税額
(税率23.2%)
000
法人税の計算

法人住民税の計算

内容P社S社合計
法人税額
(調整前)
000
加算対象通算対象欠損調整額
(11項)
1,000×23.2%=23201,000
控除対象通算対象所得調整額(13項)0△1,000×23.2%=△232<0
→0(※1)
0
法人税額
(調整後)
232
(※2)
00
法人住民税の計算

※1、法人住民税の欠損金として△232を翌期以後に繰越して控除できます。
※2、損益通算前の所得金額1,000×23.2%と一致します。

控除対象個別帰属調整額と控除対象個別帰属税額の
グループ法人税制への引継ぎ

2023/4/4、訂正

連結納税制度の「控除対象個別帰属調整額」と「控除対象個別帰属税額」は、グループ通算制度の「控除対象通算適用前欠損調整額」として引き継ぎます。

令和4年4月1日にグループ通算制度が始まります。この日より前に開始した事業年度等の法人の道府県民税については、連結納税制度(旧法)の効力が残っています。

そのため、下記3つのグループ通算制度の規定は、控除対象個別帰属調整額と控除対象個別帰属税額の令和4年4月1日以後に開始した事業年度における控除について準用します。

・地方税法53条3項、控除対象通算適用前欠損調整額の控除、
・地方税法53条5項、適格合併等があった場合の控除未済通算適用前欠損調整額の引継ぎ(欠損金の引継ぎ)、
・地方税法53条6項、手続き規定<調整税額は証明書類の添付が必要>

2023/4/4、修正

連結納税制度グループ通算制度
(2022/4/1以後開始)
控除対象個別帰属調整額
(切り捨てられた欠損金額)
控除対象個別帰属税額
(損益通算された欠損金額)
控除対象通算適用前欠損調整額に準じて、控除対象個別帰属調整額と控除対象個別帰属税額を控除します。
控除対象通算適用前欠損調整額
(切り捨てられた欠損金額)
準用比較
まとめ
調整項目内容調整方法
控除対象
通算適用前欠損調整額(3項)
法人税で切り捨てられた欠損金額×法人税率法人税額から控除
加算対象
通算対象欠損調整額(11項)
損益通算で損金算入した欠損金額×法人税率法人税額に加算
控除対象
通算対象所得調整額(13項)
損益通算で益金算入した所得金額×法人税率法人税額から控除
まとめ
参考規定など
控除対象通算適用前欠損調整額の控除(3項)

通算適用前欠損金額=
57条6項(時価評価除外法人に該当しない場合の欠損金の切り捨て)、
57条8項(時価評価除外法人に該当する場合の欠損金の切り捨て)により
切り捨てられた欠損金額がある場合

法人税には、グループ通算制度の欠損金の切り捨てがあります。
法人住民税には、グループ通算制度がないため欠損金の切り捨てがありません。
この違いが「控除対象通算適用前欠損金額」として、
法人住民税の欠損金額となります。

控除対象通算適用前欠損金額=通算適用前欠損金額×法人税率

3 法人税法第七十一条第一項(同法第七十二条第一項の規定が適用される場合に限る。)又は第七十四条第一項の規定により法人税に係る申告書を提出する義務がある法人について、当該事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた通算適用前欠損金額(同法第五十七条第一項の欠損金額(同法第五十八条第一項の規定によりないものとされたものを除く。)で、同法第五十七条第六項又は第八項の規定によりないものとされたものをいう。次項から第六項までにおいて同じ。)がある場合の当該法人が納付すべき当該事業年度分の法人税割の課税標準となる法人税額の算定については、第一項、第三十四項又は第三十五項の規定にかかわらず、これらの規定により申告納付すべき当該法人税額の課税標準の算定期間に係る法人税割の課税標準となる法人税額から、当該法人税額(当該法人税額について租税特別措置法第四十二条の十四第一項若しくは第四項、第六十二条第一項、第六十二条の三第一項若しくは第九項又は第六十三条第一項の規定により加算された金額がある場合には、政令で定める額を控除した額)を限度として、控除対象通算適用前欠損調整額を控除するものとする。この場合において、控除対象通算適用前欠損調整額は、前事業年度以前の法人税割の課税標準とすべき法人税額について控除されなかつた額に限る。

地方税法53条3項
控除対象通算適用前欠損調整額の定義(4項)

4 前項に規定する控除対象通算適用前欠損調整額とは、通算適用前欠損金額に、同項の法人の最初通算事業年度(法人税法第六十四条の九第一項の規定による承認の効力が生じた日以後最初に終了する事業年度をいう。以下この項から第六項までにおいて同じ。)終了の日(二以上の最初通算事業年度終了の日がある場合には、当該通算適用前欠損金額の生じた事業年度後最初の最初通算事業年度終了の日)における次の各号に掲げる当該法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める率を乗じて得た金額をいう。
 普通法人(法人税法第二条第九号に規定する普通法人をいう。第十四項第一号及び第五十三項第四号において同じ。) 同法第六十六条第一項に規定する税率に相当する率
 協同組合等(法人税法第二条第七号に規定する協同組合等をいう。第十四項第二号及び第五十三項第四号において同じ。) 同法第六十六条第三項に規定する税率に相当する率

地方税法53条4項

第5項、適格合併等による「控除対象通算適用前欠損調整額」の引継ぎ
第6項、第3項の手続き(書類の添付が必要)
第7項、適格合併等による「合併等前欠損金額」の引継ぎ
第8項、控除対象合併等前欠損調整額の控除
第9項、控除対象合併等前欠損調整額の定義
第10項、第8項の手続き(連続申告要件)

加算対象通算対象欠損調整額の加算(11項)

通算対象欠損金額=
64条の5第1項の通算対象欠損金額の損金算入額がある場合
法人税額+加算対象通算対象欠損調整額(通算対象欠損金額×法人税率)

11 法人税法第七十一条第一項(同法第七十二条第一項の規定が適用される場合に限る。)又は第七十四条第一項の規定により法人税に係る申告書を提出する義務がある法人について、当該事業年度において生じた通算対象欠損金額(同法第六十四条の五第一項に規定する通算対象欠損金額で同項の規定により損金の額に算入されたものをいう。次項において同じ。)がある場合の当該法人が納付すべき当該事業年度分の法人税割の課税標準となる法人税額の算定については、第一項、第三十四項又は第三十五項の規定にかかわらず、これらの規定により申告納付すべき当該法人税額の課税標準の算定期間に係る法人税割の課税標準となる法人税額に加算対象通算対象欠損調整額加算するものとする。

地方税法53条11項
加算対象通算対象欠損調整額の定義(12項)

12 前項に規定する加算対象通算対象欠損調整額とは、通算対象欠損金額に、同項の法人の当該事業年度終了の日における第四項各号に掲げる当該法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める率を乗じて得た金額をいう。

地方税法53条12項
控除対象通算対象所得調整額の控除(13項)

通算対象欠損金額=
64条の5第3項の通算対象所得金額の益金算入額がある場合
法人税額▲控除対象通算対象所得調整額(通算対象所得金額×法人税率)

13 法人税法第七十一条第一項(同法第七十二条第一項の規定が適用される場合に限る。)又は第七十四条第一項の規定により法人税に係る申告書を提出する義務がある法人について、当該事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた通算対象所得金額(同法第六十四条の五第三項に規定する通算対象所得金額で同項の規定により益金の額に算入されたものをいう。次項から第十六項までにおいて同じ。)がある場合の当該法人が納付すべき当該事業年度分の法人税割の課税標準となる法人税額の算定については、第一項、第三十四項又は第三十五項の規定にかかわらず、これらの規定により申告納付すべき当該法人税額の課税標準の算定期間に係る法人税割の課税標準となる法人税額から、当該法人税額(当該法人税額について租税特別措置法第四十二条の十四第一項若しくは第四項、第六十二条第一項、第六十二条の三第一項若しくは第九項又は第六十三条第一項の規定により加算された金額がある場合には、政令で定める額を控除した額)を限度として、控除対象通算対象所得調整額控除するものとする。この場合において、控除対象通算対象所得調整額は、前事業年度以前の法人税割の課税標準とすべき法人税額について控除されなかつた額に限る。

地方税法53条13項
控除対象通算対象所得調整額の定義(14項)

14 前項に規定する控除対象通算対象所得調整額とは、通算対象所得金額に、同項の法人の当該通算対象所得金額の生じた事業年度後最初の事業年度終了の日における次の各号に掲げる当該法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める率を乗じて得た金額をいう。

地方税法53条14項
地方税法附則令和2年3月31日法律第5号
5条3項、4項、5項、道府県民税(市町村民税にも同様の規定あり)

 別段の定めがあるものを除き、五号施行日<令和4年4月1日施行日>前に開始した事業年度(連結子法人の連結親法人事業年度が五号施行日前に開始した事業年度を含む。)分の法人の道府県民税及び五号施行日前に開始した連結事業年度(四年旧法人税法第十五条の二第一項に規定する連結事業年度をいう。以下同じ。)(連結子法人の連結親法人事業年度が五号施行日前に開始した連結事業年度を含む。)分の法人の道府県民税については、附則第一条第五号に掲げる規定による改正前の地方税法(以下「四年旧法」という。)の規定中法人の道府県民税に関する部分は、なおその効力を有する。

 四年新法第五十三条第三項、第五項及び第六項の規定は、前項<3項>の規定によりなおその効力を有するものとされた四年旧法第五十三条第六項に規定する控除対象個別帰属調整額の五号施行日以後事業年度における控除について準用する。この場合において、必要な技術的読替えは、政令で定める。

 四年新法第五十三条第三項、第五項及び第六項の規定は、第三項の規定によりなおその効力を有するものとされた四年旧法第五十三条第九項に規定する控除対象個別帰属税額の五号施行日以後事業年度における控除について準用する。この場合において、必要な技術的読替えは、政令で定める。

地方税法附則令和2年3月31日法律第5号

必要な技術的読替え
政令16項、適格合併等があった場合の控除対象通算対象所得調整額の引継ぎ
政令22項、適格合併等があった場合の控除対象還付対象欠損調整額の引継ぎ

控除対象還付対象欠損調整額は、グループ通算制度の欠損金の繰戻し還付で使用した欠損金額×法人税率で計算したもの。法人住民税には欠損金の繰戻しがないため、法人住民税の欠損金額として調整する。

地方税法施行令附則令和2年9月4日政令第264号
3条16項、22項、道府県民税(市町村民税にも同様の規定あり)

16 四年新法第五十三条第十五項<適格合併等があった場合の控除対象通算対象所得調整額の引継ぎ>の法人に同項の法人の同項に規定する合併等事業年度開始の日前十年以内に開始する連結事業年度がある場合における新令第八条の十九の規定の適用については、以下省略

22 四年新法第五十三条第二十八項<適格合併等があった場合の控除対象還付対象欠損調整額>の法人に同項の法人の同項に規定する合併等事業年度開始の日前十年以内に開始する連結事業年度がある場合における新令第九条の規定の適用については、以下省略

地方税法施行令附則令和2年9月4日政令第264号
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