消費税の納税義務の免除と特例の概要


消費税は、2年前の課税売上高が1000万円以下であれば、納税義務が免除されます。今回は2年前の課税売上高が1000万円以下であっても、消費税の納税義務が免除されない場合(特例)について確認します。

小規模事業者の納税義務の免除(消費税法9条1項)

 原則の取扱いです。2年前の課税売上高が1000万円以下の場合は、消費税を納める義務がありません。

 個人事業者と基準期間(2年前)が1年である法人については、2年前の課税売上高で判定します。基準期間が1年でない法人については、課税売上高を年に換算して判定します。

 例えば、2年前の4/1~9/30の課税売上高が600万円であれば、600万円÷6月☓12月=1200万円となり、課税売上高が1000万円を超えるため、消費税の納税義務が生じます。

課税事業者選択の特例(消費税法9条4項)

 小規模事業者は消費税の納税義務が免除されます。消費税の納税義務が免除されると確定申告できず、払いすぎた消費税を返してもらうことができません。
払いすぎた消費税を還付申告する場合は、「事前に」課税事業者を選択する必要があります。

 例えば、輸出売上が多い場合や高額な設備投資を行った場合に、課税事業者を自分で選択します。

前年等の課税売上高の特例(消費税法9条の2)

 新しく始まった事業の2年前は存在しないため、必ず免税事業者となり、消費税を納める必要がありません。事業者は「ある程度大きな事業」を開始して、合法的に免税事業者期間中の消費税を納付しないことがありました。

 この特例は、前期の前半6ヶ月の課税売上高で納税義務を判定します。課税売上高ではなく給与で判定することも可能です。

例えば、前年等の
課税売上高が1200万円、給与等が600万円の場合。

 課税売上高で判定すると1200万円>1000万円となり、消費税の納税義務は免除されません。給与等で判定すると600万円≦1000万円となり、消費税の納税義務は免除されます。この場合、事業者は課税売上高か給与等か選択できます。

 仮に、給与等が1500万円であれば、課税売上高も給与等も1000万円を超えるため、消費税の納税義務は免除されません。

相続があった場合の特例(消費税法10条)

被相続人の死亡が原因で相続人が事業承継した場合の特例です。

例えば、
2019年、父の課税売上高、1500万円
2021年、父の死亡により、子が父の事業を承継した。課税売上高1200万円。

原則の判定
 2年前(2019年)の子の課税売上高は0円です。子は消費税の納税義務がないため、2021年に発生した消費税120万円(1200万円✕10%)の納税義務がありません。

相続があった場合の特例の判定
 2年前(2019年)の父の課税売上高が1500万円で1000万円を超えているため、子の消費税の納税義務は免除されません。消費税120万円を納める必要があります。この規定は死亡による承継に限定されているため、生前の事業承継については、特例は適用されません。

合併があった場合の特例(消費税法11条)

 2つの法人が1つに統合されることを「合併」といいます。法人が合併した場合は、相続があった場合と同様に特例があります。判定は相続があった場合と似ています。

分割等があった場合の特例(消費税法12条)

 法人の事業を2つに分けることを「分割」といいます。事業を分割すると2年前の課税売上高も分割されます。例えば、1200万円の課税売上高が生じる事業を2つに分けると600万円となります。分割した法人も分割された法人も1000万円以下となり、消費税の納税義務が免除されてしまいます。

 この分割等の特例は、分割した法人と分割された法人の課税売上高を考慮して
消費税の納税義務を判定します。

新設法人の特例(消費税法12条の2)

 設立したばかりの法人は「事業年度開始時の資本金の額」だけで納税義務を判定します。資本金の額が1000万円以上であれば、基準期間(2年前)がない法人であっても、消費税の納税義務は免除されません。

特定新規設立法人の特例(消費税法12条の3)

 新設法人の納税義務は資本金の額で判定します。資本金の額が1000万円未満であれば、消費税の納税義務が免除されていたため、意図的に資本金の額を1000万円未満に抑えて、合法的に消費税の納税を逃れることが可能でした。この納税回避を防止するため、一定の関係会社であること、関係会社の2年前の課税売上高が5億円超であること等の要件を満たす場合、消費税の納税義務が免除されなくなっています。

高額特定資産を取得した場合などの特例(消費税法12条の4)

 消費税は損益計算の考え方がなく、支払った消費税は支払ったタイミングで、
預った消費税からマイナスします。高額特定資産を取得したときは課税事業者
、高額特定資産を売却したときは、免税事業者の場合、支払った消費税をマイナスでき、預った消費税は納税しなくて済みます。

 この不具合を解消するため高額特定資産を取得した場合は、2年前の課税売上高が1000万円であっても、消費税の納税義務が免除されません。

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