源泉所得税の推計課税


今回は、源泉所得税を納付しなかった場合の推計課税を確認してみましょう。

内容

通常、源泉徴収の対象となる給料や報酬を支払った場合、
給料などの支払者は支払の際、源泉徴収して、
翌月10日までに納付する必要があります。

給料などの支払者が源泉所得税を納付しなかったときは、
税務署長が給料などの支払者から源泉所得税を(強制)徴収します。

この場合、税務署長は、
何の(給料か報酬かなど)、いくら、
誰に(個人か法人か、非居住者かなど)、いつ、どこで等の情報が
把握できている必要があります。

上記の情報が不明の場合、
これぐらいだろうと推定するしかありませんでしたが、
推定できる規定がありませんでした。
(明文規定がなくても推計課税はできるようですが、
実務上は事務量などを理由にほぼ不可能だったようです。)

そこで、令和3年1月1日以後、
源泉所得税の推計課税のルールが設けられています。

青色申告者は適用なし

個人事業者の青色申告の不動産所得、事業所得、山林所得と
青色申告法人、この2つについては推計課税はありません。
青色申告は正しい帳簿や請求書が保存されていることが前提なので、
源泉徴収の情報が把握できるからでしょう。

推計課税の対象

源泉所得税の強制徴収の対象は、次の1から5までですが、
推計課税の対象は、2の給与所得、3の退職所得、4の報酬等
5の非居住者等の報酬等に限定されています。

第一章 利子所得及び配当所得に係る源泉徴収
第二章 給与所得に係る源泉徴収
第三章 退職所得に係る源泉徴収
第三章の二 公的年金等に係る源泉徴収
第四章 報酬、料金等に係る源泉徴収
第五章 非居住者又は法人の所得に係る源泉徴収
第六章 源泉徴収に係る所得税の納期の特例

推計方法(原則)

推計方法については、下記のとおりです。
抽象的な規定です。

給与所得
・当該給与等の支払をした者が定めている給与等の支払に関する規程
・当該給与等の支払を受けた者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度

退職所得
・当該退職手当等の支払をした者が定めている退職手当等の支払に関する規程
・当該退職手当等の支払を受けた者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度

報酬等
・当該報酬又は料金の支払を受けた者の業務を行つた期間、業務の内容及びその提供の程度、当該契約金の支払を受けた者の約する役務の提供の内容
・当該賞金の支払の事由

非居住者等の報酬等
・当該国内源泉所得の前三号の区分に応じ前三号に定める事項

推計方法

原則の推計方法だと抽象的なので、例外があります。給与関係だけ引用します。

3 税務署長は、前項の規定により、同項各号に掲げる支払の日を推定し、又は同項各号に掲げる支払金額を推計することが困難である場合には、次の各号に掲げる支払の日又は支払金額の区分に応じ当該各号に定めるところにより、第一項に規定する所得税を同項に規定する者から徴収することができる。

一 前項第一号に掲げる支払の日又は支払金額 同号の給与等の支払をした個人がその年において業務を営んでいた期間その他の当該給与等の支払をした者の区分に応じ政令で定める期間(以下この号において「給与等の計算期間」という。)における同項第一号に掲げる支払の日をイに掲げる日とし、又は同号に掲げる支払の日若しくはイに掲げる日における同号に掲げる支払金額をロに掲げる金額とする。

イ 当該給与等の計算期間に属する各月の末日

ロ 当該給与等の計算期間における当該給与等の支払をした者の給与等の支払金額の総額を当該給与等の計算期間における当該給与等の支払をした者から給与等の支払を受けた者の人数で除し、これを当該給与等の計算期間の月数で除して計算した金額

所得税法221条

要約すると、支払日や支払金額が推計できない場合は
・支払日は毎月の月末とする。
・支払金額は、原則として年間給料総額÷従業員の数÷12月
として、源泉所得税を推計して強制徴収できるようにしています。

仮に年間2000万円、10人であれば、
2000万円÷10人=1人あたり200万円÷12月=
毎月約16.6万円で源泉徴収税額を計算します。
(細かい計算は割愛)

扶養控除等申告書は提出されていないでしょうから、
乙欄徴収だと、1人あたり11,100円×10人×12月で
1,332,000円となります。
(追加で不納付加算税もかかります。)

参考規定

源泉徴収に係る所得税の徴収

(源泉徴収に係る所得税の徴収)
第二百二十一条 第一章から前章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかつたときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する。

2 税務署長は、前項の場合において、次の各号に掲げる支払の日又は支払金額(これらのうち、青色申告書を提出した個人の不動産所得、事業所得及び山林所得を生ずべき業務に係る支払に係るもの並びに法人税法第二条第三十六号(定義)に規定する青色申告書を提出した法人の支払(その法人が同法第百三十一条(推計による更正又は決定)に規定する通算法人である場合には、当該通算法人の同条に規定する各事業年度に係る支払を除く。)に係るものを除く。)の区分に応じ当該各号に定める事項により、当該各号に掲げる支払の日を推定し、又は当該各号に掲げる支払金額を推計して、同項に規定する所得税を同項に規定する者から徴収することができる。

一 第章(給与所得に係る源泉徴収)の規定による源泉徴収の対象となる第百八十三条第一項(源泉徴収義務)に規定する給与等(以下この条において「給与等」という。)の支払の日又は給与等の支払を受けた者ごとの給与等の支払金額 当該給与等の支払をした者が定めている給与等の支払に関する規程並びに当該給与等の支払を受けた者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度

二 第三章(退職所得に係る源泉徴収)の規定による源泉徴収の対象となる第百九十九条(源泉徴収義務)に規定する退職手当等(以下この条において「退職手当等」という。)の支払の日又は退職手当等の支払を受けた者ごとの退職手当等の支払金額 当該退職手当等の支払をした者が定めている退職手当等の支払に関する規程並びに当該退職手当等の支払を受けた者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度

三 第四章第一節(報酬、料金、契約金又は賞金に係る源泉徴収)の規定による源泉徴収の対象となる第二百四条第一項(源泉徴収義務)に規定する報酬若しくは料金、契約金若しくは賞金(以下この条において「報酬等」という。)の支払の日又は報酬等の支払を受けた者ごとの報酬等の支払金額 当該報酬又は料金の支払を受けた者の業務を行つた期間、業務の内容及びその提供の程度、当該契約金の支払を受けた者の約する役務の提供の内容並びに当該賞金の支払の事由

四 第五章(非居住者又は法人の所得に係る源泉徴収)の規定による源泉徴収の対象となる第二百十二条第一項(源泉徴収義務)に規定する国内源泉所得(給与等、退職手当等又は報酬等に相当するものに限る。以下この条において「国内源泉所得」という。)の支払の日又は国内源泉所得の支払を受けた者ごとの国内源泉所得の支払金額 当該国内源泉所得の前三号の区分に応じ前三号に定める事項

所得税法221条
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