今回は、特定新株予約権の行使による株式の取得をした場合の所得税の非課税(税制適格ストックオプション)を確認してみましょう。
対象者
今回確認する規定は、こちらです。
非常に規定が長いため、分けて確認してみましょう。
第二十九条の二 会社法(平成十七年法律第八十六号)第二百三十八条第二項の決議(同法第二百三十九条第一項の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定及び同法第二百四十条第一項の規定による取締役会の決議を含む。)により新株予約権(政令で定めるものに限る。以下この項において「新株予約権」という。)を与えられる者とされた当該決議(以下この条において「付与決議」という。)のあつた株式会社若しくは当該株式会社がその発行済株式(議決権のあるものに限る。)若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式(議決権のあるものに限る。)若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係その他の政令で定める関係にある法人の取締役、執行役若しくは使用人である個人(当該付与決議のあつた日において当該株式会社の政令で定める数の株式を有していた個人(以下この項及び次項において「大口株主」という。)及び同日において当該株式会社の大口株主に該当する者の配偶者その他の当該大口株主に該当する者と政令で定める特別の関係があつた個人(以下この項及び次項において「大口株主の特別関係者」という。)を除く。以下この項、次項及び第六項において「取締役等」という。)若しくは当該取締役等の相続人(政令で定めるものに限る。以下この項、次項及び第六項において「権利承継相続人」という。)又は当該株式会社若しくは当該法人の取締役、執行役及び使用人である個人以外の個人(大口株主及び大口株主の特別関係者を除き、中小企業等経営強化法第十三条に規定する認定新規中小企業者等に該当する当該株式会社が同法第九条第二項に規定する認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画(当該新株予約権の行使の日以前に同項の規定による認定の取消しがあつたものを除く。)に従つて行う同法第二条第八項に規定する社外高度人材活用新事業分野開拓に従事する同項に規定する社外高度人材(当該認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画に従つて当該新株予約権を与えられる者に限る。以下この項において同じ。)で、当該認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画の同法第八条第二項第二号に掲げる実施時期の開始の日(当該認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画の変更により新たに当該社外高度人材活用新事業分野開拓に従事することとなつた社外高度人材にあつては、当該変更について受けた同法第九条第一項の規定による認定の日。次項第二号において「実施時期の開始等の日」という。)から当該新株予約権の行使の日まで引き続き居住者である者に限る。以下この条において「特定従事者」という。)が、当該付与決議に基づき当該株式会社と当該取締役等又は当該特定従事者との間に締結された契約により与えられた当該新株予約権(当該新株予約権に係る契約において、次に掲げる要件(当該新株予約権が当該取締役等に対して与えられたものである場合には、第一号から第六号までに掲げる要件)が定められているものに限る。以下この条において「特定新株予約権」という。)を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。
租税特別措置法第29条の2第1項、令和7年12月1日施行
以下省略
カッコ書きを外してみましょう。
第二十九条の二 会社法(注1)第二百三十八条第二項の決議(注2)により新株予約権(注3)を与えられる者とされた当該決議(注4)のあつた株式会社若しくは当該株式会社がその発行済株式(注5)若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式(注6)若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係その他の政令で定める関係にある法人の取締役、執行役若しくは使用人である個人(注7)若しくは当該取締役等の相続人(注8)又は当該株式会社若しくは当該法人の取締役、執行役及び使用人である個人以外の個人(注9)が、当該付与決議に基づき当該株式会社と当該取締役等又は当該特定従事者との間に締結された契約により与えられた当該新株予約権(注10)を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。取扱いを先に見てみましょう。
当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。要件を満たした場合、
株式の取得による利益については、所得税がかかりません。
要件を分けて確認してみましょう。
会社法(注1)第二百三十八条第二項の決議(注2)により新株予約権(注3)を与えられる者とされた当該決議(注4)のあつた株式会社若しくは当該株式会社がその発行済株式(注5)若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式(注6)若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係その他の政令で定める関係にある法人の取締役、執行役若しくは使用人である個人(注7)若しくは当該取締役等の相続人(注8)又は当該株式会社若しくは当該法人の取締役、執行役及び使用人である個人以外の個人(注9)が、当該付与決議に基づき当該株式会社と当該取締役等又は当該特定従事者との間に締結された契約により与えられた当該新株予約権(注10)を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、「個人(注9)が」で分けてみましょう。
会社法(注1)第二百三十八条第二項の決議(注2)により新株予約権(注3)を与えられる者とされた当該決議(注4)のあつた株式会社若しくは当該株式会社がその発行済株式(注5)若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式(注6)若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係その他の政令で定める関係にある法人の取締役、執行役若しくは使用人である個人(注7)若しくは当該取締役等の相続人(注8)又は当該株式会社若しくは当該法人の取締役、執行役及び使用人である個人以外の個人(注9)が、「若しくは」が多いため、「又は」で分けてみましょう。
A、会社法(注1)第二百三十八条第二項の決議(注2)により新株予約権(注3)を与えられる者とされた当該決議(注4)のあつた株式会社若しくは当該株式会社がその発行済株式(注5)若しくは出資の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式(注6)若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係その他の政令で定める関係にある法人の取締役、執行役若しくは使用人である個人(注7)若しくは当該取締役等の相続人(注8)又は
B、当該株式会社若しくは当該法人の取締役、執行役及び使用人である個人以外の個人(注9)Aを見てみましょう。
A、会社法(注1)第二百三十八条第二項の決議(注2)により新株予約権(注3)を与えられる者とされた当該決議(注4)のあつた株式会社
若しくは
当該株式会社がその発行済株式(注5)
若しくは
出資の総数
若しくは
総額の百分の五十を超える数
若しくは
金額の株式(注6)
若しくは
出資を直接
若しくは
間接に保有する関係その他の政令で定める関係にある法人の取締役、執行役
若しくは
使用人である個人(注7)
若しくは
当該取締役等の相続人(注8)「若しくは」が8個あります。
「当該決議(注4)のあつた株式会社」の「若しくは」のペアを探してみます。
1つ目の「若しくは」の後にある「当該株式会社が~の関係にある法人」がペアです。
A、会社法(注1)第二百三十八条第二項の決議(注2)により新株予約権(注3)を与えられる者とされた当該決議(注4)のあつた株式会社
若しくは
当該株式会社が
その発行済株式(注5)若しくは出資の
総数若しくは総額の
百分の五十を超える
数若しくは金額の
株式(注6)若しくは出資を
直接若しくは間接に
保有する関係その他の政令で定める関係にある法人の
取締役、執行役若しくは使用人である個人(注7)
若しくは
当該取締役等の相続人(注8)まとめてみましょう。
A(株式会社=当社、関係法人)の
・取締役
・執行役
・使用人である個人(注7、取締役等)
・当該取締役等の相続人(注8、権利承継相続人)又は
B、当該株式会社(当社)若しくは当該法人(関係法人)の
・取締役
・執行役
・使用人である個人
以外の個人(注9、特定従事者)上記のA(取締役等、権利承継相続人)やB(特定従事者)が、
要件の対象者です。
要件
規定の続きを確認してみましょう。
当該付与決議に基づき当該株式会社と当該取締役等又は当該特定従事者との間に締結された契約により与えられた当該新株予約権(注10)を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、当該付与決議に基づき
・当該株式会社と
・当該取締役等(注7の対象者)か当該特定従事者(注9の対象者)と
の間に締結された契約により与えられた
当該新株予約権(注10、特定新株予約権)を
当該契約に従って行使することにより
当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合が要件です。
会社法第238条第2項の決議により新株予約権(政令で限定あり)を与えられる者とされた当該決議を「付与決議」といいます。
付与決議に基づいて
・会社と取締役等
・会社と特定従事者
の間に締結された契約により特定新株予約権が与えられます。
この特定新株予約権を契約に従って行使し、株式を取得した場合が要件です。
例外
ただし、例外があります。
ただし、当該取締役等若しくは権利承継相続人又は当該特定従事者(以下この項及び次項において「権利者」という。)が、当該特定新株予約権の行使をすることにより、その年における当該行使に際し払い込むべき額(以下この項及び次項第三号において「権利行使価額」という。)(当該特定新株予約権に係る付与決議の日において、当該特定新株予約権に係る契約を締結した株式会社がその設立の日以後の期間が五年未満のものである場合には当該権利行使価額を二で除して計算した金額とし、当該株式会社がその設立の日以後の期間が五年以上二十年未満であることその他の財務省令で定める要件を満たすものである場合には当該権利行使価額を三で除して計算した金額とする。以下この項(第三号を除く。)及び次項第三号において同じ。)と当該権利者がその年において既にした当該特定新株予約権及び他の特定新株予約権の行使に係る権利行使価額との合計額が、千二百万円を超えることとなる場合には、当該千二百万円を超えることとなる特定新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益については、この限りでない。
租税特別措置法第29条の2第1項ただし書き、令和7年12月1日施行
以下省略
カッコ書きを外してみましょう。
ただし、当該取締役等若しくは権利承継相続人又は当該特定従事者(注11)が、当該特定新株予約権の行使をすることにより、その年における当該行使に際し払い込むべき額(注12、権利行使価額)(注13)と当該権利者がその年において既にした当該特定新株予約権及び他の特定新株予約権の行使に係る権利行使価額との合計額が、千二百万円を超えることとなる場合には、当該千二百万円を超えることとなる特定新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益については、この限りでない。・取締役等
・権利承継相続人
・特定従事者
の3つを併せて、「権利者」といいます。
A、権利者が当該特定新株予約権の行使をすることにより、その年における当該行使に際し払い込むべき額(注12、権利行使価額)(注13)と
B、当該権利者がその年において既にした当該特定新株予約権及び他の特定新株予約権の行使に係る権利行使価額と
の合計額(A+B)が、1200万円を超えることとなる場合が例外の要件です。
例外の要件を満たした場合の取扱いを見てみましょう。
当該1200万円を超えることとなる特定新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益については、この限りでない。Aがその年の権利行使価額、Bが過去の権利行使価額です。
A+Bの合計額が1200万円を超えることとなる
特定新株予約権の行使による株式の取得よる利益については、
所得税の非課税の対象から外れます。
—
編集後記
省略した部分に特定新株予約権の要件が規定されています。
長くなるため、今回は省略しています。
—
2025/12/5、追加、無償交付の要件
税制適格ストックオプションの要件を満たすためには、新株予約権を無償で渡す必要があります。規定は、次の部分です。
新株予約権(政令で定めるものに限る。以下この項において「新株予約権」という。)政令を見てみましょう。
(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)
租税特別措置法施行令第19条の3第1項、令和7年12月1日施行
第十九条の三 法第二十九条の二第一項に規定する政令で定める新株予約権は、会社法(平成十七年法律第八十六号)第二百三十八条第二項の決議(同法第二百三十九条第一項の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定及び同法第二百四十条第一項の規定による取締役会の決議を含む。)に基づき金銭の払込み(金銭以外の資産の給付を含む。)をさせないで発行された新株予約権とする。
「金銭の払込み(金銭以外の資産の給付を含む。)をさせないで発行された新株予約権」とあります。
2025/12/5、追加、権利行使価額の特例計算
権利行使価額の1,200万円の制限については、2つの特例があります。
行使に際し払い込むべき額(注12、権利行使価額)(注13)上記の注13のカッコ書きです。
当該特定新株予約権に係る付与決議の日において、当該特定新株予約権に係る契約を締結した株式会社がその設立の日以後の期間が五年未満のものである場合には当該権利行使価額を二で除して計算した金額とし、当該株式会社がその設立の日以後の期間が五年以上二十年未満であることその他の財務省令で定める要件を満たすものである場合には当該権利行使価額を三で除して計算した金額とする。以下この項(第三号を除く。)及び次項第三号において同じ。付与決議の日で判定します。
1、特定新株予約権に係る契約を締結した株式会社が、設立日以後の期間が5年未満の場合
権利行使価額を2で除して計算した金額
2、特定新株予約権に係る契約を締結した株式会社が、設立日以後の期間が5年以上20年未満であることその他の「財務省令で定める要件」を満たす場合
権利行使価額を3で除して計算した金額
数字を追加してみましょう。
A、当該特定新株予約権の行使をすることにより、その年における当該行使に際し払い込むべき額(以下この項及び次項第三号において「権利行使価額」という。)(当該特定新株予約権に係る付与決議の日において、当該特定新株予約権に係る契約を締結した株式会社がその設立の日以後の期間が五年未満のものである場合には当該権利行使価額<2,400万円>を二で除して計算した金額<1,200万円>とし、当該株式会社がその設立の日以後の期間が五年以上二十年未満であることその他の財務省令で定める要件を満たすものである場合には当該権利行使価額<3,600万円>を三で除して計算した金額<1,200万円>とする。以下この項(第三号を除く。)及び次項第三号において同じ。)と
B、当該権利者がその年において既にした
・当該特定新株予約権の行使に係る権利行使価額
・他の特定新株予約権の行使に係る権利行使価額
C、合計額 A+Bが1,200万円を超えることとなる場合
要件を満たすとAが
・権利行使価額が2,400万円÷2=1,200万円
・権利行使価額が3,600万円÷3=1,200万円
となります。
Bの当該特定新株予約権の権利行使価額の金額も調整されます。
(以下この項において同じ。とあるため。)
気になったのは、税制適格ストックオプションが他にもある場合です。
例えば、次の場合です。
1、権利行使価額が調整される特定新株予約権(当該特定新株予約権)
2、権利行使価額が調整されない特定新株予約権(他の特定新株予約権)
2つを合計して3,600万円ではなく、1,200万円(金額固定)で判定するのでしょう。権利行使価額が調整される特定新株予約権を2つ持っていた場合も同じです。
