今回は、前回の特定新規設立法人の要件の1つ、特定要件について確認します。
特定要件の概要
特定要件とは、新しく設立された法人(新規設立法人)の株式の50%超を保有する人がいる場合をいいます。規定を確認します。
特定要件の定義
特定要件(他の者により新規設立法人の発行済株式又は出資(その新規設立法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資が直接又は間接に保有される場合その他の他の者により新規設立法人が支配される場合として政令で定める場合であることをいう。以下この条において同じ。)
消費税法第12条の3第1項
マーカー部分は、自社が自社の株式を所有している場合です。100株発行して、自社で10株所有している場合は、100株-10株=90株で50%超か判定します。90株×50%=45株超(46株以上)所有していれば、特定要件に該当します。
特定要件の定義にある「その他の」の前にあるものは例示です。詳細は政令を確認する必要があります。詳細は全部で4つです。
単独で50%超所有の場合
1つ目。他の者により新規設立法人が支配される場合
誰か1人が新規設立法人の株式の50%超を所有している場合です。
一 当該他の者が法第十二条の三第一項に規定する新規設立法人(以下この項及び第二十五条の四第二項において「新規設立法人」という。)の発行済株式又は出資(その有する自己の株式又は出資を除く。次号において「発行済株式等」という。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合
消費税法施行令第25条の2第1項
複数で50%超所有の場合
2つ目。誰か1人と親族等や完全に支配している法人の株式を合計して50%超を所有している場合です。
誰か1人だけで判定すると、配偶者、子、支配している法人に株式を所有させて、単独50%超要件を回避することができてしまうため、2つ目の要件が用意されています。
例えば、X法人を新たに設立したときの株式所有割合が以下のとおりだった場合。
- 夫40%(他の者)
- 妻5%(他の者の親族等、イ)
- 夫(他の者が個人)と妻(親族等を含む)が完全に支配しているA法人3%(ロ)
- 夫と妻(他の者)、A法人(ロの関係)が完全に支配しているB法人3%(ハ)
40%+5%+3%+3%=51%>50%となり、X法人は特定要件に該当します。
筆頭株主が50%以下であっても、親族や完全に支配している法人と合わせて50%超になれば、特定要件に該当します。
二 当該他の者及び次に掲げる者(新規設立法人が次のロからニまでに掲げる法人に該当する場合における当該新規設立法人を除く。)が新規設立法人の発行済株式等の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合
消費税法施行令第25条の2第1項
イ 当該他の者の親族等
ロ 当該他の者(当該他の者が個人である場合には、イに掲げる当該他の者の親族等を含む。以下この号において同じ。)が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人
ハ 当該他の者及びこれとロに規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人
ニ 当該他の者並びにこれとロ及びハに規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人
議決権50%超の場合
3つ目。異なる議決権を持たせる種類株式の場合です。単なる株式数判定が形式基準、議決権判定が実質基準とみていいかもしれません。重要な議決権の「いずれか」について、単独所有者と関係者を合わせて50%超所有している場合は、特定要件に該当します。
三 当該他の者及びこれと前号イからニまでに規定する関係のある者が新規設立法人の次に掲げる議決権のいずれかにつき、その総数(当該議決権を行使することができない株主等(株主又は合名会社、合資会社若しくは合同会社の社員その他法人の出資者をいう。次号並びに第三項及び第四項において同じ。)が有する当該議決権の数を除く。)の百分の五十を超える数を有する場合
消費税法施行令第25条の2第1項
イ 事業の全部若しくは重要な部分の譲渡、解散、継続、合併、分割、株式交換、株式移転又は現物出資に関する決議に係る議決権
ロ 役員(法人税法第二条第十五号(定義)に規定する役員をいう。以下この号において同じ。)の選任及び解任に関する決議に係る議決権
ハ 役員の報酬、賞与その他の職務執行の対価として法人が供与する財産上の利益に関する事項についての決議に係る議決権
ニ 剰余金の配当又は利益の配当に関する決議に係る議決権
合名、合資、合同会社の場合
4つ目。合同会社等の場合は、株式の数ではなく株主の数(人の数)で判定します。
四 当該他の者及びこれと第二号イからニまでに規定する関係のある者が新規設立法人の株主等(合名会社、合資会社又は合同会社の社員(当該新規設立法人が業務を執行する社員を定めた場合にあつては、業務を執行する社員)に限る。)の総数の半数を超える数を占める場合
消費税法施行令第25条の2第1項
親族等の定義
親族ではなく、親族「等」です。親族は民法に定義されています。
「等」は消費税法で定義されています。
2 前項第二号イに規定する親族等とは、次に掲げる者をいう。
消費税法施行令第25条の2第2項
一 当該他の者の親族
二 当該他の者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
三 当該他の者(個人である他の者に限る。次号において同じ。)の使用人
四 前三号に掲げる者以外の者で当該他の者から受ける金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの
五 前三号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
2つ目は事実婚です。親族等の定義によって、内縁の妻に株式を持たせて特定要件を逃れられないようにしています。親族でなくても、筆頭株主からお金を受け取って生活をしている人、その親族も親族等に含まれます。
完全に支配している場合
完全に支配しているパターンは次の3パターンあります。
- 発行済株式の全部を所有している場合
- 一定の議決権の「いずれか」につき、その議決権の全部を所有する場合
- 合同会社等の場合は、株主等の全部を占める場合
特定要件の判定は50%超で判定しますが、本人以外の関係者の判定は100%(完全に支配)でします。100%であれば本人と同一視できるからです。
同意している場合
議決権の行使について、同意者がいる場合は、同意者が有する議決権は、同意される人が有するものとみなされます。
みなし規定を確認します。
4 個人又は法人<A>との間で当該個人又は法人<A>の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者<X>がある場合には、当該者<X>が有する議決権は当該個人又は法人<A>が有するものとみなし、かつ、当該個人又は法人(当該議決権に係る法人の株主等であるものを除く。)は当該議決権に係る法人の株主等であるものとみなして、第一項及び前項の規定を適用する。
消費税法施行令第25条の2第4項
例えば、新設した法人の株主構成が次の場合
実質支配者である株主A、議決権割合0%
同意者X(Aの親族等には該当しない)、議決権割合60%
複数の上記に関係ない人、議決権割合40%
株主Aで判定すると議決権割合が50%以下のため、特定要件に該当しません。
同意者Xで判定すると議決権割合が50%超のため、特定要件に該当します。
みなし規定を適用すると
同意者Xが有する議決権割合60%は実質支配者Aが有するものとみなし、かつ、株主Aは新設法人の株主等とみなされます。
その結果
実質支配者である株主A、議決権割合60%(とみなす)
同意者X(Aの親族等には該当しない)、議決権割合0%(とみなす)
複数の上記に関係ない人、議決権割合40%
とみなされます。
株主等 | 形式の議決権割合 | 実質判定 |
---|---|---|
実質支配者である株主A | 0%≦50% 特定要件に該当しない | 60%とみなす>50% 特定要件に該当する Aの課税売上高で判定 |
同意者X(Aの親族等には該当しない) | 60%>0 特定要件に該当する。 Xの課税売上高で判定 | 0%とみなす 特定要件に該当しない |
複数の上記に関係ない人 | 40%≦50% | 40%≦50% |
株主Aで判定すると議決権割合が50%超のため、特定要件に該当します。
同意者Xで判定すると議決権割合が50%以下のため、特定要件に該当しません。
特定新規設立法人の納税義務の免除の特例で使用される基準期間相当期間の課税売上高は、特定要件に該当する旨の判定の基礎となった他の者(同意者Xではなく、実質支配者である株主A)の金額を用いるため、みなし規定があるのでしょう。形式的に議決権を所有している同意者Xの課税売上高で判定しても意味がないからです。