今回は、欠損等法人の欠損金の繰越しが制限される場合を確認します。
欠損金を有する法人を利用した節税の防止規定です。
目次
規定の概要
カッコ書きを外して確認してみましょう。
内国法人で他の者との間に
その他の者による特定支配関係(注1)を有することとなったもののうち、
その特定支配関係を有することとなった日(支配日)の属する
事業年度(特定支配事業年度)において
その特定支配事業年度「前」の各事業年度において生じた
欠損金額(注2)又は評価損資産(注3)を有するもの(欠損等法人)が、
その支配日以後5年を経過した日の前日まで(注4)に
次に掲げる事由に該当する場合には、
その該当することとなった日(注5)の属する
事業年度(適用事業年度)以後の各事業年度においては、
その適用事業年度「前」の各事業年度において生じた欠損金額については、
欠損金の繰越し(法人税法57条1項)は適用できません。
他の者
↓
↓ 特定支配関係(50%超)が発生
↓
内国法人
欠損金額、評価損資産(隠れた欠損金)を有するもの=欠損等法人
|
特定支配事業年度----
|
| 支配日から5年が制限期間
|
適用事業年度----
|
支配日以後5年間に一定の事由が生じた場合、
適用事業年度以後については、
適用事業年度「前」の欠損金が使用できません。
注1、特定支配関係
その他の者がその内国法人の発行済株式等(自己株式等を除く)の総数又は総額の50%を超える数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他政令で定める関係をいい、政令で定める事由によって生じたものを除く。以下この項において同じ。
注2、欠損金額
法法57条②によりその内国法人の欠損金額とみなされたものを含むものとし、
法法57条①の適用があるものに限る。以下この条において同じ。
注3、評価損資産
その内国法人がその特定支配事業年度開始日において有する資産のうち同日における価額がその帳簿価額に満たないものとして政令で定めるものをいう。
→ 含み損資産のこと
注4、一定の事実
その特定支配関係を有しなくなった場合として政令で定める場合に該当したこと、その欠損等法人の債務につき政令で定める債務の免除その他の行為(第3号において「債務免除等」という。)があったことその他政令で定める事実が生じた場合には、これらの事実が生じた日まで。
→ 原則の制限期間は5年。
→ ただし、一定の債務免除等が生じた場合には制限が解除される。
(債務免除益と相殺)
注5、該当日の定義
第4号に掲げる事由(同号に規定する適格合併に係る部分に限る。)に該当する場合にあっては、その適格合併の日の「前日」。次項・第3項のおいて「該当日」という。
次に掲げる事由6つを確認します。
事業を開始する場合(1号)
その欠損等法人がその支配日の「直前」において事業を営んでいない場合(清算中を含む。)において、その支配日「以後」に事業を開始すること(清算中のその欠損等法人が継続することを含む。)
| 事業を営んでいない(清算中を含む)
ー 支配日以後
| 事業を開始(継続を含む)
→ 欠損金を有する休眠会社を支配して新事業を開始することです。
事業を廃止する場合(2号)
その欠損等法人がその支配日の「直前」において営む事業(=旧事業)の「全て」をその支配日「以後」に「廃止」し、又は廃止することが見込まれている場合において、その旧事業のその支配日の「直前」における事業規模(注6)のおおむね5倍を超える資金借入れ等(注7)を行うこと。
|
ー 支配日以後
| 旧事業の全てを廃止(見込みを含む)
| 旧事業の事業規模の5倍超の資金借入れ等を行うこと。
注6、事業規模
売上金額、収入金額その他の事業の種類に応じて政令で定めるものをいう。3号・5号において同じ。
注7、資金借入れ等
資金の借入れ又は出資による金銭その他の資産の受入れ(合併又は分割による資産の受入れを含む。3号において「資金借入れ等」という。)
支配株主
↓ 50%超
欠損等法人(売上5,000万円)
ーーーーーーーー-------------
現金5億円 | 借入金5億円(5倍超)
|------------
| 多額の欠損金
→ 2号は事業開始要件がありません。
特定債権が取得されている場合(3号)
その他の者又は関連者(注7)がその他の者・関連者以外の者からその欠損等法人に対する特定債権(注8)を取得している場合(注9)において、その欠損等法人が旧事業のその支配日の「直前」における事業規模のおおむね5倍を超える資金借入れ等を行うこと。
注7、関連者
その他の者との間に政令で定める関係がある者
注8、特定債権
債権で政令で定めるもの
注9、特定債権が取得されている場合
その支配日「前」に特定債権を取得しているものを含むものとし、その特定債権につきその支配日「以後」に債務免除等を行うことが見込まれている場合その他の政令で定める場合を除く。4号において「特定債権が取得されている場合」という。
支配株主
↓ 50%超
欠損等法人
ーーーーーーーー----
| 借入金1億円 ← 第3者の貸付金1億円
|---------
| 多額の欠損金
支配株主が第3者から債権を買い取ると
支配株主(貸付金1億円)
↓ 50%超
欠損等法人
ーーーーーーーー--------
| 支配株主借入金1億円
|------------
| 多額の欠損金
→ 3号は事業廃止・事業開始要件がありません。
→ 債権者が入れ替わる場合。
適格合併、残余財産が確定する場合(4号)
第1号若しくは第2号に規定する場合又は3号の特定債権が取得されている場合において、その欠損等法人が自己を被合併法人とする適格合併を行い、又はその欠損等法人(注10)の残余財産が確定すること。
注10、他の内国法人との間にその他の内国法人による完全支配関係があるものに限る。
→ 1号・2号・3号の後に
→ 欠損等法人の欠損金の引継ぎ事由(4号)が発生することです。
メモ
欠損金の繰越しの制限事由は、全部を満たす必要がないため、
1号事由で制限された後に4号事由で再度制限されることがある。
例えば、
| 欠損金あり
支配日
1年目、支配日以後に事業を開始(1号該当日)
2年目、新事業で利益発生→法人税納付(欠損金の使用制限のため)
3年目、新事業で欠損金発生→繰越し
4年目、適格合併・残余財産確定(4号該当日)のため、欠損金を引き継ぐ。
(引き継げるかどうかは、欠損金の規定で判断する。)
この場合、4年目で利益が発生したとしても、1号、2号、3号の要件を満たしているため、3年目の欠損金が使用できない。
役員が全て退任する場合(5号)
その欠損等法人がその特定支配関係を有することとなったことに基因して、その欠損等法人のその支配日の「直前」の役員(社長その他政令で定めるものに限る。)の全てが退任(業務を執行しないものとなることを含む。)をし、かつ、その支配日の「直前」においてその欠損等法人の業務に従事する使用人(旧使用人)の総数のおおむね20%に相当する数の者がその欠損等法人の使用人でなくなった場合において、その欠損等法人の非従事事業(注11)の事業規模が旧事業のその支配日の「直前」における事業規模のおおむね5倍を超えることとなること(政令で定める場合を除く。)。
注11、非従事事業
その旧使用人がその支配日「以後」その業務に実質的に従事しない事業をいう。
特定支配関係発生
|
| 旧役員の全てが退任
| 旧使用人総数の2割が使用人でなくなった場合において
| (従業員100人のうち40人が退職して60人に減少)
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| 非従事事業の事業規模(売上6億円)
| >旧事業の直前事業規模(売上1億円)
→ 役員・従業員が入れ替わる場合。
類する事由(6号)
1号から5号までの事由に類する事由については政令で規定されています。
参考規定
(特定株主等によつて支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用)
第五十七条の二 内国法人で他の者との間に当該他の者による特定支配関係(当該他の者が当該内国法人の発行済株式又は出資(自己が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係をいい、政令で定める事由によつて生じたものを除く。以下この項において同じ。)を有することとなつたもののうち、当該特定支配関係を有することとなつた日(以下この項及び次項第一号において「支配日」という。)の属する事業年度(以下この項において「特定支配事業年度」という。)において当該特定支配事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額(前条第二項の規定により当該内国法人の欠損金額とみなされたものを含むものとし、同条第一項の規定の適用があるものに限る。以下この条において同じ。)又は評価損資産(当該内国法人が当該特定支配事業年度開始の日において有する資産のうち同日における価額がその帳簿価額に満たないものとして政令で定めるものをいう。)を有するもの(以下この条において「欠損等法人」という。)が、当該支配日以後五年を経過した日の前日まで(当該特定支配関係を有しなくなつた場合として政令で定める場合に該当したこと、当該欠損等法人の債務につき政令で定める債務の免除その他の行為(第三号において「債務免除等」という。)があつたことその他政令で定める事実が生じた場合には、これらの事実が生じた日まで)に次に掲げる事由に該当する場合には、その該当することとなつた日(第四号に掲げる事由(同号に規定する適格合併に係る部分に限る。)に該当する場合にあつては、当該適格合併の日の前日。次項及び第三項において「該当日」という。)の属する事業年度(以下この条において「適用事業年度」という。)以後の各事業年度においては、当該適用事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額については、前条第一項の規定は、適用しない。一 当該欠損等法人が当該支配日の直前において事業を営んでいない場合(清算中の場合を含む。)において、当該支配日以後に事業を開始すること(清算中の当該欠損等法人が継続することを含む。)。
法人税法57条の2、特定株主等によつて支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用
二 当該欠損等法人が当該支配日の直前において営む事業(以下この項において「旧事業」という。)の全てを当該支配日以後に廃止し、又は廃止することが見込まれている場合において、当該旧事業の当該支配日の直前における事業規模(売上金額、収入金額その他の事業の種類に応じて政令で定めるものをいう。次号及び第五号において同じ。)のおおむね五倍を超える資金の借入れ又は出資による金銭その他の資産の受入れ(合併又は分割による資産の受入れを含む。次号において「資金借入れ等」という。)を行うこと。
三 当該他の者又は当該他の者との間に政令で定める関係がある者(以下この号において「関連者」という。)が当該他の者及び関連者以外の者から当該欠損等法人に対する債権で政令で定めるもの(以下この号において「特定債権」という。)を取得している場合(当該支配日前に特定債権を取得している場合を含むものとし、当該特定債権につき当該支配日以後に債務免除等を行うことが見込まれている場合その他の政令で定める場合を除く。次号において「特定債権が取得されている場合」という。)において、当該欠損等法人が旧事業の当該支配日の直前における事業規模のおおむね五倍を超える資金借入れ等を行うこと。
四 第一号若しくは第二号に規定する場合又は前号の特定債権が取得されている場合において、当該欠損等法人が自己を被合併法人とする適格合併を行い、又は当該欠損等法人(他の内国法人との間に当該他の内国法人による完全支配関係があるものに限る。)の残余財産が確定すること。
五 当該欠損等法人が当該特定支配関係を有することとなつたことに基因して、当該欠損等法人の当該支配日の直前の役員(社長その他政令で定めるものに限る。)の全てが退任(業務を執行しないものとなることを含む。)をし、かつ、当該支配日の直前において当該欠損等法人の業務に従事する使用人(以下この号において「旧使用人」という。)の総数のおおむね百分の二十以上に相当する数の者が当該欠損等法人の使用人でなくなつた場合において、当該欠損等法人の非従事事業(当該旧使用人が当該支配日以後その業務に実質的に従事しない事業をいう。)の事業規模が旧事業の当該支配日の直前における事業規模のおおむね五倍を超えることとなること(政令で定める場合を除く。)。
六 前各号に掲げる事由に類するものとして政令で定める事由