今回は、独立企業間価格が再計算される場合を確認してみましょう。
規定の概要
今回は、こちら↓の規定を読んでみましょう。
8 法人が各事業年度において当該法人に係る国外関連者との間で行つた特定無形資産国外関連取引(国外関連取引のうち、特定無形資産(国外関連取引を行つた時において評価することが困難な無形資産として政令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)の譲渡若しくは貸付け(特定無形資産に係る権利の設定その他他の者に特定無形資産を使用させる一切の行為を含む。)又はこれらに類似する取引をいう。以下この項において同じ。)について、当該特定無形資産国外関連取引の対価の額を算定するための前提となつた事項(当該特定無形資産国外関連取引を行つた時に当該法人が予測したものに限る。)についてその内容と相違する事実が判明した場合には、税務署長は、第二項各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法のうち、当該特定無形資産国外関連取引の内容及び当該特定無形資産国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情(当該相違する事実及びその相違することとなつた事由の発生の可能性(当該特定無形資産国外関連取引を行つた時における客観的な事実に基づいて計算されたものであることその他の政令で定める要件を満たすものに限る。)を含む。)を勘案して、当該特定無形資産国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従つて行われるとした場合に当該特定無形資産国外関連取引につき支払われるべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額を第一項に規定する独立企業間価格とみなして、当該法人の当該事業年度の所得の金額又は欠損金額につき法人税法第二条第三十九号に規定する更正(以下この条において「更正」という。)又は同法第二条第四十号に規定する決定(第十二項、第十四項及び第二十七項において「決定」という。)をすることができる。ただし、当該特定無形資産国外関連取引の対価の額とこの項本文の規定を適用したならば第一項に規定する独立企業間価格とみなされる金額とが著しく相違しない場合として政令で定める場合に該当するときは、この限りでない。
租税特別措置法第66条の4第8項、令和7年10月1日施行
長い規定ですので、区切ります。
8 法人が各事業年度において当該法人に係る国外関連者との間で行つた特定無形資産国外関連取引(国外関連取引のうち、特定無形資産(国外関連取引を行つた時において評価することが困難な無形資産として政令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)の譲渡若しくは貸付け(特定無形資産に係る権利の設定その他他の者に特定無形資産を使用させる一切の行為を含む。)又はこれらに類似する取引をいう。以下この項において同じ。)について、当該特定無形資産国外関連取引の対価の額を算定するための前提となつた事項(当該特定無形資産国外関連取引を行つた時に当該法人が予測したものに限る。)についてその内容と相違する事実が判明した場合には、
これが要件です。
税務署長は、
これが主語です。
今読んでいる規定は、税務署長サイドの規定ということがわかります。
結論を確認してみましょう。
法人税法第二条第三十九号に規定する更正(以下この条において「更正」という。)又は同法第二条第四十号に規定する決定(第十二項、第十四項及び第二十七項において「決定」という。)をすることができる。
要件を満たした場合には、
税務署長は、
更正や決定ができる規定です。
(要件を満たさない場合は、更正や決定ができません。)
更正や決定ができる要件
要件のカッコ書きを外してみましょう。
法人が各事業年度において当該法人に係る国外関連者との間で行つた特定無形資産国外関連取引(注1)について、当該特定無形資産国外関連取引の対価の額を算定するための前提となつた事項(注2)についてその内容と相違する事実が判明した場合には、
国外関連取引については、
1、下記以外の取引
2、無形資産取引
の2つに分けられます。
2、無形資産取引のうち、注1のカッコ書きに該当するものを「特定」無形資産国外関連取引といいます。
当該特定無形資産国外関連取引の対価の額を算定するための前提となつた事項(当該特定無形資産国外関連取引を行つた時に当該法人が予測したものに限る。)について
その内容と相違する事実が判明した場合には、
予測した前提事項と相違する事実がわかった場合には、という意味です。この場合に、税務署長は、更正や決定ができるようになります。
無形資産の評価は難しいものですが、評価(予測)して取引価格を決める必要があります。1億円と評価したものが実際には5億円だったり、4億円と評価したものが実際には2億円だったりすることもあるのでしょう。
独立企業間価格を再計算する。
規定を確認してみましょう。
第二項各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法のうち、
第2項は、独立企業間価格の定義(計算方法)です。
1、独立価格比準法
2、再販売価格基準法
3、原価基準法
などがあります。
当該特定無形資産国外関連取引の内容及び当該特定無形資産国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情(省略)を勘案して、
・内容
・事情(例、特定無形資産国外関連取引の当事者が果たす機能)
を勘案します。
カッコ書きの規定を見てみましょう。
事情(当該相違する事実及びその相違することとなつた事由の発生の可能性(当該特定無形資産国外関連取引を行つた時における客観的な事実に基づいて計算されたものであることその他の政令で定める要件を満たすものに限る。)を含む。)
勘案する事情については、2つ目のカッコ書きで「政令で定める要件を満たすものに限る。」とありますので、注意が必要です。
当該特定無形資産国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従つて行われるとした場合に当該特定無形資産国外関連取引につき支払われるべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額を第一項に規定する独立企業間価格とみなして、
独立企業間価格の計算方法は、複数あります。予測した前提事項と相違する事実がわかった場合には、最も適切な方法により独立企業間価格が再計算されることになります。
独立企業間価格が再計算されると、
・所得の金額
・欠損金額
が変わるため、税務署長は更正や決定が可能となります。
例外がある。
続きに例外規定があります。
ただし、当該特定無形資産国外関連取引の対価の額とこの項本文の規定を適用したならば第一項に規定する独立企業間価格とみなされる金額とが著しく相違しない場合として政令で定める場合に該当するときは、この限りでない。
A、特定無形資産国外関連取引の対価の額
B、この項本文の規定を適用したならば第一項に規定する独立企業間価格とみなされる金額
AとBが著しく相違しない場合は、更正や決定がされません。計算方法が施行令に規定されています。
16 法第六十六条の四第八項に規定する政令で定める場合は、同項の法人が、同項の特定無形資産国外関連取引の対価の額の支払を受ける場合には第一号に掲げる場合とし、当該対価の額を支払う場合には第二号に掲げる場合とする。
租税特別措置法施行令第39条の12第16項、令和7年10月1日施行
一 当該特定無形資産国外関連取引につき法第六十六条の四第八項本文の規定を適用したならば同条第一項に規定する独立企業間価格とみなされる金額が当該特定無形資産国外関連取引の対価の額に百分の百二十を乗じて計算した金額を超えない場合
二 当該特定無形資産国外関連取引につき法第六十六条の四第八項本文の規定を適用したならば同条第一項に規定する独立企業間価格とみなされる金額が当該特定無形資産国外関連取引の対価の額に百分の八十を乗じて計算した金額を下回らない場合
・対価を受け取る場合は、第1号
・対価を支払う場合は、第2号
で判定します。
数字を使って確認してみましょう。
第1号の判定
A、再計算される金額
法第66条の4第8項本文の規定を適用したならば同条第1項に規定する独立企業間価格とみなされる金額 1,100
B、判定ライン
特定無形資産国外関連取引の対価の額(1,000)×120%=1,200
A(1,100)がB(1,200)を超えない場合に該当するため、例外に該当します。
(+20%までなら修正がありません。)
現時点でもらっている金額は1,000、再計算したとした場合は1,100、追加で+100の所得(益金)が発生しますが判定ライン1,200を超えていないため、再計算がされません。
(この規定を見る限り、反対の場合は再計算されないのでしょう。)
第2号の判定
A、再計算される金額
法第66条の4第8項本文の規定を適用したならば同条第1項に規定する独立企業間価格とみなされる金額 900
B、判定ライン
特定無形資産国外関連取引の対価の額(1,000)×80%=800
A(900)がB(800を)下回らない場合に該当するため、例外に該当します。
(-20%までなら修正がありません。)
参考情報
特定無形資産国外関連取引の定義
特定無形資産国外関連取引(国外関連取引のうち、特定無形資産(国外関連取引を行つた時において評価することが困難な無形資産として政令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)の譲渡若しくは貸付け(特定無形資産に係る権利の設定その他他の者に特定無形資産を使用させる一切の行為を含む。)又はこれらに類似する取引をいう。以下この項において同じ。)
「政令で定めるもの」とありますので、政令を確認する必要があります。