現金基準を止める場合の調整計算


今回は、現金基準を止める場合の調整計算を確認してみましょう。

調整計算が必要

小規模の事業者については、
現預金の入出金を基準とする現金基準が選択できます。

現金基準を止めて発生基準に戻すことも可能です。
(取引の発生を基準とする方法を発生基準といいます。)

収入・費用を計上する基準がそれぞれ異なるため、
現金基準から発生基準に戻す場合は、調整計算が必要となります。
(発生基準から現金基準に変更する場合は、調整不要です。)

調整計算の手順は、次のとおりです。
1、現金基準を選択する前年の12月31日の売掛金等を把握する。
2、現金基準を止める年の1月1日の売掛金等を把握する。
3、1と2の差額を収入・費用として追加する。

売掛金等とは、
・売掛金
・買掛金
・未払金
・棚卸資産等
をいいます。貸借対照表に計上される項目です。

調整計算について具体的に確認してみましょう。
現金基準を選択する前年の12月31日
・売掛金 1,000
・買掛金 700
・棚卸商品 100

現金基準を止める年の1月1日
・売掛金 0
・買掛金 0
・棚卸商品 90

調整計算
・売掛金 1,000-0=1,000の収入金額をマイナスする。
・買掛金 700-0=700の必要経費をマイナスする。
・棚卸商品 100-90=10の必要経費をプラスする。

発生基準から現金基準に変更した場合に、売掛金に相当する収入や買掛金に相当する経費が2重に計上されるため、調整計算が必要となります。

棚卸商品については、通常
・年初在庫+当年仕入-年末在庫
で計算します。

現金基準を選択した場合、支払った金額が経費となり、年初と年末の在庫の増減が事業所得等の計算に反映されないため、調整計算が必要となります。

引当金の取扱い

事業所得者については、
・貸倒引当金の繰入など
の設定が可能です。

年末の売掛金が100万円の場合、
原則として5.5%の引当金の設定ができるため、
55,000円の費用計上が可能となります。
ただし、費用計上した翌年は、収入計上する必要があります。

現金基準に選択した場合、翌年に収入計上しないで、
発生基準に戻した年に収入計上が必要となるため注意しましょう。

雑所得の場合

雑所得の現金基準についても、事業所得等の現金基準と同様に調整計算が必要となります。

ただし、雑所得の現金基準については、例外があります。発生基準に戻した年以前5年内(過去5年間)で現金基準を選択していた場合は、調整計算しないこともできます(選択制)。

雑所得の現金基準を止める場合や調整計算を選択しない場合は、確定申告書に止める旨や選択しない旨を記載する必要があります。

参考規定

事業所得等の現金基準を止める場合の調整計算

第四十条 法第六十七条第一項(小規模事業者等の収入及び費用の帰属時期)の規定の適用を受ける居住者がその適用を受けないこととなつた場合におけるその適用を受けないこととなつた年分の不動産所得の金額又は事業所得の金額の計算については、次に定めるところによる。
一 法第六十七条第一項の規定の適用を受けることとなつた年の前年十二月三十一日(年の中途において新たに不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を開始した場合には、当該業務を開始した日。次号において同じ。)における売掛金、買掛金、未収収益、前受収益、前払費用、未払費用その他これらに類する資産及び負債並びに棚卸資産(以下この号において「売掛金等」という。)の額と同項の規定の適用を受けないこととなつた年の一月一日における売掛金等の額との差額に相当する金額は、その適用を受けないこととなつた年分の不動産所得の金額又は事業所得の金額の計算上、それぞれ総収入金額又は必要経費に算入する。
二 法第六十七条第一項の規定の適用を受けることとなつた年の前年十二月三十一日における法その他所得税に関する法令の規定による引当金及び準備金の金額は、それぞれ同項の規定の適用を受けないこととなつた年の前年から繰り越されたこれらの引当金及び準備金の金額とみなす。

所得税法施行規則第40条第1項、施行日令和6年6月1日

雑所得の現金基準を止める場合の調整計算

2 その年の前年において法第六十七条第二項の規定の適用を受けていた雑所得を生ずべき業務を行う居住者がその年において同項の規定の適用を受けないこととなる場合におけるその適用を受けないこととなる年分の当該雑所得を生ずべき業務に係る雑所得の金額の計算については、その適用を受けることとなつた年の前年十二月三十一日(年の中途において新たに雑所得を生ずべき業務を開始した場合には、当該業務を開始した日)における売掛金、買掛金、未収収益、前受収益、前払費用、未払費用その他これらに類する資産及び負債並びに当該雑所得を生ずべき業務に係る令第三条各号(棚卸資産の範囲)に掲げる資産に準ずる資産(以下この項において「売掛金等」という。)の額と法第六十七条第二項の規定の適用を受けないこととなる年の一月一日における売掛金等の額との差額に相当する金額は、その適用を受けないこととなる年分の当該雑所得を生ずべき業務に係る雑所得の金額の計算上、それぞれ総収入金額又は必要経費に算入する。

所得税法施行規則第40条第2項、施行日令和6年6月1日

雑所得の現金基準を止める場合の調整計算を選択しない場合

3 前項の場合において、同項のその年の前年以前五年内の各年のいずれの年においても法第六十七条第二項の規定の適用を受けていたときは、その者の選択により、前項の規定を適用しないことができる。

所得税法施行規則第40条第3項、施行日令和6年6月1日

確定申告書の記載義務

4 前二項の規定の適用を受ける居住者は、これらの規定の適用を受けようとする年分の確定申告書を提出する場合には、当該申告書にこれらの規定の適用を受ける旨の記載をしなければならない。

所得税法施行規則第40条第4項、施行日令和6年6月1日

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