今回は、相当の地代を支払って、土地を借りた場合を確認してみましょう。
基本通達の趣旨
基本通達を見る前に趣旨を見てみましょう。
借地権の設定された土地について権利金の支払に代え相当の地代を支払うなどの特殊な場合の相続税及び贈与税の取扱いを定めたものである。
国税庁、相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
したがって、借地権の設定に際し通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、通常の地代(その地域において通常の賃貸借契約に基づいて通常支払われる地代をいう。)を支払うことにより借地権の設定があった場合又は通常の地代が授受されている借地権若しくは貸宅地の相続、遺贈又は贈与があった場合には、この通達の取扱いによることなく、相続税法基本通達及び相続税財産評価に関する基本通達等の従来の取扱いによるのであるから留意する。
「権利金の支払に代え相当の地代を支払う」が特殊な場合の例です。
したがっての続きは、要件です。
借地権の設定に際し通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、通常の地代(その地域において通常の賃貸借契約に基づいて通常支払われる地代をいう。)を支払うことにより借地権の設定があった場合又は通常の地代が授受されている借地権若しくは貸宅地の相続、遺贈又は贈与があった場合権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、
1、通常の地代を支払うことにより借地権の設定があった場合
2、通常の地代が授受されている借地権や貸宅地の相続、遺贈、贈与があった場合
続きは、取扱いです。
この通達の取扱いによることなく、
・相続税法基本通達
・相続税財産評価に関する基本通達等
の従来の取扱いによるのであるから留意する。したがっての後に規定されている要件を満たす場合は、「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」の取扱いによらないで、従来の取扱い(相続税法基本通達など)により財産を評価します。
相当の地代を支払って、土地を借りた場合
基本通達は、全部で11個あります。1個目を見てみましょう。
長い通達のため分けます。
1 借地権(建物の所有を目的とする地上権又は賃借権をいう。以下同じ。)の設定に際しその設定の対価として通常権利金その他の一時金(以下「権利金」という。)を支払う取引上の慣行のある地域において、当該権利金の支払に代え、当該土地の自用地としての価額に対しておおむね年6%程度の地代(以下「相当の地代」という。)を支払っている場合は、借地権を有する者(以下「借地権者」という。)については当該借地権の設定による利益はないものとして取り扱う。建物の所有を目的とする
・地上権
・賃借権
の2つを「借地権」といいます。
借地権を設定するにあたって、
借地権の設定対価として権利金を
支払う取引上の慣行のある地域において、
権利金を支払わないで相当の地代を支払っている場合が要件です。
相当の地代は、
土地の自用地としての価額×おおむね年6%で計算します。
例えば、土地の自用地としての価額が5,000万円の場合は、
5,000万円×年6%=300万円が相当の地代となります。
要件を満たす場合、土地を借りている人(借地権者)については、
借地権の設定による利益はないものとして取り扱われます。
土地を借りている人は、
土地を貸している人に借地権の代金を支払う必要があります。
仕訳イメージ
借りている人
借地権 ××円 / 現預金 ××円
貸している人
現預金 ××円 / 土地(借地権の設定) ××円
実際には、お金の動きがないため
借りている人
借地権 ××円 / 権利金を支払わないことによる利益 ××円
に変わります。
借りている人に利益が生じるため、相続税や贈与税の問題が生じます。
そのため、借地権の設定対価(権利金)の支払いがなくても、相当の地代(借地権の設定対価に相当する地代)の支払いがある場合は、権利金を支払わないことによる利益はないものとして取り扱われます。
仕訳イメージ
借りている人借地権 ××円 / 権利金を支払わないことによる利益 ××円
相当の地代 300万円 / 現預金 300万円
貸している人現預金 ××円 / 借地権の設定 ××円
現預金 300万円 / 相当の地代 300万円
続きは、「自用地としての価額」の定義です。
この場合において、「自用地としての価額」とは、昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同「財産評価基本通達」(以下「評価基本通達」という。)25((貸宅地の評価))の(1)に定める自用地としての価額をいう(以下同じ。)。例外
例外を見てみましょう。
ただし、通常支払われる権利金に満たない金額を権利金として支払っている場合又は借地権の設定に伴い通常の場合の金銭の貸付けの条件に比し特に有利な条件による金銭の貸付けその他特別の経済的な利益(以下「特別の経済的利益」という。)を与えている場合は、当該土地の自用地としての価額から実際に支払っている権利金の額及び供与した特別の経済的利益の額を控除した金額を相当の地代の計算の基礎となる当該土地の自用地としての価額とする。例外の要件は、2つあります。
1、通常支払われる権利金に満たない金額を権利金として支払っている場合
1つ目は、通常の権利金より安い権利金を支払っている場合です。
(例、通常の権利金が4,000万円、支払っている権利金が3,000万円)
2、借地権の設定に伴い、通常の場合の金銭の貸付けの条件に比し特に有利な条件による金銭の貸付けや、その他特別の経済的な利益(特別の経済的利益)を与えている場合
2つ目は、特別の経済的利益を与えている場合です。
(例、土地を借りている人が土地を貸している人に無利息でお金を貸した場合)
要件を満たした場合、
(算式に変えます。)
1、土地の自用地としての価額
2、実際に支払っている権利金の額+供与した特別の経済的利益の額
3、1-2=相当の地代の計算の基礎となる土地の自用地としての価額
数字を使ってみましょう。
1、土地の自用地としての価額 1億円
2、実際に支払っている権利金の額+供与した特別の経済的利益の額
2,000万円+500万円=2,500万円
3、土地の自用地としての価額 7,500万円
土地を借りている人が土地を貸している人に何もしていない場合は、土地の自用地としての価額を1億円で計算します。
相当の地代は、1億円×年6%=600万円となります。
上記の例では、実際に権利金を2,000万円支払い、経済的な利益を500万円与えているため、1億円から2つの金額(2,500万円)をマイナスした7,500万円で計算します。
相当の地代は、7,500万円×年6%=450万円となります。
注意書き
注意書きを見てみましょう。
(注)
1 相当の地代の額を計算する場合に限り、「自用地としての価額」は、評価基本通達25((貸宅地の評価))の(1)に定める自用地としての価額の過去3年間(借地権を設定し、又は借地権若しくは貸宅地について相続若しくは遺贈又は贈与があった年以前3年間をいう。)における平均額によるものとする。自用地としての価額は、過去3年間の平均で求める必要があります。
(ただし、相当の地代を計算する場合に限定されています。)
2 本文のただし書により土地の自用地としての価額から控除すべき金額があるときは、当該金額は、次の算式により計算した金額によるのであるから留意する。
算式
1、その権利金や特別の経済的な利益の額
2、当該土地の自用地としての価額
3、借地権の設定時における当該土地の通常の取引価額
4、土地の自用地としての価額から控除すべき金額 1×2÷3本文のただし書(例外)は、次の2つです。
・通常の権利金より安い権利金を支払っている場合
・特別の経済的利益を与えている場合
上記2つの金額を土地の自用地としての価額からマイナスしますが、
・土地の自用地としての価額(評価額)
・土地の通常の取引価額(時価)
の2つが異なる場合は、マイナスする金額を調整します。
計算例
1、権利金や特別の経済的な利益の額(借りている人の負担額) 2,500万円
2、土地の自用地としての価額(評価額) 1億円
3、借地権の設定時における土地の通常の取引価額(時価) 1億2,500万円
土地の自用地としての価額から控除すべき金額
2,500万円×80%(=1億円÷1億2,500万円)=2,000万円
土地の時価は、1億2,500万円です。
評価により1億円に下がっている(80%評価)ため、
土地の自用地としての価額からマイナスする金額も80%評価されます。
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参考情報
相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/850605/01.htm
