今回は、相続により取得した有価証券等の取得費の額に変更があつた場合等の修正申告の特例のうち、国外転出した人が亡くなった場合を確認してみましょう。
国外転出した場合
以前、相続により取得した有価証券等の取得費の額に変更があつた場合等の修正申告の特例について確認しました。
一部省略した次の2つを確認してみましょう。
・次の各号に掲げる場合
・それぞれ次の各号に定める日
各号は、1号と2号の2つ。まず1号を確認してみましょう。
国外転出時課税については、株式を売却したと仮定して所得税を計算する特例です。そのため、実際に株式を売却したときに2重計算にならないようにするため、株式を買った金額を修正する規定が用意されています。
原則として株式を買った金額の修正ができますが、修正できない場合があります。
規定を確認してみましょう。
所得税法第60条の2第4項ただし書き
「ただし、同日の属する年分の所得税につき確定申告書の提出及び決定がされていない場合における当該有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引、同日の属する年分の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上第一項各号、第二項各号又は前項各号に掲げる場合の区分に応じ第一項各号、第二項各号又は前項各号に定める金額が総収入金額に算入されていない有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引並びに第六項本文(第七項の規定により適用する場合を含む。)の規定の適用があつた有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引については、この限りでない。」
国外転出した年分の所得税について、
1、確定申告書の提出等がされていない場合
2、株式の売却収入として計算されていない場合
3、5年以内に亡くなり国外転出時課税の対象となった株式が相続され、株式を受け取った相続人の全てが居住者となった場合等
3の要件を満たして、国外転出時課税の取り消しを選んだ場合については、株式を買った金額の修正の対象外となります。
更正の請求がある場合の具体例
数字を使って確認してみましょう。
国外転出したA
・株式を買った金額 100
・国外転出時課税の時価 150
国外転出した時の価額で、株式を売却したと仮定して売却損益を計算します。
売却損益の計算 150-100=50
売却損益の2重計算を避けるため、株式を買った金額を100から150に修正します。
その後、国外転出した日から5年以内にAが亡くなりました。
Aが持っていた株式は、日本に住んでいるBに相続されました。
株式を受け取ったB
・Aが株式を買った金額150を引き継ぎます。
・実際の株式の売却収入 270
Bが株式を売却した場合、株式の売却損益を計算します。
売却損益の計算 270-150=120
亡くなったAの所得税について国外転出時課税の取り消しを選択した場合、株式を買った金額の修正の対象外となります。
そのため、Bの株式を買った金額が150から100に減少します。株式を買った金額が100に減少するため、売却損益の計算が変わります。
売却損益の計算 270-100=170
Bの売却益が120から170に増加しますので、「各号に定める日」から4月以内に修正申告と増加した儲けに対する所得税を納める必要があります。
各号に定める日は、2つあります。
亡くなった方の所得税について国外転出時課税の
・修正申告の特例により修正申告書を提出した日
・更正の請求の特例による更正があった日
国外転出時課税の取り消しを選択した場合、Aの売却益50がなくなるため、Aの所得税を減らす手続きが可能です。更正の請求といいます。
更正の請求はあくまでも請求ですので、更正の請求をした日ではなく、その請求が認められた日が基準日となります。
まとめ
亡くなったAの売却益、50→0、更正の請求の特例
株式を引き継いだBの売却益、120→170、修正申告の特例
参考規定
国外転出した人の国外転出時課税を取り消した場合に、株式を相続した相続人の株式を買った金額が減った場合、修正申告が必要です。
一 第六十条の二第四項ただし書の規定の適用により当該有価証券等の譲渡による事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費又は取得費として控除すべき金額が減少した場合 当該被相続人の所得税につき第百五十一条の二第一項(国外転出をした者が帰国をした場合等の修正申告の特例)の規定による修正申告書を提出した日又は第百五十三条の二第一項(国外転出をした者が帰国をした場合等の更正の請求の特例)の規定による更正の請求に基づく更正があつた日
所得税法第151条の4第1項第1号、施行日令和7年1月1日
おまけコーナー
亡くなった方が修正申告を選択して、相続した人も修正申告をする場合があります。修正申告も更正の請求も、株式ごとに行うものではなく、所得税全体で行うものですので、2人とも修正申告を行う場合もあるのでしょう。反対に2人とも更正の請求を行うこともありそうですね。