今回は、相続時精算課税の贈与税の計算を確認してみましょう。
もらった財産を合計する。
先に規定を確認してみましょう。
(相続時精算課税に係る贈与税の課税価格)
相続税法第21条の10、令和7年6月1日施行
第二十一条の十 相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した財産については、特定贈与者ごとにその年中において贈与により取得した財産の価額を合計し、それぞれの合計額をもつて、贈与税の課税価格とする。
財産をもらった人で相続時精算課税選択届書を提出した人を相続時精算課税適用者(例、子や孫)、相続時精算課税選択届出書に記載した贈与者を特定贈与者(例、父母、祖父母)といいます。
相続時精算課税は要件を満たせば、贈与する人を2人以上選択できます。
「特定贈与者ごとに」とありますので、財産を贈与した人ごとに贈与で受け取った財産を合計します。
例、特例贈与者ごとに合計
1、父(特定贈与者)からもらった財産の合計 1000万円+2000万円=3000万円
2、母(特定贈与者)からもらった財産の合計 1000万円+2000万円=3000万円
「それぞれの合計額」とありますので、1と2を合計します。
3000万円+3000万円=6000万円が課税される財産の金額となります。
暦年課税の特例が使えない。
相続時精算課税を選択すると、通常の贈与税(暦年贈与)の計算が使えなくなります。使えなくなる規定は、次の3つです。
・第21条の5、贈与税の基礎控除、60万円控除(110万円控除)
・第21条の6、贈与税の配偶者控除、2000万円控除
・第21条の7、贈与税の税率、最低10%~最高55%
参考規定
(適用除外)
相続税法第21条の11、令和7年6月1日施行
第二十一条の十一 相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した財産については、第二十一条の五から第二十一条の七までの規定は、適用しない。
相続時精算課税にも基礎控除がある。
相続時精算課税を選択すると暦年贈与の60万円(110万円)の基礎控除が使えなくなりますが、相続時精算課税を選択すると相続時精算課税の基礎控除(60万円→特例で110万円)が使えるようになります。
計算例
1、課税される財産の金額 3000万円
2、相続時精算課税の基礎控除 110万円
3、マイナスした後の財産の金額 2890万円
相続時精算課税は2人以上選択できるため、特定贈与者が2人以上いる場合は、相続時精算課税の基礎控除(110万円)をもらった財産の割合で按分します。
(110万円×2人=220万円には、なりません。)
例えば、次の場合で計算してみましょう。
1、父からもらった財産の合計 3000万円
2、母からもらった財産の合計 3000万円
3、合計 6000万円
父からもらった財産の割合は、50%(=3000万円÷(3000万円+3000万円))となりますので、父からもらった財産の基礎控除は、
相続時精算課税の基礎控除(110万円)×50%=55万円となります。
(母からもらった財産についても割合が同じなので55万円です。)
参考規定
(相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除)
相続税法第21条の11の2第1項、令和7年6月1日施行
第二十一条の十一の二 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、贈与税の課税価格から六十万円を控除する。
参考規定、特定贈与者が2人以上いる場合の基礎控除の計算
2 前項の相続時精算課税適用者に係る特定贈与者が二人以上ある場合における各特定贈与者から贈与により取得した財産に係る課税価格から控除する金額の計算については、政令で定める。
相続税法第21条の11の2第2項、令和7年6月1日施行
相続時精算課税の特別控除
先に規定を確認してみましょう。
(相続時精算課税に係る贈与税の特別控除)
相続税法第21条の12、令和7年6月1日施行
第二十一条の十二 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、特定贈与者ごとの前条第一項の規定による控除後の贈与税の課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除する。
一 二千五百万円(既にこの条の規定の適用を受けて控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)
二 特定贈与者ごとの前条第一項の規定による控除後の贈与税の課税価格
「特定贈与者ごとの前条第一項の規定による控除後の贈与税の課税価格」は、「110万円をマイナスした後の財産の金額」をいいます。
計算例、課税される財産の金額
1、父の計算 3000万円-基礎控除(55万円)=2945万円
2、母の計算 3000万円-基礎控除(55万円)=2945万円
相続時精算課税の特別控除は、1人つき2500万円です。ただし、過去に2500万円の特別控除でマイナスした金額がある場合は、2重にマイナスできません。特別控除は2回以上適用できますが、累計で2500万円が限度です。
計算例、相続時精算課税の特別控除
1、父の課税される財産の金額 2945万円-特別控除(2500万円)=445万円
2、母の課税される財産の金額 2945万円-特別控除(2500万円)=445万円
相続時精算課税の特別控除(2500万円)は、
・今回、特別控除を使用する金額
・過去、特別控除を使用した金額など
を贈与税の申告書(期限内)に記載する必要がありますので留意しましょう。
参考規定
2 前項の規定は、期限内申告書に同項の規定により控除を受ける金額、既に同項の規定の適用を受けて控除した金額がある場合の控除した金額その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り、適用する。
相続税法第21条の12第2項、令和7年6月1日施行
3 税務署長は、第一項の財産について前項の記載がない期限内申告書の提出があつた場合において、その記載がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載をした書類の提出があつた場合に限り、第一項の規定を適用することができる。
相続税法第21条の12第3項、令和7年6月1日施行
相続時精算課税の税率
相続時精算課税の税率は、20%です。
特定贈与者(例、父母、祖父母)ごとに
1、もらった財産の合計
2、基礎控除 110万円
3、特別控除 2500万円
4、1-2-3=課税される財産の金額×税率(20%)で贈与税を計算します。
計算例、贈与税の計算
1、父の課税される財産の金額 445万円×税率(20%)=89万円
2、母の課税される財産の金額 445万円×税率(20%)=89万円
参考規定
(相続時精算課税に係る贈与税の税率)
相続税法第21条の13、令和7年6月1日施行
第二十一条の十三 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税の額は、特定贈与者ごとに、第二十一条の十一の二第一項の規定による控除後の贈与税の課税価格(前条第一項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除後の金額)にそれぞれ百分の二十の税率を乗じて計算した金額とする。
参考リンク、国税庁、令和6年分贈与税の申告のしかた、7の申告書作成例(事例4や5)
・https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/zoyo/tebiki2024/01.htm