調整対象固定資産のインボイスを取得しなかった場合の考え方


今回は、調整対象固定資産のインボイスを取得しなかった場合を確認します。

調整対象固定資産の変更点

インボイスの取得の有無によって、
調整対象固定資産の判定が異なるのでしょうか?

定義を確認してみましょう。

(調整対象固定資産の範囲)
第五条 法第二条第一項第十六号に規定する政令で定める資産は、棚卸資産以外の資産で次に掲げるもののうち、当該資産に係る法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額の百十分の百に相当する金額、当該資産に係る同条第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額又は保税地域から引き取られる当該資産の課税標準である金額が、一の取引の単位(通常一組又は一式をもつて取引の単位とされるものにあつては、一組又は一式)につき百万円以上のものとする。

消費税法施行令、施行日令和5年10月1日

「課税仕入れに係る支払対価の額」の定義される規定の位置は変わりますが、
内容に変更はありません。

ニ 課税仕入れに係る支払対価の額(当該課税仕入れの対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。)に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。第三十二条第一項において同じ。)

消費税法30条8項1号ニ、施行日令和5年10月1日

課税仕入れに係る支払対価の額は、
税込みの購入金額を指します。

そのため、税込み金額×100÷110で計算した金額(税抜き金額)が
1つ100万円以上の場合は、調整対象固定資産に該当することになります。

インボイスの取得の有無は関係ありません。

インボイスを入手しなかった場合

調整対象固定資産を取得して消費税を支払ったが、
インボイスを入手できなかった場合、
原則として消費税の控除ができなくなります。

この場合、調整対象固定資産の消費税の調整は必要なのでしょうか?

答え
消費税の調整は、不要です。

変動調整の要件の1つに「課税仕入れ等の税額につき比例配分法により仕入れに係る消費税額を計算した場合」があります。

当該課税仕入れ若しくは特定課税仕入れ又は当該課税貨物に係る課税仕入れ等の税額につき比例配分法により仕入れに係る消費税額を計算した場合(第三十条第一項の規定により当該調整対象固定資産に係る課税仕入れ等の税額の全額が控除された場合を含む。)において、

消費税法33条1項、施行日令和5年10月1日

「課税仕入れ等の税額」とは、次の3つを指します。

1、課税仕入れに係る消費税額
2、特定課税仕入れに係る消費税額
3、保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額

同項の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額、特定課税仕入れに係る消費税額及び同項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額(以下この章において「課税仕入れ等の税額」という。)

消費税法30条1項、施行日令和5年10月1日

「課税仕入れに係る消費税額」は、
インボイス制度の導入に伴って定義が変わります。

課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。第九項において同じ。)又は適格簡易請求書(第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。第九項において同じ。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。以下この章において同じ。)

消費税法30条1項、施行日令和5年10月1日

インボイスが入手できない場合は、
原則として「課税仕入れに係る消費税額」がないため、

比例配分法や全額控除方式により計算できず、
調整対象固定資産の消費税の調整は不要となります。

経過措置がある場合

インボイスが取得できなかった場合であっても、
経過措置の要件を満たす場合は、
消費税の控除が80%(又は50%)認められます。

この場合も同様に、消費税の調整が不要となるのでしょうか?

答え
調整要件の1つを満たします。
(他の要件を満たした場合、調整が必要となります。)

経過措置の規定を確認してみましょう。

省略
当該課税仕入れに係る支払対価の額(同条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。次条第一項及び附則第五十三条の二において同じ。)に百十分の七・八(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等(新消費税法第二条第一項第九号の二に規定する軽減対象課税資産の譲渡等をいい、消費税法第七条第一項、第五条の規定による改正後の同法第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。第三項及び次条第一項において同じ。)に係るものである場合には、百八分の六・二四)を乗じて算出した金額に百分の八十を乗じて算出した金額を新消費税法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とみなして、同条の規定を適用する。以下省略

消費税法附則52条1項、施行日令和5年10月1日

経過措置の要件を満たす場合、
課税仕入れに係る支払対価の額(税込み金額)×7.8÷110で計算した金額に
80%をかけた金額を「課税仕入れに係る消費税額」として、
消費税の控除を計算します。

税込みの支払金額が110万円の場合、
110万円×7.8÷110=78,000円×80%=62,400円の消費税の控除が可能です。
(地方税を含めると80,000円です。)

経過措置の要件を満たす場合、
「課税仕入れに係る消費税額」があることになり、
比例配分法や全額控除方式により控除する消費税を計算することになるため、
調整要件の1つを満たすことになります。

課税事業者の強制期間が3年となる特例(3年縛り)の変更点

調整対象固定資産を取得した場合、
消費税の課税事業者の強制期間が2年から3年となる
特例(3年縛り)があります。

インボイスの取得の有無によって、取扱いは変わるのでしょうか?

答え
取扱いは変わりません。

現在の法令と新しい法令を確認しましたが、
変更箇所がないため、変わらないと考えられます。

3年縛りの特例の要件の1つに
「調整対象固定資産の課税仕入れ」があります。

調整対象固定資産と課税仕入れについては、
いずれもインボイスの取得の有無を限定していないため、
取扱いは変わらないのでしょうね。

インボイスの有無で取扱いが変わると、
次のような事実で判定が変わってしまうため、
「調整対象固定資産の課税仕入れ」の事実だけで
判定するのでしょうね。

・取得したインボイスを保存しなかった。
・取得したインボイスが正式なものではなかった。
・後から正式なインボイスを取得した等

インボイスの取得の有無による違い
特例インボイス
発行事業者から取得
以外の者から取得
課税事業者期間の
3年縛り
インボイスの取得の有無を限定していないため、関係する。同左
消費税の調整課税仕入れに該当し、消費税の控除を計算するため、関係する。課税仕入れに該当するが、消費税の控除を計算しないため、関係しない。経過措置の場合は、関係する。
インボイスの取得の有無による違い
参考、調整対象固定資産の調整となる要件

調整対象固定資産の変動調整の要件は、次の5つです。

1、課税事業者であること
2、国内で調整対象固定資産の課税仕入れ等を行うこと
3、比例配分法により控除する消費税を計算すること
4、第三年度の課税期間の末日に調整対象固定資産を有していること
5、課税売上割合が著しく増加、減少していること

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