譲渡制限付株式を対価とする費用の特例


今回は、譲渡制限付株式を対価とする費用の特例を確認してみましょう。

譲渡制限付株式を対価とする費用の特例

今回確認する規定は、こちらです。

第五十四条 内国法人が個人から役務の提供を受ける場合において、当該役務の提供に係る費用の額につき譲渡制限付株式(譲渡についての制限その他の条件が付されている株式(出資を含む。)として政令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)であつて次に掲げる要件に該当するもの(以下この項及び第三項において「特定譲渡制限付株式」という。)が交付されたとき(合併又は分割型分割に際し当該合併又は分割型分割に係る被合併法人又は分割法人の当該特定譲渡制限付株式を有する者に対し交付される当該合併又は分割型分割に係る合併法人又は分割承継法人の譲渡制限付株式その他の政令で定める譲渡制限付株式(第三項において「承継譲渡制限付株式」という。)が交付されたときを含む。)は、当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の政令で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額(次項及び第三項において「給与等課税額」という。)が生ずることが確定した日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。
一 当該譲渡制限付株式が当該役務の提供の対価として当該個人に生ずる債権の給付と引換えに当該個人に交付されるものであること。
二 前号に掲げるもののほか、当該譲渡制限付株式が実質的に当該役務の提供の対価と認められるものであること。

法人税法第54条第1項、令和7年6月20日施行

カッコ書き、第1号、第2号を省略してみましょう。

第五十四条 内国法人が個人から役務の提供を受ける場合において、当該役務の提供に係る費用の額につき譲渡制限付株式(注1、定義)であつて次に掲げる要件に該当するもの(注2、特定譲渡制限付株式)が交付されたとき(注3)は、

当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の政令で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額(注4、給与等課税額)が生ずることが確定した日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。

1つ目の要件

内国法人(当社)が
個人(例、取締役や従業員など)からサービスの提供を受ける場合です。

1つ目の要件は、新株予約権の特例と同じです。

2つ目の要件

サービスの提供費用につき、
譲渡制限付株式(注1)であつて、
次に掲げる要件に該当するもの(注2、特定譲渡制限付株式)が
交付されたとき(注3)です。

譲渡制限新株予約権が「譲渡制限付株式」に、
特定新株予約権が「特定譲渡制限付株式」に変わります。

要件を満たした場合の取扱いを見てみましょう。

当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の政令で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額(注4、給与等課税額)が生ずることが確定した日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。

その個人(取締役など)において
サービスの提供につき所得税法の規定等により
個人の所得(例、給与所得)の
収入とすべき金額(給与等課税額)の確定日に、
サービスの提供を受けたものとして、
法人税などの規定が適用されます。

新株予約権の特例は、「給与等課税事由」ですが、
譲渡制限付株式の特例は、「給与等課税額」に変わります。

個人の仕訳イメージ
 / 給与収入など ××円 ← 給与等課税額が確定した。

法人の仕訳イメージ
役務提供の費用 ××円 / ← サービスの提供を受けた。

通常の給料は、債務が確定しているものに限って損金の額に算入されます。上記の特例は、債務の確定ではなく、個人の「給与等課税額の確定日」を基準に法人税法等の規定が適用されることになります。

主な要件は、
1、譲渡制限付株式である。
2、次に掲げる要件(第1号と第2号)に該当するもの。
の2つです。

譲渡制限付株式

譲渡制限付株式(注1)のカッコ書きを見てみましょう。

譲渡制限付株式(譲渡についての制限その他の条件が付されている株式(出資を含む。)として政令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)

政令を確認してみましょう。

第百十一条の二 法第五十四条第一項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)に規定する政令で定める株式は、次に掲げる要件に該当する株式(出資を含む。第二号において同じ。)とする。
一 譲渡(担保権の設定その他の処分を含む。)についての制限がされており、かつ、当該譲渡についての制限に係る期間(次号において「譲渡制限期間」という。)が設けられていること。
二 法第五十四条第一項の個人から役務の提供を受ける内国法人又はその株式を発行し、若しくは同項の個人に交付した法人がその株式を無償で取得することとなる事由(その株式の交付を受けた同項の個人が譲渡制限期間内の所定の期間勤務を継続しないこと若しくは当該個人の勤務実績が良好でないことその他の当該個人の勤務の状況に基づく事由又はこれらの法人の業績があらかじめ定めた基準に達しないことその他のこれらの法人の業績その他の指標の状況に基づく事由に限る。)が定められていること。

法人税法施行令第111条の2第1項、令和7年4月1日施行

2つあります。

1つ目
・売却に制限がある。
・売却の制限期間(譲渡制限期間)がある。

2つ目

法第54条第1項の個人(サービスを提供する個人)から
役務の提供を受ける内国法人(当社)

又は

その株式を発行し、若しくは
同項の個人(サービスを提供する個人)に交付した法人

がその株式を無償(0円)で取得することとなる事由(注1)が定められている。

2つの要件を満たす譲渡制限付株式を「特定譲渡制限付株式」といいます。

事由のカッコ書きを確認してみましょう。

無償で取得することとなる事由(その株式の交付を受けた同項の個人が譲渡制限期間内の所定の期間勤務を継続しないこと若しくは当該個人の勤務実績が良好でないことその他の当該個人の勤務の状況に基づく事由又はこれらの法人の業績があらかじめ定めた基準に達しないことその他のこれらの法人の業績その他の指標の状況に基づく事由に限る。)

その株式の交付を受けた同項の個人(サービスを提供する個人)が
・譲渡制限期間内の所定の期間勤務を継続しないこと
・個人の勤務実績が良好でないこと
が例示です。

個人の勤務の状況に基づく事由が要件です。

次の規定は、「その他の」が2つあります。

これらの法人の業績があらかじめ定めた基準に達しないことその他の
これらの法人の業績その他の指標の状況に基づく事由

「これらの法人の業績その他の指標の状況に基づく事由」の1つの例が、「これらの法人の業績があらかじめ定めた基準に達しないこと」です。指標の例示が業績と読むのでしょう。

カッコ書きの最後に「限る。」とあるため、
法人が株式を無償(0円)で取得することとなる事由は、
1、個人の勤務の状況に基づく事由 又は
2、法人の指標の状況に基づく事由
に限定されることになります。

第1号要件と第2号要件

第1号を見てみましょう。

一 当該譲渡制限付株式が当該役務の提供の対価として当該個人に生ずる債権の給付と引換えに当該個人に交付されるものであること。

個人のサービス提供の対価として、
お金ではなく譲渡制限付株式が交付されるものです。

個人の仕訳イメージ
譲渡制限株式 / 給与収入 ← 給与等課税額の確定日まで0円評価

法人の仕訳イメージ
役務提供の費用 / 譲渡制限株式 ← 給与等課税額の確定日まで0円評価

第2号を見てみましょう。

二 前号に掲げるもののほか、当該譲渡制限付株式が実質的に当該役務の提供の対価と認められるものであること。

おまけ、所得税基本通達23~35共-5の3
(特定譲渡制限付株式等を交付された場合の所得の収入すべき時期等)

23~35共-5の3 交付法人から特定譲渡制限付株式等を交付された場合の当該特定譲渡制限付株式等に係る所得の収入金額の収入すべき時期は、当該特定譲渡制限付株式等の譲渡制限が解除された日(同日前に当該特定譲渡制限付株式等を交付された個人が死亡した場合において、当該個人の死亡の時に令第84条第2項第2号に規定する事由に該当しないことが確定している当該特定譲渡制限付株式等については、当該個人の死亡の日。23~35共-5の4及び48-1の2において同じ。)による。(令2課個2-12、課法11-3、課審5-6改正)

(注)
1 その確定した特定譲渡制限付株式等に係る所得の収入金額については、その死亡した個人の収入金額となることに留意する。
2 令第84条第2項第2号に規定する事由その他の事由により、交付法人が特定譲渡制限付株式等を無償で取得することとなった場合における当該特定譲渡制限付株式等については、課税しない。

「特定譲渡制限付株式等の譲渡制限が解除された日」に、給与所得の給与収入などが認識されます。
(譲渡制限が解除されるまで、給与所得の給与収入などが認識されません。)

注2について
「課税しない。」とあるのは、
特定譲渡制限株式等を無償で取得した法人の取扱いではなく、
特定譲渡制限株式等を交付された個人の所得税の取扱いです。

特定譲渡制限株式等には、特定新株予約権と同様に売却等に制限がかかっているため、評価されません。

おまけ2

以前確認した「新株予約権を対価とする費用の特例」が法人税法の第54条の2で、今回確認した「譲渡制限付株式を対価とする費用の特例」が法人税法の第54条です。

法人税法
・第54条、譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例
・第54条の2、新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等

規定のタイトルは、ほとんど同じです。
・対象となる資産が異なる。
・等の有無

等は、
・新株予約権が消えた場合の取扱い
・新株予約権を時価と異なる金額で取引した場合の差額
に関する規定なのでしょう。

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