貸手のフリーレント期間の消費税の取扱い


今回は、貸手のフリーレント期間の消費税の取扱いを確認してみましょう。

消費税の取扱い

フリーレント期間については、無償取引のため消費税がかからないと考えられますが、契約内容によって異なる課税関係も考えられそうです。

例えば、先に通常の課税売上げを計上して、フリーレントの条件を満たした場合に値引きすると考えた場合

1、フリーレント期間
売掛金 110万円 / 課税売上げ 110万円
(インボイスの発行義務あり)

2、フリーレントの条件達成
課税売上げの値引き 110万円 / 売掛金 110万円
(返還インボイスの発行義務あり)

と考えることもできます。

住宅の貸付けの場合は非課税取引に該当するため、インボイスの発行義務はなくなりますが、非課税取引の計上と非課税売上の値引き計上が必要となります。

質疑応答事例

気になったのは、フリーレントの条件を満たさない場合に違約金などとして処理するケースです。

上記については、フリーレントと直接関係はありませんが、質疑応答事例(違約入居者から受け取る割増賃貸料)の取扱いと似ているのではないかと考えています。

国税庁、質疑応答事例、違約入居者から受け取る割増賃貸料
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/02/23.htm

フリーレントの条件を満たさないことにより、損害賠償金や違約金などが発生したとしても、資産を貸している以上、実施的には資産の貸付けの対価に該当すると考えることが可能です。

この場合は、

1、フリーレント期間
売掛金 110万円 / 課税売上げ 110万円
(インボイスの発行義務あり)

で売上を計上しておいて、

2、フリーレント条件の未達
現預金 110万円 / 売掛金 110万円

とする方法が考えられます。

3、フリーレント条件を満たした場合
課税売上げの値引き 110万円 / 売掛金 110万円
(返還インボイスの発行義務あり)

となります。

借り手としては、

1、フリーレント期間
課税仕入れ 110万円 / 未払金など 110万円

2、フリーレント条件の未達
未払金 110万円 / 現預金 110万円

3、フリーレント条件を満たした場合
未払金など 110万円 / 課税仕入れの値引き 110万円

となります。

新しい法人税基本通達12の5-3-2(無償等賃借期間を含む賃貸借取引に係る支払額の損金算入)で、原則として上記のような処理が借り手は難しいと思いますが、貸し手が収益を認識した場合はインボイスが発行される可能性があるため、損金経理などを要件に認めてほしいと思います。

消費税の控除はどうなるか?

フリーレント期間を予定している建物の取得については、どうなるのでしょうか。

住宅の貸付け+フリーレント期間がある場合
フリーレント期間の有無に関係なく、居住用賃貸建物に該当し、消費税の控除はできないと考えられます。

事務所の貸付け+フリーレント期間がある場合
フリーレントを無償の貸付けと判断する場合は、
・課税売上げ
・消費税の課税対象外
の2つが混在することになるため、共通対応と判断されると不利です。

ただし、フリーレントが無償の貸付けではなく、
・課税売上げ
・課税売上げの値引き
と考えた場合、課税売上げ対応として判断できそうです。

参考情報

消費税法基本通達5-2-5、損害賠償金

(損害賠償金)
5-2-5 損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、例えば、次に掲げる損害賠償金のように、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する。
(1) 損害を受けた棚卸資産等が加害者(加害者に代わって損害賠償金を支払う者を含む。以下5-2-5において同じ。)に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金
(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金
(3) 不動産等の明渡しの遅滞により加害者から賃貸人が収受する損害賠償金


編集後記
インボイス制度、リース税制の改正、収益認識基準などを考慮した取扱いが公表されたらいいなと。

フリーレント期間を考慮した期間で按分する方法もありますが、この方法で按分した収益に基づいてインボイスを発行すると、結局借手の法人税と消費税で差が生じてしまうような気がします。

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