今回は、法人税の資産の評価損について確認します。
目次
損金不算入の理由
会計は、利害関係者に適正な財政状態と経営成績を報告するためにあります。
財政状態・・・今いくらの資産と負債を持っているのか。
経営成績・・・1年間でいくら儲けたのか損したのか。
そのため、会計では評価損の計上が認められています。
例えば、100万円で購入した資産の現在の価値が30万円の場合、
適正な報告のために70万円の評価損を計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
評価損 70万円 | 資産 70万円 |
税金計算では、この評価損の計上が原則として認められていません。評価損の計上基準が曖昧だからです。会計では費用計上されますので、税金計算上は損金不算入(所得に加算)の調整をします。
借方 | 貸方 |
---|---|
資産 70万円 | 評価損 70万円 (加算留保) |
例外として、要件を満たす場合は損金算入が認められています。
損金不算入(1項)
法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額をマイナスした場合には、そのマイナスした部分の金額は損金不算入となります。上記の場合、70万円が損金不算入となります。
評価換えにより損金不算入となった場合の帳簿価額は、マイナスされなかったものとして取扱います。会計上の帳簿価額は30万円、税金計算上の帳簿価額は100万円となります。
利益積立金額
内容 | 期首 | 減算 | 加算 | 期末 |
---|---|---|---|---|
有価証券 | 70万円 | 70万円 | ||
繰越損益金 | △70万円 | △70万円 |
災害等があった場合などの損金算入(2項)
災害による著しい損傷など一定の事実が生じた場合において、その資産の評価換えをして「損金経理」によりその帳簿価額をマイナスしたときは、そのマイナスした部分の金額のうち、その評価換え直前の帳簿価額(簿価)とその評価替えした日の属する事業年度終了時の価額(時価)との差額に達するまでの金額は、原則に関係なく、その評価替えをした事業年度の損金算入となります。
ポイントは次の3点です。
- 政令で定める事実が生じている。
- 損金経理が必要。
- 時価に達するまでの金額が限度。
政令で定める事実は省略します。資産の種類ごとに要件が定められています。
損金経理
確定した決算において、費用又は損失として経理することを「損金経理」といいます。評価損の計上基準は曖昧なため、評価損を計上する場合は損金経理による意思表示が必要です。
損金経理の例
借方 | 貸方 |
---|---|
評価損 80万円 (↑意思表示) | 資産 80万円 |
参考規定、損金経理の定義
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。二十五 損金経理 法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう。
法人税法2条
時価に達するまでの金額が限度
税務上の評価損の計上には限度があります。簿価100万円、時価30万円の資産の場合、限度額は70万円(=100万円-30万円)です。80万円の評価損を計上した場合であっても、税金計算上の評価損として認められる金額は限度額の70万円までです。70万円を超えた部分の10万円については損金不算入となります。法人が50万円の評価損を計上した場合は、50万円の損金算入となります。限度額の70万円との差額20万円を損金算入することはできません。
ーー簿価100万円
↓
↓ 最高70万円まで評価損が認められる。
↓
ーー時価30万円(評価損が認められる限度額)
|
ーー0円
再生計画認可の決定による評価替えがあった場合の損金算入(3項)
再生計画認可の決定があったことにより会社更生法などの規定に従って行う評価換えをしてその帳簿価額をマイナスした場合には、そのマイナスした部分の金額は、原則に関係なく、その評価換えした事業年度の損金算入となります。この規定については、損金経理要件と限度額要件がありません。
評定があった場合の損金算入(4項)
別途確認します。
完全支配関係がある法人の株式等は評価損禁止(5項)
2項、3項、4項の法人がこれらの法人との間に完全支配関係がある他の法人で政令で定めるものの株式等を有する場合におけるその株式等・これらの法人が通算法人である場合におけるこれらの法人が有する他の通算法人(注1)の株式等については、2項、3項、4項の規定は、適用しません。
2項、災害等があった場合の評価損の損金算入
3項、更生計画認可の決定があった場合の評価損の損金算入
4項、評定があった場合の評価損の損金算入
注1、損益通算の適用を受けない法人(法法64条の5)として政令で定める法人・通算親法人を除きます。
例えば、次のような場合
A法人(2項、3項、4項の法人、B株100%保有)
| 完全支配関係あり。
| B株については、評価損の規定は適用できません。
|
B法人
参考規定
5 前三項の内国法人がこれらの内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人で政令で定めるものの株式又は出資を有する場合における当該株式又は出資及びこれらの規定の内国法人が通算法人である場合におけるこれらの内国法人が有する他の通算法人(第六十四条の五(損益通算)の規定の適用を受けない法人として政令で定める法人及び通算親法人を除く。)の株式又は出資については、前三項の規定は、適用しない。
法人税法33条、資産の評価損
評価損が認められない株式の発行法人等(政令で定めるもの)
評価損禁止の対象となる法人は次の3つです。
上記のB法人が清算中の法人などの場合、B株の評価損が計上できません。
- 清算中の法人
- 合併解散以外の解散が見込まれる法人
- 法人(合併法人)でその法人(合併法人)との間に完全支配関係がある他の法人(被合併法人)との間で適格合併が見込まれるもの
評価損禁止から除外される法人(政令で定める法人)
初年度離脱通算子法人(法令24条の3、法令68条の3②)は、
評価損禁止から除外されています。
初年度離脱通算子法人は、逆の評価益禁止からも除外されています。
通算関係の取扱いは、通算関係の記事をご参照ください。
参考規定
(資産の評価損の計上ができない株式の発行法人等)
法人税法施行令68条の3、資産の評価損の計上ができない株式の発行法人等
第六十八条の三 法第三十三条第五項(資産の評価損)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる法人とする。
一 清算中の内国法人
二 解散(合併による解散を除く。)をすることが見込まれる内国法人
三 内国法人で当該内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人との間で適格合併を行うことが見込まれるもの
2 法第三十三条第五項に規定する政令で定める法人は、第二十四条の三(資産の評価益の計上ができない株式の発行法人等から除外される通算法人)に規定する初年度離脱通算子法人とする。
参考規定
(資産の評価益の計上ができない株式の発行法人等から除外される通算法人)
法人税法施行令条の3、資産の評価益の計上ができない株式の発行法人等から除外される通算法人
第二十四条の三 法第二十五条第四項(資産の評価益)に規定する政令で定める法人は、初年度離脱通算子法人(通算子法人で通算親法人との間に通算完全支配関係を有することとなつた日の属する当該通算親法人の事業年度終了の日までに当該通算完全支配関係を有しなくなるもの(当該通算完全支配関係を有することとなつた日以後二月以内に法第六十四条の十第六項第五号又は第六号(通算制度の取りやめ等)に掲げる事実が生ずることにより当該通算完全支配関係を有しなくなるものに限るものとし、他の通算法人を合併法人とする合併又は残余財産の確定により当該通算完全支配関係を有しなくなるものを除く。)をいう。)とする。
参考規定
第三十三条 内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
2 内国法人の有する資産につき、災害による著しい損傷により当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなつたことその他の政令で定める事実が生じた場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、前項の規定にかかわらず、その評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
3 内国法人がその有する資産につき更生計画認可の決定があつたことにより会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定に従つて行う評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、第一項の規定にかかわらず、その評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
4 省略(評定があった場合)
5 省略
6 第一項の規定の適用があつた場合において、同項の評価換えにより減額された金額を損金の額に算入されなかつた資産については、その評価換えをした日の属する事業年度以後の各事業年度の所得の金額の計算上、当該資産の帳簿価額は、その減額がされなかつたものとみなす。
7 省略(評定があった場合の手続き)
8 省略(評定があった場合の書類がなかった場合)9 前三項に定めるもののほか、第一項から第五項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
法人税法33条、資産の評価損