退職金にかかる住民税


今回は、退職金から天引きされる住民税の規定を確認します。

従業員が給料を受け取るときは、
給料から社会保険料、所得税、住民税が天引きされます。

退職金についても一定額を超える場合は、所得税や住民税が天引きされます。
先に結論をお伝えすると、退職金の住民税については特例により計算します。

今回は、退職金の住民税の考え方について確認するため、
住民税の具体的な計算方法については記載していません。

退職所得の課税の特例

退職金をもらった場合には、その退職金の住民税は原則(※1)に関係なく、退職金を他の所得と区分し、本目(退職所得の課税の特例、※2)の規定により、退職金を受け取った年の1月1日現在における、その人の住所所在の県(市)で発生します。

※1、地方税法
 第32条(所得割の課税標準)
 第35条(所得割の税率)
 第39条(個人の道府県民税の賦課期日)

※2、第3目、地方税法第50条の2から第50条の10まで

地方税法32条は、住民税計算の基礎となる所得(総所得金額、退職所得金額、山林所得金額の3つ)が規定されています。所得税は今年に発生した所得についてかかりますが、住民税は前年に発生したにかかります。

例えば、令和3年に退職金を受け取った場合は、所得税は令和3年分として発生しますが、住民税は令和4年分として発生します。退職金の特例では、前年ではなく、退職金をもらった年(上記の例では令和3年)に住民税がかかります。

地方税法35条は、住民税の税率(県税4%、市税6%)が規定されています。政令指定都市の場合は、県税2%、市税8%となります。退職金の特例では、県税4%と市税6%をあわせて10%で、上記と同じ税率です。ただし、政令指定都市の市税8%、県税2%のルールはありません。

税目原則退職所得の特例
県税4%(2%)4%
市税6%(8%)6%
個人住民税の税率

※カッコ内は政令指定都市の税率

地方税法39条は「住民税がかかる基準日は1月1日」と規定されています。例えば、令和3年1月31日にA県で給料と退職金をもらった後、令和3年2月28日にB県で給料をもらって、令和4年1月1日までB県で住んでいた場合、B県の住民税が発生します。A県の住民税とB県の住民税をそれぞれ計算する仕組みではありません。

退職金の特例では、退職金の基準日が前年ではなく当年となるため、給与は令和4年1月1日が基準日となりB県で、退職金は令和3年1月1日が基準日となりA県で、住民税がかかります。

その他

1_納入申告書の提出
 退職金に係る住民税の源泉徴収は、退職金を支払う人が行います。退職金を支払った人が住民税を徴収した場合は、徴収した住民税を納めるために納入申告書を市に提出します。

退職手当等に係る特別徴収税額納入内訳書の提出、神戸市
https://www.city.kobe.lg.jp/a35984/kurashi/tax/shikenminze/tokucho_taisyokuteate_nounyuuutiwakesyo.html

(納入申告書の提出)第五十条の五 分離課税に係る所得割の特別徴収義務者は、第四十一条第一項の規定により分離課税に係る所得割を徴収する場合には、総務省令で定める様式によつて、その徴収すべき分離課税に係る所得割の課税標準額、税額その他必要な事項を記載した納入申告書を、第三百二十八条の五第二項又は第三項の規定による納入申告書とあわせて、市町村長に提出しなければならない。

地方税法50条の5

2_特別徴収税額の計算
 基本的には、所得税と同じです。この計算は複雑ですので今回は省略します。

3_退職所得申告書の提出
 所得税の退職所得申告書と同じ用紙です。実際には市に提出せずに、退職金を支払った人が7年間保管します。

4_特別徴収税額票の取扱い
 退職金を支払った人は、1通を市に、1通を退職金を受け取った人に交付します。ただし、役員等以外の一般の従業員の退職金については、市に提出する必要はありません。この用紙は所得税の用紙と兼用になっています。

5_普通徴収による納付
 退職金から住民税が天引きしきれないときは、天引きしきれない部分を退職金をもらった人が自分で納付します。

損益通算、損失の繰越控除、所得控除の対象外

1年間に発生したある所得とある損失を
相殺することを「損益通算」といいます。
・損益通算=1年間のある所得-1年間の別の損失

また、本年の所得と過去の損失を
相殺することを「繰越控除」といいます。
・繰越控除=本年の所得-過去の損失

この損益通算や繰越控除をマイナスした後の所得から、支払った社会保険料をマイナスする一定の控除などを「所得控除」といいます。
・所得控除=上記特例をマイナスした後の所得-保険料控除など

これらの税金が少なくなる制度(損益通算、繰越控除、所得控除)が、
退職金の住民税を計算するときは使用できません。

退職金は合計所得金額に含まない。

退職金については、上記以外にも所得税と住民税で計算が異なるところがあります。住民税の場合、退職金の特例により他の所得と区分して住民税を計算するため、退職金が合計所得金額(給料や事業により得た所得を合計したもの)に含まれません。所得税の場合、住民税のような退職金の特例がないため、退職金が合計所得金額に含まれます。

退職金の所得税と住民税の比較
内容所得税住民税
合計所得金額含む含まない(※)
損益通算、繰越控除、
所得控除
計算対象計算対象外(※)
総所得金額等含む含まない(※)
申告の有無原則必要
申告不要制度あり
必要
所得税と住民税の比較

以上、退職金にかかる住民税について確認しました。
以下、退職所得が合計所得金額に含まれない理由(考え方が難しい)と
参考規定を載せています。

退職所得が合計所得金額に含まれない理由

(※)地方税法50条の2の規定で、「第32条、第35条及び第39条の規定にかかわらず、当該退職手当等に係る所得を他の所得と区分し、本目<第3目>に規定するところにより、」とあるため、32条(前年所得課税)の規定を使用できません。


所得割の課税標準、地方税法32条
第三十二条 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。


住民税の計算上、地方税法32条第1項の
・総所得金額
・退職所得金額
・山林所得金額
の合計額を「合計所得金額」と規定しています。

しかし、退職所得の課税の特例により「地方税法32条第1項」が使えないため、「地方税法32条第1項」の退職所得金額は0円になるのだと考えています。


地方税法23条、1項13号
十三 合計所得金額 第三十二条第八項及び第九項の規定による控除前の同条<地方税法32条>第一項の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額をいう。


所得の違いによる比較

退職所得以外の所得(原則)で使用する(前年所得課税)。
第1目(課税標準及び税率)、32条-38条
第32条(所得割の課税標準)
第35条(所得割の税率)
第39条(個人の道府県民税の賦課期日)

退職所得(特例)で使用する(本年所得課税)
第3目(退職所得の課税の特例)、50条の2-50条の10

参考規定

退職所得の課税の特例、地方税法第50条の2
 第二十四条第一項第一号の者が退職手当等(所得税法第百九十九条の規定によりその所得税を徴収して納付すべきものに限る。以下本目において同じ。)の支払を受ける場合には、当該退職手当等に係る所得割は、第32条、第35条及び第39条の規定にかかわらず、当該退職手当等に係る所得を他の所得と区分し、本目に規定するところにより、当該退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の一月一日現在におけるその者の住所所在の道府県において課する。

以下、通常の所得(退職所得以外)の取扱いに関する規定です。

所得割の税率、地方税法35条
第三十五条 所得割の額は、課税総所得金額、課税退職所得金額及び課税山林所得金額の合計額に、百分の四(所得割の納税義務者が地方自治法第二百五十二条の十九第一項の市(第三十七条及び第三十七条の二において「指定都市」という。)の区域内に住所を有する場合には、百分の二の標準税率によつて定める率を乗じて得た金額とする。この場合において、当該定める率は、同一の標準税率ごとに一の率でなければならない。

個人の道府県民税の賦課期日、地方税法39条
第三十九条 個人の道府県民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。

PAGE TOP