通算制度の外国税額控除の控除限度額の概要


今回は、通算制度の外国税額控除の「控除限度額」の概要を
確認します。細かい内容は省略しています。

控除限度額の計算イメージ

通算法人の控除限度額は、全体の法人税の合計額のうち、
通算法人(1社)の国外所得金額に対応するものとして
一定の方法で計算します。

例えば、全体の法人税が200、所得金額が1,000、
A社の調整国外所得金額400の場合、
控除限度額は、200×400÷1,000=80となります。

               調整国外所得金額 400
法人税額の合計額 200 × ———————————–
               所得金額の合計額 1,000

(参考)各法人の控除限度額の計算は、次の算式で計算します。

        調整国外所得金額
法人税額 × ————————–
        所得金額

通算法人に係る控除限度額の計算順序

算式を用いて確認します。
カッコ内の数字が規定の番号ですが、
実際の計算は下記の順番となります。

(3)所得金額
(4)調整前国外所得金額、(5)加算調整額、(6)調整金額
   ↓
(2)調整前控除限度額(調整国外所得金額、4-6の比で計算)
   ↓
(7)控除限度調整額(2の比で計算)
   ↓
(1)控除限度額
 控除限度額=調整前控除限度額(2)-控除限度調整額(7)

控除限度額の計算内容
(1)控除限度額

控除限度額=調整前控除限度額(2から)-控除限度調整額(7から)

調整前控除限度額はプラスの控除限度額、
控除限度調整額はマイナスの控除限度額です。

控除限度額の計算が通常の控除限度額の計算より複雑です。
理由はマイナスの金額です。

例えば、控除限度額を計算する金額を単純に全体で合計すると、
0やマイナスが生じる場合があるため、
プラスの金額とマイナスの金額を分けて計算して、
後でマイナスの金額をプラスの金額から控除します。

(2)調整前控除限度額

法人税額(全体)を所得金額(全体)で割って、
国外所得金額(各法人)をかけて、各法人の控除限度額を計算します。

調整前控除限度額(1へ)=1号×3号÷2号
1号=イ(各法人の法人税)+ロ(他の法人税)=全体の法人税
2号(分母)=イ(各法人の所得)+ロ(他の所得)=全体の所得
3号(分子)=調整国外所得金額(※)
(※)調整前国外所得金額(4から)-調整金額(6から)
調整前国外所得金額がマイナスの場合は、調整前国外所得金額とします。

              調整国外所得金額(3号)
法人税額の合計額(1号)×——————————————
              所得金額の合計額(2号)

(3)所得金額

法法57(欠損金の繰越し)、法法64条の5(損益通算)、法法64条の7(欠損金の通算)などを使用する前の所得金額です。(2)イと(2)ロで使用します。

通算制度の損益通算や欠損金の通算を使用する前の所得金額です。
実際には、課税所得を基礎として、
損金算入したものをプラスして所得金額を逆算します。

(4)調整前国外所得金額

各法人の控除限度額(2)の計算をする割合の分子の金額です。

次の順番で計算します。
1、加算前国外所得金額
=国外所得金額(※)▲非課税国外所得金額(プラス限定)
(※)(3)の損益通算などを使用しないで計算します。

2、調整前国外所得金額(2項3号に規定する)
加算前国外所得金額(5へ)+加算調整額(5から)
=調整前国外所得金額(6へ)


留意点
2項3号で使用する「調整前国外所得金額」は4項で定義されています。
4項の計算後の「調整前国外所得金額」は6項で定義されています。
6項で使用する「調整前国外所得金額」はどこにも定義されていないため、
同じ言葉ですが、4項の中で再定義しているのでしょうね。
参考規定はページ下に載せています。


国外所得金額から「非課税国外所得金額」をマイナスします。
国外で発生した所得であっても「非課税」であれば、
外国の法人税がかからず、2重課税が発生しないからです。

非課税国外所得金額をマイナスした後の金額を
「加算前国外所得金額」といいます。

この加算前国外所得金額を計算した後は、
次の(5)加算調整額を計算します。

加算前国外所得金額に(5)加算調整額をプラスして
調整前国外所得金額(2、3号、※へ)を計算します。

この調整前国外所得金額は「控除」ではなく、
「減算」と規定されているため、マイナスが生じます。

(5)加算調整額

加算調整額は、マイナスの非課税所得金額です。
非課税所得は2重課税が発生しないため、国外所得金額からマイナスします。

マイナスの非課税所得は、国外所得所得金額にプラスします。
(日本法人税は減って、外国法人税がかからないため、
非課税所得をマイナスすることと調整しているのでしょうね。)

加算調整額は、次の方法で計算します。
1、非課税国外所得金額(マイナス限定の合計額)と
非課税国外所得金額(プラス限定の合計額)を比較して
少ない金額を求めます。

2、1の少ない金額に次の割合をかけます。
          1号(各法人)
1の少ない金額 × —————————=加算調整額
          1号+2号(=全体)

1号=各法人の加算前国外所得金額(プラス限定)
2号=他の加算前国外所得金額(プラス限定)の合計額

マイナスの非課税国外所得金額を
加算前国外所得金額(プラス限定)の比で按分します。

(6)調整金額

調整金額は、次の方法で計算します。

1、ア>イの場合、ア-イ(超える部分の金額)を計算します。
 ア、調整前国外所得金額(2項3号)の合計
 イ、所得金額(2項2号、損益通算等の前)の合計×90%

2、超える部分に次の割合をかけます。

        1号(各法人)
超える部分 × —————————–=調整金額(2※へ)
        1号+2号(=全体)

1号=各法人の加算前国外所得金額(プラス限定)
2号=他の加算前国外所得金額(プラス限定)の合計額

仮に通算法人の所得金額の全てが国外所得金額だったとしても、最低でも所得金額の10%部分は日本法人が得たものと考えます。そのため、所得金額の90%を超える部分については、国外所得金額に含まれない規定となっています。

実際の国外所得金額が1,000であれば、国外所得金額1,000>所得金額1,000×90%=900となり、この超える部分100(=1,000-900)は、国外所得金額に含まれません。この100については、全体の金額のため、加算前国外所得金額(プラス限定)の比で按分計算します。

(7)控除限度調整額

控除限度調整額(1へ)とは、「マイナスの控除限度額」の合計額です。このマイナスの合計額を調整前控除限度額(プラス限定)の比で按分計算します。

            2号イ(各法人の調整前控除限度額)
控除限度調整額=1号×———————————————-
            2号 (全体の調整前控除限度額)


1号=他の「マイナスの調整前控除限度額」の合計額
2号=イ+ロ
 イ=調整前控除限度額(プラス限定)
 ロ=他の調整前控除限度額(プラス限定)の合計額

控除限度額のまとめ

1、調整国外所得金額を計算する。
 1、損益通算などを使用する前の所得金額からスタートする。
 2、2重課税とならない非課税所得金額をマイナスする。
 3、マイナスの非課税所得金額をプラスする。
 4、国外所得金額の割合が多い場合は、90%基準により所得を調整する。

2、調整前控除限度額を計算する。
 法人税合計を調整国外所得金額に応じて調整前控除限度額を計算する。

3、控除限度調整額を計算する。
 マイナスの控除限度額を2(プラスの控除限度額)の比で按分する。

4、控除限度額を計算する。
 2ー3で控除限度額を計算する。

今回は、控除限度額を確認しました。

仮に外国法人税>控除限度額の場合、
外国法人税が控除限度額を超えるため、控除限度超過額が生じます。

仮に外国法人税<控除限度額であれば、
使用しなかった控除の枠が余るため、控除余裕額が生じます。

計算の流れ(再掲)
(3)所得金額
(4)調整前国外所得金額
(5)加算調整額
(6)調整金額
   ↓
(2)調整前控除限度額(調整国外所得金額、4-6の比で計算)
   ↓
(7)控除限度調整額、(2の比で計算)
   ↓
(1)控除限度額
 控除限度額=調整前控除限度額(2)-控除限度調整額(7)

通知義務

外国税額控除は、全体計算します。
そのため、当初の確定申告書に記載した法人税等(※)と
修正申告や更正の後の法人税等が異なる場合は、
変更後の法人税等を他の通算法人に通知する義務があります。
(※)法人税、所得金額、非課税国外所得金額、加算前国外所得金額

以下、参考規定を載せています。

通算法人に係る控除限度額の計算
(法人税法69条14項、法人税法施行令148条)

14 通算法人の第一項の各事業年度(当該通算法人に係る通算親法人の事業年度終了の日に終了するものに限る。以下この項において「通算事業年度」という。)の第一項の控除限度額は、当該通算法人の当該通算事業年度の所得の金額につき第六十六条第一項、第三項及び第六項の規定(※)を適用して計算した金額並びに当該通算事業年度終了の日において当該通算法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人の当該終了の日に終了する各事業年度の所得の金額につき同条第一項、第三項及び第六項の規定(※)を適用して計算した金額の合計額のうち、当該通算法人の当該通算事業年度の国外所得金額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額とする。

法人税法69条

(※)
第66条第1項、各事業年度の所得に対する法人税の税率、23.2%
第66条第3項、公益法人等の税率、19%
第66条の6項、中小通算法人の税率の特例

調整前国外所得金額(法人税法施行令148条4項)

 第二項第三号に規定する調整前国外所得金額とは、法第五十七条、第六十四条の四、第六十四条の五、第六十四条の七及び第六十四条の八並びに租税特別措置法第五十九条の二、第六十七条の十二及び第六十七条の十三の規定を適用しないで計算した場合の法第六十九条第一項に規定する国外所得金額から外国法人税が課されない国外源泉所得に係る所得の金額(次項、第八項及び第九項において「非課税国外所得金額」という。)のうち零を超えるものを減算した金額(次項及び第九項において「加算前国外所得金額」という。)に、加算調整額を加算した金額(第六項において「調整前国外所得金額」という。)をいう。

法人税法施行令148条
通知義務(法人税法施行令148条9項)

 通算法人(通算法人であつた内国法人を含む。)は、当該通算法人の通算事業年度において、当該通算事業年度の法第七十四条第一項(確定申告)の規定による申告書に添付された書類に法人税額等(第二項第一号イに掲げる金額、同項第二号イに掲げる金額、非課税国外所得金額又は加算前国外所得金額をいう。以下この項において同じ。)として記載された金額と当該通算事業年度の法人税額等とが異なることとなつた場合には、他の通算法人に対し、その異なることとなつた法人税額等を通知しなければならない。

法人税法施行令148条
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