今回は、適格合併があった場合の利益積立金額を確認してみましょう。
利益積立金額
利益積立金額の計算規定を確認してみましょう。
(利益積立金額)
法人税法施行令第9条、令和7年4月1日施行
第九条 法第二条第十八号(定義)に規定する政令で定める金額は、同号に規定する法人の当該事業年度前の各事業年度(当該法人が公共法人に該当していた事業年度を除く。以下この条において「過去事業年度」という。)の第一号から第七号までに掲げる金額の合計額から当該法人の過去事業年度の第八号から第十四号までに掲げる金額の合計額を減算した金額に、当該法人の当該事業年度開始の日以後の第一号から第七号までに掲げる金額を加算し、これから当該法人の同日以後の第八号から第十四号までに掲げる金額を減算した金額とする。以下省略
算式に変えてみましょう。
1、過去事業年度の第1号から第7号までの合計額
2、過去事業年度の第8号から第14号までの合計額
3、事業年度の開始日以後の第1号から第7号までの金額
4、事業年度の開始日以後の第8号から第14号までの金額
5、利益積立金額 1-2+3-4
1から7までが加算項目、8から14までが減算項目です。
適格合併があった場合
適格合併があった場合は、第2号の加算項目です。利益積立金額が被合併法人から合併法人に引き継がれます。
参考規定を確認してみましょう。
二 当該法人を合併法人とする適格合併により当該適格合併に係る被合併法人から移転を受けた資産の当該適格合併の日の前日の属する事業年度終了の時の帳簿価額(当該適格合併に基因して第六号に掲げる金額が生じた場合には、当該金額に相当する金額を含む。)から当該適格合併により当該被合併法人から移転を受けた負債の当該終了の時の帳簿価額並びに当該適格合併に係る前条第一項第五号に掲げる金額、同号に規定する増加資本金額等及び同号に規定する抱合株式の当該適格合併の直前の帳簿価額の合計額を減算した金額(当該法人を合併法人とする適格合併に係る被合併法人が公益法人等である場合には、当該被合併法人の当該適格合併の日の前日の属する事業年度終了の時の利益積立金額に相当する金額)
法人税法施行令第9条第2号、令和7年4月1日施行
カッコ書きを外してみましょう。
当該法人を合併法人とする適格合併により当該適格合併に係る被合併法人から移転を受けた資産の当該適格合併の日の前日の属する事業年度終了の時の帳簿価額(注1)から当該適格合併により当該被合併法人から移転を受けた負債の当該終了の時の帳簿価額並びに当該適格合併に係る前条第一項第五号に掲げる金額、同号に規定する増加資本金額等及び同号に規定する抱合株式の当該適格合併の直前の帳簿価額の合計額を減算した金額(注2)「法人を合併法人とする」とあるため、合併法人の利益積立金額を計算する規定です。
「適格合併により」とあるため、適格合併でない合併(非適格合併)は対象外です。
続きを算式に変えてみましょう。
1、当該適格合併に係る被合併法人から移転を受けた資産の当該適格合併の日の前日の属する事業年度終了の時の帳簿価額(注1)
2、当該適格合併により当該被合併法人から移転を受けた負債の当該終了の時の帳簿価額並びに当該適格合併に係る前条第一項第五号に掲げる金額、同号に規定する増加資本金額等及び同号に規定する抱合株式の当該適格合併の直前の帳簿価額の合計額
3、利益積立金額の加算額 1-2
1は、被合併法人の資産の帳簿価額(1,500)です。
2は、次の4つの合計額です。
1、負債の帳簿価額 200
2、第8条第1項第5号に掲げる金額(資本金等の額の加算額) 200
3、第5号に規定する増加資本金額等 500
4、第5号に規定する抱合株式の適格合併直前の帳簿価額 100
合併法人の仕訳イメージ
資産(簿価) 1,500 / 負債(簿価) 200
/ 増加資本金額等(第5号) 500
/ 抱合株式(第5号) 100
/ 資本金等の額の加算額(第5号) 200
/ 利益積立金額の加算額 500
利益積立金額を計算するためには、資本金等の額の加算額(第5号)を先に計算する必要があります。
被合併法人が公益法人等の場合
金額(注2)のカッコ書きを確認してみましょう。
金額(当該法人を合併法人とする適格合併に係る被合併法人が公益法人等である場合には、当該被合併法人の当該適格合併の日の前日の属する事業年度終了の時の利益積立金額に相当する金額)被合併法人が「公益法人等」の場合は、被合併法人の利益積立金額が合併法人の利益積立金額の加算額となります。
公益法人等については、
1、収益事業の資産・負債(利益積立金額がある)
2、非収益事業の資産・負債(利益積立金額がない)
の2つがあります。
合併すると1と2を一緒に引き継ぎます。上記で確認した規定で計算できないため、被合併法人の利益積立金額をそのまま引き継ぎます。
被合併法人の収益事業の資産や負債が合併法人の非収益事業の資産や負債になる場合や反対の場合もあるのでしょう。この場合であっても利益積立金額は、そのまま引き継ぎます。
第5号の最後に
・被合併法人の全て
・合併法人
が資本や出資を有しない法人である場合は、資本金等の額の加算額(第5号)は、0円とする規定があります。
参考情報
利益積立金額の定義
(定義)
法人税法第2条第18号、令和7年6月20日施行
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十八 利益積立金額 法人の所得の金額で留保している金額として政令で定める金額をいう。
メモ
帳簿価額(注1)のカッコ書きを確認してみましょう。
帳簿価額(当該適格合併に基因して第六号に掲げる金額が生じた場合には、当該金額に相当する金額を含む。)第6号は、利益積立金額の加算額です。
六 通算法人が第百十九条の三第五項に規定する他の通算法人の株式又は出資を有する場合において、当該他の通算法人について同項に規定する通算終了事由が生ずるときの同項に規定する簿価純資産不足額に相当する金額から同項に規定する簿価純資産超過額に相当する金額を減算した金額
法人税法施行令第9条第6号、令和7年4月1日施行
第119条の3は、「移動平均法を適用する有価証券について評価換え等があつた場合の一単位当たりの帳簿価額の算出の特例」です。
要件1
通算法人が他の通算法人の株式等を有する。
要件2
他の通算法人について通算終了事由が生ずる。
要件を満たす場合に
1、簿価純資産不足額 500
2、簿価純資産超過額 200
3、1-2=300が資産の帳簿価額に含まれます。
(含まれるため、資産の帳簿価額から除外しません。)
合併があった場合
資産(簿価) 1,500 / 負債(簿価) 200
(第6号+300) / 増加資本金額等(第5号) 500
/ 抱合株式(第5号) 100
/ 資本金等の額の加算額(第8条第1項第5号) 200
/ 利益積立金額の加算額(第9条第5号) 500
通算終了事由
1、簿価純資産不足額 500
2、簿価純資産超過額 200
3、1-2 利益積立金額の加算額(第6号) 300
適格合併に基因して利益積立金額が増える場合は、増えた後の利益積立金額を合併法人に引き継ぐという意味なのでしょう。
