今回は、配偶者の相続税が減る特例のうち、財産を隠した場合を確認してみましょう。
規定の確認
先に規定を確認してみましょう。
5 第一項の相続又は遺贈により財産を取得した者が、隠蔽仮装行為に基づき、第二十七条の規定による申告書を提出しており、又はこれを提出していなかつた場合において、当該相続又は遺贈に係る相続税についての調査があつたことにより当該相続税について更正又は決定があるべきことを予知して期限後申告書又は修正申告書を提出するときは、当該期限後申告書又は修正申告書に係る相続税額に係る同項の規定の適用については、同項第二号中「相続税の総額」とあるのは「相続税の総額で当該相続に係る被相続人の配偶者が行つた第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額を当該財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格に含まないものとして計算したもの」と、「課税価格の合計額のうち」とあるのは「課税価格の合計額から当該相当する金額を控除した残額のうち」と、同号イ中「課税価格の合計額」とあるのは「課税価格の合計額から第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額(当該配偶者に係る相続税の課税価格に算入すべきものに限る。)を控除した残額」と、同号ロ中「課税価格」とあるのは「課税価格から第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額(当該配偶者に係る相続税の課税価格に算入すべきものに限る。)を控除した残額」とする。
相続税法第19条の2第5項、令和6年4月1日施行
要件は、次の4つです。
1、亡くなった方の財産を相続などにより取得した人が「隠ぺい仮装行為」をしている。
2、相続税の確定申告書を申告期限内に提出している。
または、相続税の確定申告書を申告期限内に提出していない。
3、相続税の調査がある。
4、確定申告済の場合の更正や確定申告をしていない場合の決定があることを知り、
・期限後申告書
・修正申告書
を提出する。
上記4つの要件を満たす場合は、配偶者の相続税が減る特例(配偶者に対する相続税額の軽減)を読み替える必要があります。
読替後の規定
実際に読み替えてみましょう。
一 当該配偶者につき第十五条から第十七条まで及び前条の規定により算出した金額
二 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額で当該相続に係る被相続人の配偶者が行つた第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額を当該財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格に含まないものとして計算したものに、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額が当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額から当該相当する金額を控除した残額のうちに占める割合を乗じて算出した金額
イ 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額から第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額(当該配偶者に係る相続税の課税価格に算入すべきものに限る。)を控除した残額に民法第九百条(法定相続分)の規定による当該配偶者の相続分(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続分)を乗じて算出した金額(当該被相続人の相続人(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人)が当該配偶者のみである場合には、当該合計額)に相当する金額(当該金額が一億六千万円に満たない場合には、一億六千万円)
ロ 当該相続又は遺贈により財産を取得した配偶者に係る相続税の課税価格から第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額(当該配偶者に係る相続税の課税価格に算入すべきものに限る。)を控除した残額に相当する金額
1号の金額(特例を適用する前の相続税)は、変わりません。
2号の金額は、配偶者の軽減額です。
「A、当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額で当該相続に係る被相続人の配偶者が行つた第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額を当該財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格に含まないものとして計算したもの」×「B、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額が当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額から当該相当する金額を控除した残額のうちに占める割合」
Bの次に掲げる金額は、イとロです。
イ、当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額-第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額(当該配偶者に係る相続税の課税価格に算入すべきものに限る。)を控除した残額×民法第九百条(法定相続分)の規定による当該配偶者の相続分(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続分)を乗じて算出した金額(当該被相続人の相続人(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人)が当該配偶者のみである場合には、当該合計額)に相当する金額(当該金額が一億六千万円に満たない場合には、一億六千万円)
ロ 当該相続又は遺贈により財産を取得した配偶者に係る相続税の課税価格-第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額(当該配偶者に係る相続税の課税価格に算入すべきものに限る。)を控除した残額に相当する金額
算式で確認してみましょう。
A(全ての財産-隠ぺい仮装分で計算した相続税の合計)×B(減額割合)
B(減額割合)=
C(次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額)÷
D(配偶者が取得した財産-隠ぺい仮装分)
次に掲げる金額は、イとロです。
イ、(全ての財産-隠ぺい仮装分)×配偶者の法定相続分
(ただし、最低1億6000万円)
ロ、配偶者が取得した財産-隠ぺい仮装分
まとめ
1、隠ぺい仮装の財産の金額をマイナスして、相続税の総額(全体)を求めます。
2、減額割合の計算についても、隠ぺい仮装の財産の金額をマイナスします。
配偶者以外の人が財産を隠した場合
配偶者以外の人(例えば、子)が財産を隠した場合は、どうなるでしょうか?
隠ぺい仮装行為の定義を確認してみましょう。
6 前項の「隠蔽仮装行為」とは、相続又は遺贈により財産を取得した者が行う行為で当該財産を取得した者に係る相続税の課税価格の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装することをいう。
相続税法第19条の2第6項、令和6年4月1日施行
「相続又は遺贈により財産を取得した者が行う行為」とあり、財産を隠した人については限定されていないため、配偶者以外の人が財産を隠した場合も今回確認した特例(隠ぺい仮装分を除外して計算)が適用されます。
参考情報など
参考情報
・相続税法基本通達、19の2-7の2
・相続税、質疑応答事例、隠蔽又は仮装に係る財産があった場合の配偶者に対する相続税額の軽減
財産を隠した人と財産を取得した人が異なる場合について
例えば、
1、配偶者が財産を隠した場合、配偶者が財産を取得(税額軽減あり)
2、配偶者が財産を隠した場合、子が財産を取得
3、子が財産を隠した場合、配偶者が子が取得(税額軽減あり)
4、子が財産を隠した場合、子が財産を取得
質疑応答事例では、上記の3が公表されています。
子が財産を隠していますので、第2号の「当該相続に係る被相続人の配偶者が行つた第六項に規定する隠蔽仮装行為」には該当しません。配偶者ではないからです。ただし、イとロには該当することになります。
イ、第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額(当該配偶者に係る相続税の課税価格に算入すべきものに限る。)
ロ、第六項に規定する隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額(当該配偶者に係る相続税の課税価格に算入すべきものに限る。)
配偶者が財産を取得した場合は、配偶者の相続税の課税価格に含まれるからです。