今回は、非居住者が株式等を相続した場合の納税猶予を確認してみましょう。
国外転出時課税と納税猶予
非居住者が株式等を相続すると株式の含み益に所得税がかかる場合があります。国外転出時課税といいます。
国外転出した場合の国外転出時課税には、所得税の支払いを先延ばしできる特例があります。納税猶予といいます。
非居住者が株式等を相続した場合の国外転出時課税にも、納税猶予が認められています。今回は、非居住者が株式等を相続した場合の納税猶予を確認してみましょう。
相続した場合の納税猶予
相続した場合の納税猶予は、贈与した場合の納税猶予とほとんど同じです。
納税猶予ができる人は、非居住者に次の3つの資産(対象資産)
・有価証券等
・未決済の信用取引等
・未決済のデリバティブ取引
を相続させた個人で国外転出時課税の対象となる人(適用被相続人等)の全ての相続人です。
国外転出時課税の対象となる人は、原則として対象資産を1億円以上持っている人です。
相続だけではなく、
・遺贈
・贈与した人が亡くなったことにより効力が生ずる贈与
も納税猶予の対象となります。
亡くなった人の所得税は、相続人が支払う必要があります。この所得税のうち、確定申告期限までに売却や決済していない部分(適用相続等資産)について納税猶予が選択できます。
確定申告期限までに売却や決済した部分については、手許にお金が残るため納税猶予が選択できませんので注意しましょう。
納税猶予は、確定申告期限までに担保の提供が必要です。また、確定申告期限までに対象資産を取得した全ての非居住者が納税管理人の届出をする必要があります。
納税猶予の要件を満たす場合、相続した日から「相続等満了基準日」の翌日以後4月を経過する日まで、所得税の支払いの先延ばしが可能です。
相続等満了基準日とは、相続の開始日から5年を経過する日をいいます。財産を受け取った人が日本に帰国等をする場合は、その帰国等をした日となります。
参考規定
相続や遺贈により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予
2 相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下この項において同じ。)により非居住者に移転した対象資産につき第六十条の三第一項から第三項までの規定の適用を受けた者(第四項において「適用被相続人等」という。)の全ての相続人が当該相続の開始の日の属する年分の所得税で第百二十九条(死亡の場合の確定申告による納付)の規定により納付すべきものの額のうち、当該対象資産(当該年分の所得税に係る確定申告期限(第百五十一条の五第一項(遺産分割等があつた場合の期限後申告等の特例)の規定による期限後申告書を提出する場合にあつては、同項に規定する提出期限。以下この項及び第七項において同じ。)まで引き続き有し、又は決済をしていないものに限る。以下この項、第六項及び第七項において「適用相続等資産」という。)に係る相続等納税猶予分の所得税額(第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した金額をいう。以下この項及び第四項において同じ。)に相当する所得税については、当該相続人が政令で定めるところにより当該相続等納税猶予分の所得税額に相当する担保を供し、かつ、当該年分の所得税に係る確定申告期限までに当該相続又は遺贈により当該対象資産を取得した非居住者の全てが政令で定めるところにより国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をした場合に限り、第百二十九条の規定にかかわらず、当該相続の開始の日から相続等満了基準日(当該相続の開始の日から五年を経過する日又は相続人帰国等の場合(第六十条の三第六項第一号又は第三号に掲げる場合その他政令で定める場合をいう。次項第一号において同じ。)に該当することとなつた日のいずれか早い日をいう。第六項において同じ。)の翌日以後四月を経過する日まで、その納税を猶予する。
所得税法第137条の3第2項、施行日令和7年1月1日
一 当該相続の開始の日の属する年分の第百二十条第一項第三号に掲げる金額(当該金額につき第百五十一条の六第一項(遺産分割等があつた場合の修正申告の特例)の規定による修正申告書の提出があつた場合には、その申告後の金額)
二 当該適用相続等資産につき第六十条の三第一項から第三項までの規定の適用がないものとした場合における当該相続の開始の日の属する年分の第百二十条第一項第三号に掲げる金額
おまけコーナー
納税が猶予できる所得税(1500万円)=第1号の金額-第2号の金額
第1号の所得税、実際に発生する所得税(4000万円)
第2号の所得税、適用相続等資産がないものとした場合の所得税(2500万円)
所得税法137条の3、納税猶予
第1項、贈与(亡くなったことにより効力が生ずる贈与を除く。)
第2項、相続や遺贈(亡くなったことにより効力が生ずる贈与を含む。)
贈与が発生した事由により適用される規定が異なります。
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