今回は、非居住者に有価証券等を贈与した場合と納税の猶予を受けている場合の再計算を確認してみましょう。
国外転出した場合
・国外転出した時に有価証券等を持っている場合の国外転出時課税
・非居住者に有価証券等を贈与した場合の国外転出時課税
この2つの特例は、似ています。
国外転出した時の国外転出時課税については、再計算の特例があります。特例の1つが、満了基準日までに有価証券等を売却した場合です。
この場合は、国外転出の時に計算した所得税を実際に有価証券等を売却した金額で再計算ができます。
参考リンク
・所得税の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算
・所得税の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算_7つの要件
この再計算の特例が非居住者に有価証券等を贈与した場合にも設けられています。長い規定ですので、上記の記事は2つに分けています。
非居住者に有価証券等を贈与した場合
要件を確認してみましょう。
要件の対象者は、2人います。
1、猶予適用贈与者から財産を受け取った人(受贈者)
2、猶予適用相続人
非居住者に有価証券等を贈与して国外転出時課税の対象となる人を「適用贈与者」といいます。この適用贈与者のうち、納税の猶予を受けている人を「猶予適用贈与者」といいます。
非居住者に有価証券等を移転した事由が相続の場合、亡くなった方が国外転出時課税の対象となります。「適用被相続人等」といいます。この適用被相続人等の相続人のうち、納税の猶予を受けている人を「猶予適用相続人」といいます。
贈与の場合は財産を渡した人(猶予適用贈与者)、相続の場合は財産を受け取った人(猶予適用相続人)が納税猶予の対象者となります。
要件の対象者が、納税猶予の基準日までに贈与等により受け取った有価証券等を売却した場合が要件となります。
基準日は、2つあります。
1、贈与の場合は、贈与満了基準日
2、相続の場合は、相続等満了基準日
贈与満了基準日は、次の2つのいずれか早い日です。
1、贈与の日から5年を経過する日
2、財産を受け取った人が帰国などをした日
相続等満了基準日は、次の2つのいずれか早い日です。
1、相続開始の日から5年を経過する日
2、財産を受け取った相続人が帰国などをした日
有価証券等の売却のほか、限定相続等で有価証券等を移した場合も対象となります。
限定相続等は、次の3つをいいます。
1、贈与
2、限定承認の相続
3、包括遺贈の限定承認の遺贈
2つ目の要件は、非居住者に有価証券等を贈与した時の価額が下がっていることです。
要件を満たせば、非居住者に有価証券等を贈与したときの所得税の計算を実際に有価証券等を売却したときの金額で所得税が再計算できます。
上記の取扱いは、
・未決済の信用取引
・未決済のデリバティブ取引
を実際に決済した場合についても同様です。
参考規定
納税猶予の基準日までに有価証券等を実際に売却した場合に、値下がりが発生しているときは、国外転出時課税の再計算が可能。
8 適用贈与者で第百三十七条の三第一項(同条第三項の規定により適用する場合を含む。次項において同じ。)の規定による納税の猶予を受けているもの(次項及び第十一項において「猶予適用贈与者」という。)の受贈者又は適用被相続人等の相続人で同条第二項(同条第三項の規定により適用する場合を含む。次項において同じ。)の規定による納税の猶予を受けているもの(第十一項及び第十二項において「猶予適用相続人」という。)が、その納税の猶予に係る基準日(同条第一項に規定する贈与満了基準日又は同条第二項に規定する相続等満了基準日をいう。次項において同じ。)までに、その贈与等により非居住者に移転があつた有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の譲渡(前条第八項に規定する譲渡をいう。以下この項及び第十項において同じ。)若しくは決済又は前条第八項に規定する限定相続等(以下この項から第十項までにおいて「限定相続等」という。)による移転をした場合において、当該譲渡に係る譲渡価額若しくは当該限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額又は当該決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額若しくは当該限定相続等に係る限定相続等時みなし信用取引等損益額若しくは限定相続等時みなしデリバティブ取引損益額が次に掲げる場合に該当するときにおける当該適用贈与者又は適用被相続人等の当該贈与等の日の属する年分の所得税に係る第一項から第三項までの規定の適用については、第一項中「その時における価額に相当する金額」とあるのは「当該有価証券等の第八項に規定する譲渡に係る譲渡価額又は限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額」と、第二項中「当該未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額」とあるのは「第八項に規定する決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額又は限定相続等時みなし信用取引等損益額」と、第三項中「当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額」とあるのは「第八項に規定する決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額又は限定相続等時みなしデリバティブ取引損益額」とすることができる。
所得税法第60条の3第8項、施行日令和6年6月12日
一 当該有価証券等の譲渡に係る譲渡価額又は限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額が当該贈与等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額(当該贈与等の時後に前条第八項第一号に規定する事由が生じた場合には、当該金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額。第十一項第一号において同じ。)を下回るとき。
二 当該未決済信用取引等の決済によつて生じた利益の額に相当する金額又は限定相続等時みなし信用取引等利益額が、贈与等時みなし信用取引等利益額(当該贈与等の時における第二項に規定する利益の額に相当する金額をいう。第四号並びに第十一項第二号及び第四号において同じ。)を下回るとき。
三 信用取引等損失額(当該未決済信用取引等の決済によつて生じた損失の額に相当する金額又は限定相続等時みなし信用取引等損失額をいう。次号において同じ。)が、贈与等時みなし信用取引等損失額(当該贈与等の時における第二項に規定する損失の額に相当する金額をいう。第十一項第三号において同じ。)を上回るとき。
四 信用取引等損失額が生じた未決済信用取引等につき、贈与等時みなし信用取引等利益額が生じていたとき。
五 当該未決済デリバティブ取引の決済によつて生じた利益の額に相当する金額又は限定相続等時みなしデリバティブ取引利益額が、贈与等時みなしデリバティブ取引利益額(当該贈与等の時における第三項に規定する利益の額に相当する金額をいう。第七号並びに第十一項第五号及び第七号において同じ。)を下回るとき。
六 デリバティブ取引損失額(当該未決済デリバティブ取引の決済によつて生じた損失の額に相当する金額又は限定相続等時みなしデリバティブ取引損失額をいう。次号において同じ。)が、贈与等時みなしデリバティブ取引損失額(当該贈与等の時における第三項に規定する損失の額に相当する金額をいう。第十一項第六号において同じ。)を上回るとき。
七 デリバティブ取引損失額が生じた未決済デリバティブ取引につき、贈与等時みなしデリバティブ取引利益額が生じていたとき。
有価証券等を実際に売却した場合の読み替え後
(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例)
第六十条の三 居住者の有する有価証券等が、贈与、相続又は遺贈(以下この条において「贈与等」という。)により非居住者に移転した場合には、その居住者の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、別段の定めがあるものを除き、その贈与等の時に、当該有価証券等の第八項に規定する譲渡に係る譲渡価額又は限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額により、当該有価証券等の譲渡があつたものとみなす。
未決済の信用取引等を実際に決済した場合の読み替え後
2 居住者が締結している未決済信用取引等に係る契約が、贈与等により非居住者に移転した場合には、その居住者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その贈与等の時に、第八項に規定する決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額又は限定相続等時みなし信用取引等損益額が生じたものとみなす。
未決済のデリバティブ取引を実際に決済した場合の読み替え後
3 居住者が締結している未決済デリバティブ取引に係る契約が、贈与等により非居住者に移転した場合には、その居住者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その贈与等の時に、第八項に規定する決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額又は限定相続等時みなしデリバティブ取引損益額が生じたものとみなす。