非居住者に株式等を贈与した場合の納税猶予と国税通則法など_その1


今回は、非居住者に株式等を贈与した場合の納税猶予と国税通則法などを確認してみましょう。

国税通則法と国税徴収法

所得税を含む国税の一般的な取扱いは、国税通則法や国税徴収法に規定されています。

税金の支払いを先延ばしできる納税猶予も国税通則法に規定されていますが、非居住者に株式等を贈与した場合の納税猶予は規定されていません。所得税固有の規定だからです。

そのため、非居住者に株式等を贈与した場合の納税猶予については、国税通則法や国税徴収法の取扱いを少し変えて適用することになります。

取扱いが変わる規定は、全部で6つ。
・第1号、延滞税の区分が必要
・第2号、非上場株式等の担保提供
・第3号、非上場株式等の処分条件
・第4号、利子税と時効
・第5号、納税猶予の期限は、延納の期限に含まれる。
・第6号、延納できない。

今回は、1から3までを確認してみましょう。

延滞税の区分が必要

期限までに税金を支払わなかった場合に延滞税がかかります。

非居住者に株式等を贈与した場合の納税猶予の延滞税については、
・納税猶予に関係しない延滞税
・納税猶予の延滞税
の2つを区分して計算する必要があります。

また、納税猶予の期限は事由(規定)によって異なるため、期限ごとに区分して計算する必要があります。

非上場株式等の担保提供

納税猶予には、担保が必要です。
読替後の規定を確認してみましょう。

(担保の種類)
第五十条 国税に関する法律の規定により提供される担保の種類は、次に掲げるものとする。
一 国債及び地方債
二 社債(特別の法律により設立された法人が発行する債券を含む。)その他の有価証券及び合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分(質権その他の担保権の目的となつていないことその他の財務省令で定める要件を満たすものに限る。)
以下省略

詳細は、所得税法施行規則を確認してみましょう。

7 法第百三十七条の三第十三項第二号の規定により読み替えて適用する国税通則法第五十条第二号(担保の種類)に規定する財務省令で定める要件は、前条第九項に規定する要件とする。

所得税法施行規則第52条の3第7項、施行日令和7年1月1日

要件は、国外転出した場合の要件(前条第9項)と同じです。

非上場株式等を担保として提供する場合は、次の要件を満たす必要があります。
・質権の設定がされていない。
・差押えがされていない。
・担保の設定や処分の制限がされていない。
・譲渡の制限が解除されている。

非上場株式等の処分条件

国税通則法の規定を読み替えてみましょう。

4 第一項の場合において、担保として提供された金銭又は担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税及び処分費に充ててなお不足があると認めるとき(所得税法第百三十七条の三第一項又は第二項(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定による納税の猶予の担保として同法第百三十七条の二第十一項第二号(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)に規定する非上場株式等が提供された場合には、当該認めるとき、又は当該非上場株式等を換価に付しても買受人がないとき)は、税務署長等は、当該担保を提供した者の他の財産について滞納処分を執行し、また、保証人がその納付すべき金額を完納せず、かつ、当該担保を提供した者に対して滞納処分を執行してもなお不足があると認めるときは、保証人に対して滞納処分を執行する。

担保に不足がある時の規定です。

不足している場合の条件について、「非上場株式等が担保に提供されている場合は、非上場株式等を買う人がいないとき」が追加されます。

国税徴収法の規定を読み替えてみましょう。

(超過差押及び無益な差押の禁止)
第四十八条 国税を徴収するために必要な財産以外の財産(所得税法第百三十七条の三第一項又は第二項(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定による納税の猶予の担保として同法第百三十七条の二第十一項第二号(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)に規定する非上場株式等が提供された場合において、当該非上場株式等を換価に付しても買受人がないときにおける当該担保を提供した同法第百三十七条の三第七項に規定する適用贈与者等の他の財産を除く。)、差し押えることができない。

財産の範囲から「非上場株式等を買う人がいない場合の適用贈与者等の他の財産」は差押え禁止から除外されます。

適用贈与者等は、次の2人です。
・非居住者に株式等を贈与した人
・相続や遺贈により株式等を受け取った非居住者
で国外転出時課税の納税猶予を受ける人をいいます。

所得税の支払いを先延ばしするために非上場株式等を担保として提供したが、非上場株式等の買い手がいなかった。この場合、非上場株式等以外の財産は、差し押さえの対象となります。

参考規定

非居住者に株式等を贈与した場合の納税猶予と国税通則法など

13 第一項の者又は第二項の相続人がこれらの規定の適用を受けようとし、又はこれらの規定による納税の猶予がされた場合におけるこの法律並びに国税通則法及び国税徴収法の規定の適用については、次に定めるところによる。
一 第一項又は第二項の規定の適用があつた場合における所得税に係る延滞税については、その所得税の額のうち納税猶予分の所得税額とその他のものとに区分し、更に当該納税猶予分の所得税額を第五号に規定する納税の猶予に係る期限が異なるものごとに区分して、それぞれの税額ごとに国税通則法の延滞税に関する規定を適用する。
二 第一項の規定の適用を受けようとする者又は第二項の規定の適用を受けようとする相続人が非上場株式等を担保として供する場合には、国税通則法第五十条第二号(担保の種類)中「有価証券で税務署長等(国税に関する法律の規定により国税庁長官又は国税局長が担保を徴するものとされている場合には、国税庁長官又は国税局長。以下この条及び次条において同じ。)が確実と認めるもの」とあるのは、「有価証券及び合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分(質権その他の担保権の目的となつていないことその他の財務省令で定める要件を満たすものに限る。)」とする。
三 第一項又は第二項の規定による納税の猶予を受けた所得税については、国税通則法第五十二条第四項(担保の処分)中「認めるときは、税務署長等」とあるのは「認めるとき(所得税法第百三十七条の三第一項又は第二項(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定による納税の猶予の担保として同法第百三十七条の二第十一項第二号(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)に規定する非上場株式等が提供された場合には、当該認めるとき、又は当該非上場株式等を換価に付しても買受人がないとき)は、税務署長等」と、国税徴収法第四十八条第一項(超過差押及び無益な差押の禁止)中「財産は」とあるのは「財産(所得税法第百三十七条の三第一項又は第二項(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定による納税の猶予の担保として同法第百三十七条の二第十一項第二号(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)に規定する非上場株式等が提供された場合において、当該非上場株式等を換価に付しても買受人がないときにおける当該担保を提供した同法第百三十七条の三第七項に規定する適用贈与者等の他の財産を除く。)は」とする。
四 以下省略

所得税法第137条の3第13項、施行日令和7年1月1日
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