今回は、非居住者に株式等を贈与した場合の納税猶予を受ける人が亡くなったときを確認してみましょう。
納税猶予を受けている人が亡くなった場合
国外転出すると株式等の含み益に所得税がかかります。実際に株式などを売却していないため、所得税の支払いの先延ばし(納税猶予)が可能です。
納税猶予の期間は、原則として5年4カ月。延長すると10年4カ月となり、猶予の期限が到来する前に個人が亡くなる場合があります。
個人が亡くなった場合、その相続人が猶予された所得税を支払う義務を引き継ぎます。
詳細は、所得税法施行令を確認してみましょう。
19 法第百三十七条の三第十五項の規定により納付の義務を承継した同項に規定する適用贈与者等の相続人(以下この条において「猶予承継相続人」という。)については、法第百三十七条の三第一項の規定の適用を受けた者又は同条第二項の規定の適用を受けた相続人とみなして、同条及びこの条の規定を適用する。
所得税法施行令第266条の3第19項、施行日令和7年1月1日
納付する義務を引き継いだ相続人を「猶予承継相続人」といいます。猶予承継相続人は、非居住者に株式等を贈与した場合の納税猶予を受けた人として取り扱われます。
猶予承継相続人が非居住者の場合
猶予承継相続人が非居住者の場合、相続が始まったことを知った日の翌日から4月以内に、納税管理人の届出が必要です。既に届出をしている場合は不要です。
参考規定
20 非居住者である猶予承継相続人は、既に国税通則法第百十七条第二項の規定による納税管理人の届出をしている場合を除き、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月以内に、同項の規定による納税管理人の届出をしなければならない。この場合において、第六項及び第七項の規定は当該届出をすべき非居住者である猶予承継相続人が二人以上あるときに当該納税管理人の届出をする場合について、法第百三十七条の三第八項、第九項及び第十四項(第三号に係る部分に限る。)の規定は当該納税管理人の届出が当該期限までに行われなかつた場合について、それぞれ準用する。
所得税法施行令第266条の3第20項、施行日令和7年1月1日
連署の義務と通知
おまけコーナーです。
上記の規定(所得税法施行令第266条の3第10項)の準用規定を確認してみましょう。
この内容は、国外転出する場合の納税猶予を受ける人が亡くなった場合の準用規定と同じです。
参考リンク
・国外転出する場合の納税猶予を受ける人が亡くなったとき
納税管理人の届出をしない場合
もう1つの準用規定を確認してみましょう。
・所得税法第137条の3第8項
非居住者に株式を贈与等をした場合の納税猶予を受けている人が更新しなかったことについてやむを得ない事情があるときは、後から更新手続きができます。
・所得税法第137条の3第9項
非居住者に株式を贈与等をした場合の納税猶予を受けている人が更新手続きをしなかったときは、猶予期限が繰り上がります。
・所得税法第137条の3第14項(第3号に係る部分に限る。)
非居住者に株式を贈与等をした場合の納税猶予を受けている人が更新手続きをしなかったときの利子税
上記3つの取扱いは、非居住者である猶予承継相続人が納税管理人の届出を期限までに提出しなかった場合に準用されます。
具体的には、納税管理人の届出を提出しないことについて、やむを得ない事情があるときは、後から納税管理人の届出をすることが可能です。また、納税管理人の届出をしなかったときは、猶予期限が繰り上がります。
参考規定
納税猶予分の税金を納める義務は、相続人が引き継ぐ。
15 第一項又は第二項の規定の適用に係る納税の猶予に係る期限までにその適用贈与者等が死亡した場合には、当該適用贈与者等に係る納税猶予分の所得税額に係る納付の義務は、当該適用贈与者等の相続人が承継する。この場合において、必要な事項は、政令で定める。
所得税法第137条の3第15項、施行日令和7年1月1日
納税管理人の届出は、原則として連署が必要。付記することも可能。
6 法第百三十七条の三第二項の規定による納税管理人の届出をする場合において、同項に規定する対象資産を取得した非居住者が二人以上あるときは、当該届出は、各非居住者が連署による一の書面で行わなければならない。ただし、当該取得した他の非居住者の氏名を付記して各別に行うことを妨げない。
所得税法施行令第266条の3第6項、施行日令和7年1月1日
連署しなかった場合の通知義務
7 前項ただし書の方法により同項の届出をした非居住者は、遅滞なく、当該取得した他の非居住者に対し、当該届出の際に提出した書面に記載した事項の要領を通知しなければならない。
所得税法施行令第266条の3第7項、施行日令和7年1月1日