今回は、所得税の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算を確認してみましょう。
再計算の要件
長い規定ですので分けて確認してみましょう。
(参考規定は最後に掲載)
1、対象者
・所得税の国外転出時課税の対象となっている。
・所得税の国外転出時課税の納税の猶予を受けている。
上記2つにあてはまる人が対象者です。
対象者には、納税猶予の延長を受けている人と相続人を含みます。
2、要件
・納税猶予の満了基準日までに国外転出の時から持っている有価証券等を売却した場合
が1つ目の要件です。
満了基準日とは、次の2つの日のいずれか早い日をいいます。
・国外転出の日から5年を経過する日
・帰国等の場合に該当する日
帰国等には、亡くなった場合とその他一定の場合が含まれます。
有価証券等の売却の他、限定相続等による移転も対象です。
限定相続等とは、次の3つをいいます。
・贈与
・限定承認の相続
・包括遺贈の限定承認の遺贈
3、要件
・有価証券等の売却収入や限定相続等が発生した時の有価証券等の価額が、7つの場合に該当するとき
が2つ目の要件です。
(長くなりますので7つの詳細は省略)
有価証券等の売却の他、
・未決済の信用取引等
・未決済のデリバティブ取引
の2つについても有価証券等と同じ取り扱いがあります。
再計算の内容
上記の要件を満たした場合、国外転出時課税の規定を読み替えることが可能です。
実際に読み替えてみましょう。
(太文字が読替後)
1、有価証券等の売却
(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
第六十条の二 国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいう。以下この条において同じ。)をする居住者が、その国外転出の時において有価証券又は第百七十四条第九号(内国法人に係る所得税の課税標準)に規定する匿名組合契約の出資の持分(株式を無償又は有利な価額により取得することができる権利を表示する有価証券で第百六十一条第一項(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得を生ずべきものその他の政令で定める有価証券を除く。以下この条から第六十条の四まで(外国転出時課税の規定の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例)において「有価証券等」という。)を有する場合には、その者の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その国外転出の時に、当該有価証券等の第八項に規定する譲渡に係る譲渡価額又は限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額により、当該有価証券等の譲渡があつたものとみなす。一 当該国外転出をする日の属する年分の確定申告書の提出の時までに国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をした場合、同項の規定による納税管理人の届出をしないで当該国外転出をした日以後に当該年分の確定申告書を提出する場合又は当該年分の所得税につき決定がされる場合 当該国外転出の時における当該有価証券等の価額に相当する金額
二 前号に掲げる場合以外の場合 当該国外転出の予定日から起算して三月前の日(同日後に取得をした有価証券等にあつては、当該取得時)における当該有価証券等の価額に相当する金額
2、未決済の信用取引等
2 国外転出をする居住者が、その国外転出の時において決済していない金融商品取引法第百五十六条の二十四第一項(免許及び免許の申請)に規定する信用取引又は発行日取引(有価証券が発行される前にその有価証券の売買を行う取引であつて財務省令で定める取引をいう。)(以下この条から第六十条の四までにおいて「未決済信用取引等」という。)に係る契約を締結している場合には、その者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その国外転出の時に、第八項に規定する決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額又は限定相続等時みなし信用取引等損益額が生じたものとみなす。一 前項第一号に掲げる場合 当該国外転出の時に当該未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額
二 前項第二号に掲げる場合 当該国外転出の予定日から起算して三月前の日(同日後に契約の締結をした未決済信用取引等にあつては、当該締結の時)に当該未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額
3、未決済のデリバティブ取引
3 国外転出をする居住者が、その国外転出の時において決済していない金融商品取引法第二条第二十項(定義)に規定するデリバティブ取引(以下この条から第六十条の四までにおいて「未決済デリバティブ取引」という。)に係る契約を締結している場合には、その者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その国外転出の時に、第八項に規定する決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額又は限定相続等時みなしデリバティブ取引損益額が生じたものとみなす。一 第一項第一号に掲げる場合 当該国外転出の時に当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額
二 第一項第二号に掲げる場合 当該国外転出の予定日から起算して三月前の日(同日後に契約の締結をした未決済デリバティブ取引にあつては、当該締結の時)に当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額
読み替える前の規定は、国外転出の時の価額で計算する規定です。読み替えると、第8項の譲渡収入や限定相続等の時の価額で計算できるようになります。
2024/12/10、一部訂正しました。
「次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額の利益の額又は損失の額」を読み替えた結果、次の各号などが消えると考えるのでしょうね。
参考規定
所得税の国外転出時課税の対象者が納税猶予を受けている場合の再計算
8 国外転出の日の属する年分の所得税につき第一項から第三項までの規定の適用を受けた個人で第百三十七条の二第一項(同条第二項の規定により適用する場合を含む。第十項において同じ。)の規定による納税の猶予を受けているもの(その相続人を含む。)が、その納税の猶予に係る同条第一項に規定する満了基準日までに、当該国外転出の時から引き続き有している有価証券等又は決済していない未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の譲渡(その譲渡の時における価額より低い価額によりされる譲渡その他の政令で定めるものを除く。以下この項及び次項において同じ。)若しくは決済又は限定相続等(贈与、相続(限定承認に係るものに限る。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)をいう。以下この項及び次項において同じ。)による移転をした場合において、当該譲渡に係る譲渡価額若しくは当該限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額又は当該決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額若しくは当該限定相続等の時に当該未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額若しくは損失の額に相当する金額(次条第八項において「限定相続等時みなし信用取引等損益額」という。)若しくは当該限定相続等の時に当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額若しくは損失の額に相当する金額(次条第八項において「限定相続等時みなしデリバティブ取引損益額」という。)が次に掲げる場合に該当するときにおける当該個人の当該国外転出の日の属する年分の所得税に係る第一項から第三項までの規定の適用については、第一項中「次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額」とあるのは「当該有価証券等の第八項に規定する譲渡に係る譲渡価額又は限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額」と、第二項中「次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額の利益の額又は損失の額」とあるのは「第八項に規定する決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額又は限定相続等時みなし信用取引等損益額」と、第三項中「次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額の利益の額又は損失の額」とあるのは「第八項に規定する決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額又は限定相続等時みなしデリバティブ取引損益額」とすることができる。
所得税法第60条の2第8項、施行日令和6年6月12日
一 以下省略
おまけ
規定の一部分を整理しました。
内容 | 譲渡と決済 | 限定相続等 |
---|---|---|
有価証券等 (第1項) | 譲渡 (当該譲渡に係る譲渡価額) | 限定相続等 (当該限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額) |
未決済の信用取引等 (第2項) | 決済 (当該決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額) | 限定相続等 「限定相続等時みなし信用取引等損益額」 |
未決済のデリバティブ取引 (第3項) | 決済 (当該決済によつて生じた利益の額若しくは損失の額) | 限定相続等 「限定相続等時みなしデリバティブ取引損益額」 |