非居住者に有価証券等を贈与した場合の所得税


今回は、非居住者に有価証券等を贈与した場合の所得税を確認してみましょう。

売却したものとして取り扱う特例

先に、売却していないものを売却したものとして取り扱う特例を確認してみましょう。

贈与などにより、
・山林
・不動産
・株式
・車両
等の価値があるものを法人に渡した場合は、渡した時の価額で売却したものとして取り扱われます。みなし譲渡といいます。

みなし譲渡の対象となる資産は、2つに限定されています。
1、事業所得に該当しない山林
2、譲渡所得の基因となる資産

個人に対する贈与については、みなし譲渡の対象外です。

贈与した場合の国外転出時課税

株式などを
・贈与
・相続
・遺贈
により非居住者(個人)に移した場合については、時価で売却したものとして取り扱われるため注意しましょう。

・未決済の信用取引等
・未決済のデリバティブ取引
の契約を贈与などにより非居住者に移した場合についても、贈与などの時に決済したものとして取り扱われます。

取扱いは、国外に転出した時に有価証券等を持っていた場合に売却したものとして取り扱う特例(国外転出時課税)とほとんど同じです。

贈与した場合の国外転出時課税がない場合

国外に転出した時については、
・有価証券等
・未決済の信用取引等
・未決済のデリバティブ取引
の合計額が1億円未満の場合、国外転出時課税の対象から外れます。
売却や決済したものとして取り扱われません。

贈与した時の判定も同じです。
3つの合計額が1億円未満の場合、国外転出時課税の対象から外れます。

1億円以上持っている場合であっても、贈与などの日からさかのぼって過去10年以内に日本に住所や居所があった期間が5年以下であれば、国外転出時課税の対象外となります。

限定承認があった場合

みなし譲渡の対象は、次の4つです。
・法人に対する贈与
・限定承認の相続
・法人に対する遺贈
・個人に対する限定承認の遺贈

非居住者に対して贈与した場合の国外転出時課税の対象は、次の3つです。
・贈与
・相続
・遺贈

国外転出時課税については限定承認かどうかの限定がありませんが、限定承認の場合は、みなし譲渡の対象となります。

参考、所得税基本通達

(非居住者である相続人等が限定承認をした場合)
60の3-1 居住者の有する有価証券等が、相続(限定承認に係るものに限る。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)により非居住者である相続人又は受遺者へ移転した場合には、法第60条の3第1項の規定の適用はなく、法第59条第1項第1号《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》の規定の適用を受けることに留意する。(平27課資3-2、課個2-7、課審7-6、徴管6-12追加)

規定からは読み取れない取扱いなので、通達があるのでしょう。

参考規定

有価証券等を贈与した場合の国外転出時課税

(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例)
第六十条の三 居住者の有する有価証券等が、贈与、相続又は遺贈(以下この条において「贈与等」という。)により非居住者に移転した場合には、その居住者の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、別段の定めがあるものを除き、その贈与等の時に、その時における価額に相当する金額により、当該有価証券等の譲渡があつたものとみなす。

所得税法第60条の3第1項、施行日令和6年6月12日

未決済の信用取引等を移転した場合の国外転出時課税

2 居住者が締結している未決済信用取引等に係る契約が、贈与等により非居住者に移転した場合には、その居住者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その贈与等の時に、当該未決済信用取引等を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額が生じたものとみなす。

所得税法第60条の3第2項、施行日令和6年6月12日

未決済のデリバティブ取引を移転した場合の国外転出時課税

3 居住者が締結している未決済デリバティブ取引に係る契約が、贈与等により非居住者に移転した場合には、その居住者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その贈与等の時に、当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額が生じたものとみなす。

所得税法第60条の3第2項、施行日令和6年6月12日

国外転出時課税が適用されない場合

5 前各項の規定は、贈与等の時に有している有価証券等並びに契約を締結している未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引の当該贈与等の時における有価証券等の価額に相当する金額並びに未決済信用取引等の第二項に規定する利益の額若しくは損失の額に相当する金額及び未決済デリバティブ取引の第三項に規定する利益の額若しくは損失の額に相当する金額の合計額が一億円未満である居住者又は当該贈与等の日前十年以内に国内に住所若しくは居所を有していた期間として政令で定める期間の合計が五年以下である居住者については、適用しない。

おまけ

居住者本人が、国外に転出した時に1億円以上の株式を持っていると、含み益に対して所得税がかかる特例があります。国外転出時課税といいます。

国外転出時課税の特例の前提は、国外に転出した時に株式を持っていることです。国外に転出する前に株式を贈与した場合は、国外転出時課税の対象から外れます。

株式を法人に贈与した場合は売却したものとして取り扱われますが、個人に贈与した場合は売却したものとして取り扱われません。

株式を受け取った人が居住者であれば、受け取った方で課税できますが、非居住者であれば受け取った方で課税できない場合があります。非居住者は、居住者と異なり、日本国内で発生した所得にしか所得税がかからないからです。

2つの国外転出時課税のまとめ

1、株式はそのままだけど、本人が国外に転出する(非居住者に変わる)場合は、日本国内にいた時に稼いだ利益や損失(含み損益)は、転出する前に精算する。

2、本人はそのままだけど、株式が国外に移転する(非居住者に渡す)場合は、日本国内にいた時に稼いだ利益や損失(含み損益)は、移転する前に精算する。

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