非居住者に有価証券等を贈与した場合の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算の準用


今回は、非居住者に有価証券等を贈与した場合の国外転出時課税と納税の猶予を受けている場合の再計算の準用を確認してみましょう。

読替規定

先に今回の内容をまとめます。

1、国外転出時課税の納税猶予を受けている場合の再計算の規定を納税猶予を受ける前であっても再計算できる。
2、納税猶予を受ける前であっても通知する義務がある。

という読替規定です。

今回確認する規定は、読替規定ですので先に規定を確認してみましょう。

10 前二項の規定は、次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める期限までに、その贈与等により非居住者に移転があつた有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の譲渡若しくは決済又は限定相続等による移転をした場合について準用する。この場合において、前項中「猶予適用贈与者から」とあるのは「次項第一号に規定する個人から」と、「受けた非居住者で当該猶予適用贈与者(その相続人を含む。以下この項において同じ。)からその贈与の日の属する年分の所得税につき第百三十七条の三第一項又は第二項の規定による納税の猶予を受けている旨及び当該納税の猶予に係る基準日の通知を受けたもの」とあるのは「受けた非居住者」と、「当該納税の猶予に係る基準日まで」とあるのは「同号に定める期限まで」と、「当該猶予適用贈与者に」とあるのは「当該個人に」と読み替えるものとする。
一 贈与の日の属する年分の所得税につき第一項から第三項までの規定の適用を受けるべき個人の受贈者 当該個人の同日の属する年分の所得税に係る確定申告期限
二 相続の開始の日の属する年分の所得税につき第一項から第三項までの規定の適用を受けるべき個人(当該譲渡若しくは決済又は限定相続等による移転の時において、当該個人から相続又は遺贈により有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた非居住者の全てが政令で定めるところにより国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしている場合における当該個人に限る。)の相続人 当該個人の同日の属する年分の所得税に係る確定申告期限

所得税法第60条の3第10項、施行日令和6年6月12日

前2項の規定は、第8項と第9項を指します。

第8項は、
・猶予適用贈与者から財産を受け取った人(受贈者)
・猶予適用相続人
の2人が納税猶予の基準日(満了する日)までに有価証券等を売却した場合について規定されています。

実際に売却があった場合は、売却した金額で国外転出時課税を再計算できます。

第9項は、国外転出時課税の再計算をするための通知義務が規定されています。

「次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める期限までに、」は、第1号と第2号に規定されています。後で確認してみましょう。

「その贈与等により非居住者に移転があつた有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の譲渡若しくは決済又は限定相続等による移転をした場合について準用する。」

とありますので、第1号と第2号に該当する人が第1号と第2号の期限までに、贈与等により受け取った有価証券等を売却した場合について準用(同じように適用)する必要があります。

第1号は贈与の場合

第1号は、贈与に関する規定です。

対象となる人は、贈与があった年分の所得税について、非居住者に有価証券等を贈与等をした場合の国外転出時課税を受けるべき個人(贈与した人)の「受贈者」です。

受贈者とありますので、財産を受け取った非居住者を指します。「受けるべき」というのは、まだ受けていないからです。

対象となる期限は、国外転出時課税の対象となるべき個人の所得税の確定申告期限(原則として翌年3月15日)になります。

第2号は相続の場合

第2号は、相続に関する規定です。

対象となる人は、相続が始まった年分の所得税について、非居住者に有価証券等を相続させた場合の国外転出時課税を受けるべき個人(被相続人)の「相続人」です。

相続人とありますので、財産を受け取った非居住者を指します。「受けるべき」というのは、まだ受けていないからです。

被相続人については、条件があります。

・有価証券等の売却
・未決済の信用取引等やデリバティブ取引の決済
・限定相続等
による移転時に、財産を受け取った非居住者の全員が納税管理人の届出をしている必要があります。

対象となる期限は、国外転出時課税の対象となるべき個人の所得税の確定申告期限(原則として亡くなった日から4月以内)です。

第8項と第9項の規定は、納税猶予を受けた後の内容ですので、納税猶予を受ける前であっても同様に再計算ができるようになっています。

通知義務

読替後の規定を確認してみましょう。

9 次項第一号に規定する個人から贈与により有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた非居住者(その相続人を含む。)が、当該有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約を、その贈与の日から同号に定める期限までの間に、譲渡若しくは決済又は限定相続等による移転をした場合には、その者は、その譲渡若しくは決済又は限定相続等の日(当該限定相続等に係る相続人にあつては、その相続の開始があつたことを知つた日)から二月以内に、当該個人に、当該有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の譲渡若しくは決済又は限定相続等による移転をした旨、その譲渡若しくは決済又は限定相続等による移転をした有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の種類、銘柄及び数その他参考となるべき事項を通知しなければならない。

「次項第一号に規定する個人」は、第10項第1号の個人を指します。第1号は贈与の取扱いですので、贈与した人を指します。

贈与した人から贈与により有価証券等を受け取った非居住者が、受け取った有価証券等を贈与の日から同号(=第1号)に定める期限までの間に~とあります。

第1号の期限は、贈与した人の所得税の確定申告期限です。

第9項の通知義務は、納税猶予を受けていることが前提となりますので、期限も納税猶予の基準日となります。

第10項で読み替えると納税猶予を受けていないことが前提となりますので、期限が国外転出時課税の対象となる人の所得税の確定申告期限に変わります。

通知を受ける人についても、納税猶予を受けていないことが前提となりますので、猶予適用贈与者から納税猶予を受けていない贈与をした人に変わります。

通知期限は、2月以内で変わりません。

贈与と相続の違い

以前考えた内容をまとめています。

国外転出時課税は、
・贈与
・相続
・遺贈
の3つ(合わせて贈与等)が対象となります。

国外転出時課税には、
第1項、贈与の場合(亡くなった場合を原因とする贈与を除く。)
第2項、相続・遺贈の場合(亡くなった場合を原因とする贈与を含む。)
の2つの納税猶予制度があります。

第8項の「非居住者に有価証券等を贈与した場合の国外転出時課税の再計算」については、贈与と相続が対象となります。遺贈や受遺者が明記されていないため読み取れませんが、相続に含まれると考えて対象になるのでしょう。

第9項の通知義務については、猶予適用贈与者とありますので贈与が対象ですが、対象となる納税猶予については贈与だけではなく相続や遺贈も含まれています。

以前、「猶予適用贈与者」は第1項の贈与の内容となりますので、猶予適用贈与者が第2項の相続と遺贈の納税猶予を受けることがある(できる)のだろうかと考えていました。レアケースですが、贈与と相続が同じ年に発生した場合は、2つの納税猶予を別々に受けることになるのでしょう。

第10項の対象者は、第1号と第2号の2つありますが、読替後の第9項の対象者は、「次項(第10項)第1号に規定する個人」の1人しか規定されていません。第2号の相続人は対象外です。

第8項の値下がりしたときの再計算は、贈与、相続、遺贈の3つが対象となりますが、第9項の通知は贈与の場合だけです。相続と遺贈の場合は有価証券等を受け取った人と売却した人が原則として同じなので通知義務が必要ないのでしょう。

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